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無職のパパが異世界転移してお家に帰るまで【第12話】

NFTart『Daddy-like kind』シリーズ
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前のお話
第11話『輝かしき軌跡』

真っ白なところにただ一人

 木をふんだんに使って作られたエントランスのような空間に出ると、さっきの耳の尖った可愛い雰囲気の受付のホブリンが興奮した様子で駆け寄ってきた。

「凄い戦いぶりでしたね! 一瞬であの歴戦の猛者の、アンナ・トンデモ選手を倒してしまうなんて、初めて見ました!!」
「ああ……、いやぁ、あれはそのー」

 手を握られてしどろもどろしていると、

「すまんのう。このバカ、王様のところに急遽行く事になったから、これで失礼するぞ」
「えっ? 王様にお呼ばれ!? 何て素晴らしい! さぞご高名な方なのですね!」
「えーっと、何かもっとややこしくなってない!? って、バカ言い過ぎ」

 ワシの一言で余計に目をキラキラさせはじめた受付のお姉さん(?)。

「賞金とかあるんじゃなかったか? すまんが、急遽呼ばれたものでな。このバカに渡しておいてもらえんか」
「あっ、承知しました。えーっと、今回のオッズはこのようになっていましたので、配当額はこちらです」

 カウンターに回り込んだ受付のお姉さんは、すぐに仕事モードに切り替わると、結構ずっしりとした布袋をくれた。

「重っ!」

 思わず声が出るくらいには重く、聞けばどうやら、対戦者のアンナ・トンデモ氏は9連勝中だったらしい。

 そこに咬ませ馬かと思われた俺が、大逆転のように一瞬で勝ってしまったから、賞金が膨れ上がったんだとか。

「良かったではないか。貰っておこう」

 思いがけない軍資金を得たわけだが、さて、何かむず痒いこの場所からおさらばだ!

 逃げるようにして俺は、闘技場を後にした。
 途中、色んなホブリンに声をかけられた気がしたけれど、急ぎ足で外にでると、砂埃の舞う街道を抜けて、人通りがほぼない広場のような場所に着いた。

「王様に呼ばれたって言ってたけど、急にどしたの?」

 俺はワシに訊いてみた。
 昨日だか宮廷魔道士とか言ってたし、何かもう驚きもしない。

「あー、何かの。王宮に大きな虫が出たらしくてのう。兵士では太刀打ち出来んとかで、わしが呼ばれたんじゃ」
「おおごとじゃね? そんなのに俺が呼ばれた的なこと言ってなかった?」

 受付のお姉さんにそんなことを言っていた。
 イヤーとかいう薄茶色の猫っぽいのは、王様の命令でワシを連れ戻しに来たって言ってたはず。

「そんなこと言ったかのう?」

 目がクルンとまわるワシ。
 明らかにごまかしている。

「まぁいいや。そういえば、さっきのイヤーとかいうのはどこいるの?」
《呼んだ?》

 思いがけない方向から声がかかった。
 真上だ。

《ずっと、頭の上を飛んで来てるにゃ》

 ヤダーの声も聞こえた。
 つい忘れがちになるけれど、いつもいるんだった。
 イヤーは、水晶玉のようなものにくっついているような状態でフヨフヨ浮かんでいるようだ。
 人魂をお供にしているような、何となく妖怪猫又を彷彿とさせる感じか。

《その猫又とやら、20年くらい生きた猫がなるわけだにゃ》

 そうだ。
 一応俺に取り憑いてるから、思考も共有してるんだった。

「そうそう。長生きした猫が、妖力に目覚める感じ」

《なら、イヤーはそれに近いかもにゃ。50年くらいはいきてるにゃ》

「意外に長生きしてるんだな」

 俺はそう言いながら上を見上げた。

「楽しそうなところ悪いが、そろそろ飛ぶから、準備しておくんじゃぞ」

 ヤダーと喋っている間に、ワシは上に浮いているイヤーの宿る水晶玉のようなものに向かって何やら杖を掲げて何かやっていたらしい。

 杖を一瞬くるっと回したタイミングでイヤー玉からフワフワとした綿雪のような湯気のようなものが俺たちを包み込むように広がりながら降りてきた。
 小さなドーム状にふんわりと幕が降りてくるような感じだ。

「城まで飛ぶぞい」

 ワシの言葉が最後まで聞こえないうちに、一瞬目が眩んだような感じになった。

「おぉ! 雪!?」

 目の前に白いフワフワしたものがたくさんまいおりてきていた。
 足元は真っ白。
 妙に地面が近い気がするのは自分が2頭身になっているからだ。
 手で雪をすくったのは、いつぶりだろう。
 冷たい。

「あれ? ワシ?」

 いない。
 ぐるりと回りを見回したところ、真っ白な雪原に自分一人しかいない状態だった。

 遠くに建物も山も、林や川なんかも見当たらない。
 降り積もる雪のせいで遠くが見渡せないというのが正しいか。

《あれ? ワシがいない? 何が起きたにゃ?》
「あっ、ヤダーがいた。良かった!!」

 一瞬焦ったけど、そうだった。
 取り憑かれてて良かった!
 今回ばかりはそう思ってしまった。

次のお話
第13話『芋の刻』

目次


誰かの心にほんの少しでも風を送れるものが発信出来るよう自己研鑽していきます。 当面はきっと生活費の一部となりますが、いつか芽が出て膨らんで、きっと花を咲かせます。