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無職のパパが異世界転移してお家に帰るまで【第7話】

NFTart『Daddy-like kind』シリーズ
https://opensea.io/collection/daddy-like-kind-001

前のお話
第6話『世界が変われば朝は豆』

ビール片手に神様トリオ

 一日を表す刻限の概念については、その後ワシからふざけた創世神話を聞かされた。
 芋好きの神と豆好きの神と種好きの神という3人の神がいて、芋好きの神は豆好きの神のことが好きで、豆好きの神は種好きの神のことが好きで、種好きの神は芋好きの神のことが好きで、四六時中追いかけ合っているらしい。

 ポテチ食ってる小太りなおじさんが、枝豆食ってるマッチョなおじさんを追いかけて、その先には枝豆食ってるマッチョおじさんの追跡から逃げているカキピー食ってる細身なおじさんみたいな構図が目の端に浮かんだ。

 みんなビール片手にってイメージ。
 どんな飲み仲間トリオだよ。

 この世界、そんな陽気な奴らが作ったんだったら好感持てる気がする。
 
 時計という概念はないらしく、この世界の住人は、誰でも皆それぞれの刻限が感覚で分かるらしい。
 
 豆は、赤豆、黄豆、緑豆、茶豆、黒豆。
 種は、丸種、長種、尖(とがり)種、大種、小種。
 芋は、種芋、小芋、丸芋、長芋、粘(ねばり)芋。

 順番も名前も覚えられる気がしない。
 俺は目的を見失いかけていた。

「タグイよ」
「さて、どうしようか」
「何を頬杖ついて考え込んでおるんじゃ?」
「これ、タグイって呼んでおるじゃろう!」

「あいて!」

 肘が膝からずり落ちて、目の前に灰色のデカイ顔が現れてびっくりした。

「あー、タグイって俺のことか」
「他に誰もおらんじゃろう」

 今はワシの家からちょっと歩いたところにあるワシの行きつけだという飯屋に来ていた。
 何かの果物を焼いたものと、肉を焼いたものが更に載せられている。
 テーブルの上には他に、水に果物の汁を加えたものがお椀に注がれ置かれていた。

「基本手づかみだよな」
「ん? 食事のことか?」

 ワシが果実にかぶりつきながら、俺の呟きに答えた。
 
「そうそう。俺の世界では、箸とか、フォークとかスプーンっていうのがあってさ」
「ふむ」
「挟んだり、切ったりすくったりして食べるわけだ」
「わしらからすると珍妙な文化じゃの」
「そんなもんか。それでさ。つまみ食ってるおじさんも、みんな手づかみだもんな」
「はぁ?」
「あぁ、豆とか芋とかの神様の話」
 
 俺も焼いた肉にくらいついた。
 味気ないが、腹は減る。
 調味料の店無いか探しておこう。

「そうじゃの。ちょっと思いついたんじゃが、ヤダーをお前さんに付けようかと思っておる。わしらに普通にある感覚がないんじゃ色々と困るじゃろう」
「あぁ、確かに。感覚って一言で終わられるとどうにもらなないもんなぁ」

 付き人みたいについてきてくれると、仕事探しも帰り道探しも助かるな。
 ちょっと辛辣だけど。

「それで、今そのヤダーはどこいるの?」

 ぱっと見どこにもいない。
 俺は周囲を見回した。
 のどかな畑と牧場っぽいものの柵が並ぶ風景が広がってる。
 そんな中に何件か掘立小屋のような家があって、この辺の人達は、定刻になるとよくこの店に休憩に来たり、食べに来るらしい。
 基本的に自炊はしないんだろうか。
 
「ここにずっといるにゃ」
「お?」
 目の前にちょこんと座っているのに今気付いた。

「精霊の認知もちょっと弱めじゃの」
「目の前にいるのに気付かないとか……マジか」
「ほいっ」
「うわっ」
 
 ヤダーがぶつかってくる勢いで跳びついてきた。
 と思ったら別にぶつかることなく通り抜けていく。
 
《よし。完了にゃ》

 気持ち悪っ。頭の中からヤダーの声が聴こえた。

次のお話
第8話『ホブリンの村』

目次

誰かの心にほんの少しでも風を送れるものが発信出来るよう自己研鑽していきます。 当面はきっと生活費の一部となりますが、いつか芽が出て膨らんで、きっと花を咲かせます。