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無職のパパが異世界転移してお家に帰るまで【第6話】

NFTart『Daddy-like kind』シリーズ
https://opensea.io/collection/daddy-like-kind-001

前のお話
第5話『まっぱで剣と盾』

世界が変われば朝は豆

 ふかふかの布団で寝た夢を見た。
 ぽよんぽよんしたウォーターベッドにふわふわの羽毛布団で、チョー気持ち良かった。
 思わずニヤニヤしていたような気もするけど、寝心地いいんだから仕方がない。
 手触りも抜群だったから揉んでたら、急に顔に衝撃が走って飛び起きた。

「いてぇ!!」

 目の前に星が舞った気がする。
 額あたりがジンジン痛んだ。
 霞んだ目を擦りながらよく見ると、揉んでいたのはノラとかいう猫っぽい生き物で使い魔の、『ヤダー』の腹だったらしい。

 寝ていた場所はウォーターベッドじゃなくて、スライムを材料に作られたらしいプニプニベッドだった。
 ぼんやりした頭でそこまで思い出して、既に外が明るいことに気がついた。

 羽毛布団は願望だったのか、掛けていたのは薄手の毛布だった。
 そんなに寒くはないから夢も適当だったんだな。

「起きたか。よく寝ておったのう。相当疲れておったんじゃろう。そういえば昨日渡した服はどうした?」
 ワシが昨日と違う色のチョッキを着ていた。
 昨日は何色だったか忘れたけれど、今日は緑。
 ああ、赤だっけ?

 どうでもいいか。
 そんなことを考えながらプニプニベッドから降りた。
 完全に大きなスライムからストンと降りた感じ。
「寝るときはいつもまっぱさ。そこに置いてる。んで、今何時?」

 台の上に、昨日貰った黒っぽいツナギとかは適当に置いてある。

「ふむ、そんなもんか。んー、ヤダーが読み取った情報から察するに刻限のことじゃの?」
「刻限?」
「ふむ。12進数と60進数か……面白いのう」

 よく見るとさっきまで一緒に寝てたらしい茶色い猫っぽいのが水晶玉みたいな感じになって浮かんでいて、それに手をかざしてモニョモニョ言っている。

 ワシ……本当に魔法使いみたいなことしてる。
 けど、何言ってるかわからん。

「日が昇って沈んで……ほうほう。そういう世界もあるわけじゃな」
「おーい、ワシ。今何時かわかる?」
「おう、すまんすまん。今は赤豆の刻限じゃ。お前さんの感覚じゃと……、朝『11じい』くらいかのう」

 ヤダーがまた元の姿になった。

「豆? ここじゃ食べ物で時間表すの? っていうか、11じいって……じいって伸ばさず『じ』な」

「『豆』と一言で言っても5色あるんじゃ。朝は豆じゃの。昼は『種』じゃ。これも5種類。そして夜は『芋』じゃの」

「ほぇー。それで、芋も5種類?」
「そうじゃ。5つ目の芋が終わると夜が明ける」
「日が昇り始めるわけな?」

 ワシが手をかざすのをやめると、ヤダーがまた猫っぽい姿に戻る様を眺めながら尋ねた。

「いや、明るくなる」
「は?」
「日など昇らんぞ」

 意味がわからん。

「おい、ぼんくら。空には風が流れて雲を成すにゃ。それ以外に浮かぶものは神の島とドラゴンくらいにゃ」

 猫っぽい姿に戻ったヤダーが、眉間にシワを寄せながら補足してきた。
 ぼんくらって、ひどいな。
 日が昇らない世界か……。
 ピンとこないけど、ここはそんな世界ってことか。

 それより、

「神の島って何?」

 ログハウスの壁の六角形に空いた部分(窓?)から外が見えたから、ちょっと歩いて覗きに行きながら聞いてみた。

「普通空には島があるじゃろ?」
「いやないわ」

 普通って、世界が変われば変わるもん?

「まぁ、これでも飲むがいい。ちょっと見に行くか」

 ほんわか湯気が立つお椀を渡された。

次のお話
第7話『ビール片手に神様トリオ』

目次


誰かの心にほんの少しでも風を送れるものが発信出来るよう自己研鑽していきます。 当面はきっと生活費の一部となりますが、いつか芽が出て膨らんで、きっと花を咲かせます。