【第1章】青年は、淫魔と出会う (1/31)【淫魔】

【目次】

「んぢゅるっ。じゅぱ……っ。ぶぢゅ、じゅむる。れろ、れろぉ……」

 表通りを走り抜ける車両の喧噪と、過剰なほどにきらびやかな電飾の輝きから隠れた摩天楼と摩天楼の隙間。薄暗い灰色の路地裏に、卑猥な水音が響く。

 紫色のゴシックロリータドレスに身を包んだ女が、ハイヒールでつま先立ちになり、背伸びをして眼前の男に接吻している。

 男の胸元に付けられた銀色のネームプレートが、無機質に光を

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【第7章】奈落の底、掃溜の山 (23/23)【障壁】

【目次】

【手懸】←

「社長は……本社の、中枢から……絶対に、出てこない」

 過呼吸気味のシルヴィアが、かろうじて口を動かす。アサイラは、怪訝な顔をする。

「引きこもっているとして……そんなに、警備が厳重なのか?」

「そりゃ厳重だわ、本社だもの……でも、それだけじゃない。それ以前の問題だわ」

『淫魔』は、シルヴィアを背もたれに寄りかからせて、呼吸のしやすい姿勢にしてやる。その後、自分は

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【第7章】奈落の底、掃溜の山 (22/23)【手懸】

【目次】

【忠犬】←

──プシュッ。

 ボトルのキャップが開くと、充填されたガスが吹き出す音が響く。左手一本で開封するのは、少々、難儀だった。

 キッチンの片隅に置かれた冷蔵庫、そのなかにあったミネラルウォーターのボトルを、アサイラは手にしていた。

 容器を仰ぎ、無色透明な液体を一口含む。長風呂になって脱水症状ぎみだった身体に、よく冷えた水分が染み渡る。

 アサイラは、ふと、ガレキの次

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【第7章】奈落の底、掃溜の山 (21/23)【忠犬】

【目次】

【解錠】←

「……ひょこっ?」

「ん。目を覚ましたか?」

 左腕一本で、難儀そうにシャワーを浴びていたアサイラが、気配を感じて、背後を振り返る。

 バスルームのピンク色の壁に寄りかかるように失神していたシルヴィアが、まぶたを開く。ぷるぷる、と小刻みに狼の耳を震わせる。

「ああ、水がかかっちまったか。悪いな、狭い浴室で」

「いちおう、浴室プレイも想定している造りなのだわ」

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【第7章】奈落の底、掃溜の山 (20/23)【解錠】

【目次】

【傷痕】←

 シルヴィアの意識は、薄暗く、湿って、かび臭い牢獄のなかにいた。四肢は鎖につながれて、自由を制限されている。

 拘束された獣人の目の前、牢屋の中央には鍵が転がっている。腕と脚をつなぎ止める鎖をはずすための鍵だ。

 身じろぎするたびに、じゃらりと音を立てる鎖は長く、ある程度の身動きはとれたが、あと少しのところで鍵にまでは手を届かない。

 幼いころのシルヴィアは、この鍵

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異世界転移しても僕は一人落第する

【はじめに】
 カクヨム様にも投稿しています。
 少しグロい表現あります。

【本文】

 僕はその朝、とっても気が重かった。のろのろとベッドから起きて、二人のルームメイトの後から食堂へ行き、部屋に戻って身支度する間もずっと黙ったままだった。

 結果はもうだいたい分かっているけれども、それを現実にしたくない、と拒否するみたいに身体が重い。今日のための立派なビロードのマントと帽子も、心に圧し掛かっ

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【第7章】奈落の底、掃溜の山 (19/23)【傷痕】

【目次】

【離別】←

「ヌあ……っ!?」

 間抜けな声を上げながら、アサイラは空間に放り出される。円形状で、中央に天蓋付きのベッドが置かれた『淫魔』の部屋だ。

 アサイラたちを転送した『扉』は、相変わらずノイズまみれで、床と斜め向きになるような位置で空中に浮かんでいる。

「あー、ひどい目にあったのだわ」

『扉』の内から身軽に着地した『淫魔』は、じゅうたんのうえに転がるアサイラを横切り、

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【第7章】奈落の底、掃溜の山 (18/23)【離別】

【目次】

【合流】←

「ちょうど、こいつを倒したところだ。推定、セフィロトエージェント」

「それは僥倖だわ。うら若い乙女に暴行するのは、感心しないけど」

「死にものぐるいでやって、このザマだ。そうでなければ、こっちが死んでいたか」

「……ふうん」

『淫魔』はすました表情で、ガレキ野原を見やる。

「そういうおまえこそ、よくここまで来れたな」

「苦労したの。感謝するのだわ」

「互いの

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【第7章】奈落の底、掃溜の山 (17/23)【合流】

【目次】

【逆手】←

「おまえ……セフィロト社のエージェント、か?」

 アサイラは、会敵したときに口にした質問を、再度たずねる。獣耳の女性は、返事をせずに沈黙を守り続ける。

(まあ、聞くまでもない……か?)

 女の首から下には、黒光りする装甲のコンバットスーツが身をおおっている。なにより、彼女が使った各種の兵器は、セフィロト社のものと考えるのが自然だ。

(……だが)

 年の頃は二十前

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【第7章】奈落の底、掃溜の山 (16/23)【逆手】

【目次】

【双巴】←

「う……ッ!?」

 エージェントは、苦しげにうめく。再度の空転ののち、ガレキの地面に背を突いたのは自分のほうだった。

 右脚を『固着』したまま落下したため、関節を痛めたようだ。鈍痛が響いてくる。

「……ガぼオッ!!」

 コンバットスーツ越しでも吸収しきれない衝撃が、腹部を襲う。ターゲットの右ひざが、落下の勢いごと叩きつけられた。

 胃酸が逆流し、ガスマスクの内側

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