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無職のパパが異世界転移してお家に帰るまで【第11話】

NFTart『Daddy-like kind』シリーズ

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前のお話
第10話『闘技場で力試し』

輝かしき軌跡

 円形の闘技場内に、歓声が鳴り響く。

 俺が扉を開けた先には、頭ひとつ分ほど大きい垂れ耳犬頭のホブリンが待ち構えていた。

 予想通りの展開だ。
 ここで俺は華々しいスタートを切るわけだ。

 何か俺、人気者なんじゃね?
 案外イケるんじゃ?
 だんだん気分がノッてきた!

 扉が開いた時点で戦いは始まってるらしいことは、さっき簡単な説明を受けたときに聞いていた。

「よし! いくぞ!」

 俺は剣を掲げると走り出した。

「何だ? 随分弱そうなのが出てきたな」

 相手闘士が呟いたのが聞こえた気がした。

 出てすぐは気づかなかったけど、闘技場は若干すり鉢状に低くなっていたらしく、走っているうちにだんだん加速していった。

 《盾あるの忘れるにゃよ》

 言われて気付いて盾を構えると、その拍子に盾の内側のベルトにマントの留め具が引っ掛かった。

「うわっ、やべっ!」

 無理に取ろうとしてバランスを崩した俺は、そのまま前のめりに倒れ込んだ。
 天地がひっくり返ると同時に遠かったはずの対戦相手がすっとぼけた表情をしているのがチラッと見えた気がする。

 意外にも走った距離は短かったらしく、近くから見ると垂れ耳のビーグルっぽい顔立ちだったらしい。

「よく見ると可愛い感じもするのがムカつくよなぁ」とか、スローモーション中に考えながら、はるか下に対戦相手がいて、思いの外小さく見えたような気がした。

 もちろんスローモーションなわけもなく、想像以上に高く派手にひっくり返っていたらしい俺は、どういう体勢か分からないまま激しく不時着したらしい。

 全身を強く打って、俺は一瞬意識を失った気がする。

 ドーン!

 地響きのような喝采が沸き上がり、俺は頭の上に星が飛んでいるような感覚の最中、右手を審判に掴まれ掲げられていた。

「大番狂わせの大型新人が現れました!! 見事な一本勝ちです!」

 あ、暑苦しい。
 審判の犬ころホブリン、暑苦しい。
 何か、パグっぽい。

「ん? 何が起きた?」

 パグに訊いてみたけど何を言ってるかよく分からなかった。

《何処でこんな技覚えたにゃ?》
「何のこと?」

 ハテナだらけの第一試合はこうして幕を閉じた。
 闘技場を後にして控え室に戻った俺は、ワシからも拍手で迎えられた。

「お主あの技はなんじゃ!? 実はスーパーヒーローじゃったのか?」

 ワシは俺の方に駆け寄ると背中をパンパン叩いてきた。

「え? いや、俺勝ったの? 何が何だか分かってないんだけど」
「何を言っておるんじゃ? 試合開始と同時に走り出したお主は、一回転半ジャンプからの唐竹割りで、見事に相手の脳天を叩いて一本勝ちしたじゃろう?」

 訝しげな顔でこっちを見るワシ。

「はぁ? 俺、コケた記憶しか無いんだけど」
《もしかして、まぐれ?》

 ヤダーの声が悲しく響く。

「あんな見事なまぐれがあるのか……」

 驚きで力が抜けたらしいワシの口が、あんぐり開いていた。

「対戦者大丈夫?」

 急に相手のビーグルが心配になってきた。

「ああ、大丈夫じゃ。特別製の魔操紋で守られておるこの世界じゃ脳天カチ割っても命に別状はないわい」
「マソウモン?」
《あわわ、ワシ! ちょっと!》

 何かヤダーとは少し声質の違う、甲高い声が響いた。
 そして間もなく、薄茶色の猫っぽいのが何処からともなく目の前に出てきた。
 一瞬目がボヤけたような変な感覚だった。
 何もない空間から突然現れた感じ。

「お? イヤーか。人見知りのお主が出てくるのも珍しいのう」
《だって、ワシの口が軽……いや、それよりワシ、ボクは王さまの命令でワシを呼びに来たんだよ》
《それで空間転移使って来たわけだにゃ》

 今度はヤダーの声だ。
 ちゃんと盾にヤダーのめんどくさそうな顔がある。

「よし、勝ち逃げしよう!」

 まぐれ勝ちで変に期待されて、次の試合で下手こいたらヤバい!
 俺は一大決心をしたと思う。

「あー……。まぁ、一試合勝つだけでも少し報酬あるからのぅ」

 あからさまに呆れてるワシ。

「俺はプレッシャーに弱いんだ!」
《ドヤ顔するところかにゃ?》

 後から来たイヤーとかいう猫っぽい薄茶色のも口をあんぐり開けていた。

次のお話
第12話『真っ白なところにただ一人』

目次


誰かの心にほんの少しでも風を送れるものが発信出来るよう自己研鑽していきます。 当面はきっと生活費の一部となりますが、いつか芽が出て膨らんで、きっと花を咲かせます。