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【マチメグリ】HBPワールドツアー訪問記:アメリカ デトロイト 『財政破綻からの再生を図る街の「陰」と「陽」』(2018/1/6公開)

2017年の6月末、約10日間の行程でアメリカに視察旅行に行ってきました。ニューヨーク、ポートランド、デトロイト、それぞれの街はとても個性的で公私ともに多くの刺激を受けました。今回は園田がデトロイトの街の来訪を振り返り、その内容を記録していきます。

市の財政破綻からの復活を目指す「MOTOR CITY」
アメリカ中西部に位置するミシガン州デトロイト市は、1903年にヘンリー・フォードが量産型の自動車工場を建設し「T型フォード」が世界的に売れたことをきっかけに、全米ナンバー1の自動車工業都市として発展してきました。その後、ゼネラルモーターズとクライスラーも併せたBIG3が立地する都市となったことから、街は「MOTOR CITY」と呼ばれ市民に親しまれてきました。自動車産業が盛んだった1950年代の人口は180万人以上にもなり、その半数以上が自動車産業に携わっているという状況でした。しかし、1970年頃に起こった黒人による大規模な暴動や日本車の台頭による自動車産業の低迷などから次第に人口が流出し、特に白人が郊外に移住したことから街の中心部の治安も悪化していきました。市はなんとか再起を図ろうと超高層複合ビルのRenaissance Centerの建設やモノレールのPeople Moverの導入を行いましたが状況は改善せず、2009年にはゼネラルモーターズとクライスラーが破綻します。その煽りを受ける形で2013年には180億ドル(約1兆8000億円)の負債を抱えてデトロイト市が財政破綻しました。

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□アメリカ中西部に位置し、デトロイト川を挟んだ南側はカナダのウィンザー市である

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□街の中心であるDowntownは住民のほとんどが黒人であり、白人は郊外に移り住んでいる。

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□1970年代に建設された当時の再生の象徴「Renaissance Center」。GM本社がテナントとして入居している。

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□Renaissance Centerの隣にあるHart Plaza(左)と、当時の新交通システムとして導入されたPeople Mover(右)

財政破綻後のデトロイト市の状況を見てみると、人口は2014年時点で約68万人、失業率は約18%、空き家率は約30%、子どもの貧困は約60%、読み書きできない市民の割合は約50%、そして治安に関しては全米でも断トツのワースト1位という状況です。先ほどのRenaissance Centerや、街のMain StreetであるWoodward Avenueから5分も歩けば、街の中心部にも関わらず高層ビルの廃墟がいくつも放置されています。男性でも日没までには宿に戻るよう言われるような環境でしたが、それでも今回デトロイトを訪れたかったのには2つの理由がありました。1つは、博士論文のテーマとして扱ったプレイスメイキングのメインの事例がデトロイト中心部の再生プロジェクトであったこと、そしてもう1つは、今後の日本でも急激に人口が減少し行政の財政も切迫していく中で、行政機能が不全に陥った都市がどのような状況になっているのか、さらにそこからいかにして再生しているのかを自分の肌で感じてみたかったことです。

今回の視察報告では、実際に現地で体感してきた街の雰囲気と、いくつかの再生プロジェクトをご紹介します。

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□街の至る所に廃墟や空き地が放置されており、落書きや破損が散在される。昼でも近づきたくない暗い雰囲気を漂わせている。

かつての廃線跡地を市民の憩いの場となる緑道へ:Dequindre Cut Greenway
ここは、かつてGrand Trunk Railroad lineという路線の鉄道が走っていました。鉄道の廃線跡は長らく放置され、ゴミが捨てられ浮浪者が俳諧するような場所になってしまっていましたが、連邦政府、デトロイト市、ミシガン南東部コミュニティ基金、デトロイト経済成長協会等によって、市民が安全に利用できる緑道として再生され、2009年5月に一部が一般公開されました。2016年4月には残りの部分もオープンし、約2マイルの緑道は市民ランナーやサイクリストによって利用されています。また、ところどころにあるグラフィティの質が非常に高いのも印象的でした。後述するEastern Marketや街の中心部も含め、デトロイトの街には至る所にグラフィティやミューラルがあり、アートが街の再生の1つの切り口となっていることが実感できました。

参考:http://detroitriverfront.org/riverfront/dequindre-cut/dequindre-cut

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□かつての廃線跡地

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□再生された緑道は明るく清潔で、訪れた際にもランナーや親子連れが利用していた

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□沿道にはかつての鉄道関連施設の廃墟が残されたまま(左)質の高いグラフィティが各所に施されている(右)

官民連携で運営される歴史的市場:Eastern Market
まちの中心部からDequindre Cut Greenwayを抜けた先にあるのが、1891年に現在の位置に建設されたEastern Marketです。このマーケットは全米で最大の規模を誇る歴史的なPublic Marketであり、1974年にはミシガン州立史跡に指定され、1978年には国の歴史的地区にも登録されています。市場は長らく行政が運営してきましたが、2006年からはWestern Market Corporationとの連携によって運営されており、週末には約45,000人が訪れるそうです。

参考:https://www.easternmarket.com/

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□歴史的な雰囲気を残したマーケットの売り場

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□マーケットの周辺の建物や壁には、色鮮やかなグラフィティが施されており、その質がまた高い。

Public Artで街を再生する:Library Street Collective
これまでに見てきたようなグラフィティやミューラルといったパブリックアートでデトロイトの街を再生しようとしているのが、Library Street Collectiveです。Library Street Collective Galleryの経営者であるマット・イートンさんは、1990年代に次々と閉鎖していく市内のギャラリーの状況を目の当たりにし、「アートを大切にしない社会は破綻する」という思いから当時はまだ治安が悪かった現在の場所で2012年にギャラリーをオープン。若い才能を持ったアーティストの活動の場を街の中に確保し、街の建物や屋外看板を用いた大規模なアートを展開するとともに、企業への協力を地道に求め、現在では多くのギャラリーが街なかに戻ってきているそうです。ビルの壁面をキャンバスにしたShepard Faireyの巨大なミューラルは現地で体感すると圧倒的な迫力で、街に活力と彩りを与えてくれる存在となっていました。

参考:http://www.lscgallery.com/

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□2008年の大統領選挙でオバマ陣営の選挙ポスターをデザインしたShepard Faireyの巨大なミューラル

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□エレベーターや階段にもアートが施された駐車場ビル「Z Garage」(左)とLibrary Street Collectiveのギャラリー(右)

地元建築家が設計した自動車工場をクリエイティブ・ハブに:Russell Industrial Center
デトロイトのダウンタウンから北へ車でしばらく走ったところにある巨大な廃工場、その中を少しずつ改造しながらファッション・デザイナーやアーティスト、スモールビジネスのオーナーが入居するクリエイティブ・ハブとなったのがRussell Industrial Centerです。ここは元々Murrayという自動車部品メーカーが工場として使用していた建物で、デトロイトを代表する建築家Albert Kahnの設計により1915年に建てられました。約20万㎡という広大な面積を持つこの建物は、Murray社の工場として使用されていましたが、次第に衰退していくデトロイトの自動車産業の波にのまれ、1960年代には印刷会社に工場スペースを貸出ました。その後、1998年に建物が竜巻による大規模な被害を受け営業が出来なくなったことから空ビルとなっていましたが、2003年に新しいオーナーがこの建物を購入し、アーティストやスタートアップ企業のためのスタジオとロフトスペースとして再生しました。現在は様々なクリエイターらが入居し、週末には一般向けのイベントやワークショップが行われるなど、新たなクリエイティブ・ハブとして機能しています。

参考:http://russellindustrialcenter.com/

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□デトロイトを代表する建築家であり建物の設計者であるAlbert Kahnのグラフィティ

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□建物のシンボルとなっている中西部最大のミューラル「Impossible Dream」(左)と内部のスタジオフロアの様子(右)

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□外観も含めいまだ手つかずの状態も多く、それが逆に荒廃からの再生途上という雰囲気を醸し出している。

自動車の街に現れた「ヘルス・システム」:Mo Go
今回の滞在で重宝したのが、訪問の1か月前に運用が開始されたばかりのシェアサイクル「Mo Go」でした。自動車の街デトロイトでシェアサイクルというのも不思議な感じでしたが、路線バスは治安が悪いため乗れず、タクシーもほとんどなく、かといって徒歩での移動は場所によっては危険を伴う、という街で非常に便利なツールでした。このシステムは地元のウェイン州立大学の経済開発庁が開発し、Shift Transit社が運営するもので、訪問当時は43のステーションに430台の自転車が設置されていました。手続きはステーションでクレジットカード決済をすれば誰でもすぐに借りることができ、ステーションもほぼ5分間隔程度の距離に整備されているため使い勝手も良かったです。また、ステーションが設置されている地区は比較的治安も安定していることが想像できたので、そういった面でも街の環境を知る手段となり、とても良いシステムだと感じました。自動車ではなく自転車の泥除けに「Henry Ford Health System」と破綻したフォード社の名前が入っているのはなんとも皮肉だなと思いましたが、デトロイト中心部の新たなモビリティの形として今後も普及していくことを期待したいと思います。

参考:https://mogodetroit.org/

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□各ステーションの電子システムは、ソーラー発電の電気で賄われている

街なか再生の象徴となる路面電車プロジェクト:Q LINE
デトロイトの街には元々路面電車がありましたが、自動車の普及とともにバスが導入され、中心部の路線は1956年に廃止されていました。しかし、街なかでの大人数の輸送機関として再び注目され、2006年から路面電車導入の検討が始まりました。2011年には、当初予定していた連邦政府の支援金が郊外の高速バスシステムに振り替えられるという決定があり一時計画が頓挫するといった混乱もありましたが、最終的には民間投資家やデトロイト市の判断もあり、2017年5月に本格運用が開始されました。新しい路面電車のネーミング・ライツを地元の住宅ローン貸付会社であるQuicken Loan社が取得したことから、Q LINEという名称で市民に親しまれています。Q LINEは街のMain StreetであるWoodward Avenueに沿って中心部を走っているため、その沿線は今後も新たな投資や開発が起こることが期待されており、街なか再生の象徴にもなっています。

参考:https://qlinedetroit.com/

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□地元住民や観光客等多くの利用者で賑わっている

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□記念写真用のオブジェ(左) クラシカルな自動車と洗練されたデザインのQ LINE(右)

都市を公共的空間から再生する:A Placemaking Vision for Downtown Detroit
今回のデトロイト視察の大きな目的の1つ、プレイスメイキングの取り組みの効果と実態を肌で感じること、それを実現すべく中心部のCampus Martius Parkへ向かいました。この公園はデトロイトにおけるプレイスメイキングの取り組みにおいて最も成果を上げている場所であり、実際に訪れた際も多くの人が思い思いに時間を過ごす素敵なライフシーンをみることができました。
Campus Martius Parkの話に入る前に、そもそもプレイスメイキングとはなんなのかということについて、簡単にご紹介したいと思います。プレイスメイキングとは、堅い定義で言えば「都市空間において愛着や居心地の良さといった心理的価値を伴った公共的空間を創出するボトムアップ型の計画概念」ですが、ハードとしての「空間(SPACE)」をつくるだけでなく、そこが愛着や居心地の良さを伴って人々に使われる「居場所(PLACE)」とするためのプロセス・デザインのことを総称しています。この理念を提唱し、40年に渡って世界中での実践を行っているニューヨークのNPO、Project for Public Spaces(以下、PPS)は、都市において公共的空間が重要な理由として「街の特色となる」「街を経済的に活性化する」「周辺の環境を改善する」「文化的な活動の舞台になる」といった項目を挙げています。このような観点から、デトロイトの街でも中心部の公共的空間を対象としたプレイスメイキングの理念と手法を導入し、街の再生に取り組んできました。2012年にデトロイト市がPPSに委託してプロジェクトがスタートしますが、市はその翌年に財政破綻します。その後は、市に代わって地元企業であるQuicken Loan社が発注者となり、PPSと共にビジョンの実現に向けて着実に成果を積み上げてきました。

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□Campus Martius Parkの様子。芝生広場からUrban Beachへと改修されたエリアは多くの親子連れで賑わっていた。

〇具体的なビジョンをつくり、ゴールを共有する

デトロイトでは、プレイスメイキングの取り組みを行うにあたり、市民や企業、個人事業者や行政など、多様な利害関係者と戦略的で建設的な議論を重ねながら「A Placemaking Vision for Downtown Detroit」というビジョンを作成し、プロジェクトの目標をビジュアルに共有しました。このビジョンには、冒頭に利害関係者やプロジェクトメンバーが明記されており、その主体がリスクと責任を負って取り組んでいることが誰にでもわかるようになっていることが最初の大きな特徴です。

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□A Placemaking Vision for Downtown Detroitの表紙とイントロダクション(出典:PPS, A Placemaking Vision for Downtown Detroit)

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□ビジョンの作成にあたっては、住民や業種別事業者、ワーカー等、属性ごとに戦略的なワークショップが行われた(出典:PPS, A Placemaking Vision for Downtown Detroit)

〇ビジョンをプロジェクトに落とし込む

ビジョンの中では、最初にDowntownのThe Power of 10が示されました。The Power of 10とは「豊かな中心市街地には最低でも10の目的地となる場所が連続的に近接しているべきであり、各目的地はより小さな10の場所によって構成されるべきである。そして、それぞれの場所は人々が携わる事が出来る活動や行為を出来るだけ多く(10以上)提供すべきである」という考え方です。都市の全ての要素を包括的に扱うのではなく、公共的空間の整備・活用という切り口に特化することで、都市スケールから敷地スケールまでの人の流れや空間に関連する要素の関係性がより明確になることが、この手法の大きな特徴であると言えます。これによって、Downtownの中でもポテンシャルが高く特徴を持っているエリアは10ヵ所選定されました。

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□デトロイトのDowntownにおけるThe Power of 10の選定図(出典:PPS, A Placemaking Vision for Downtown Detroit)

〇低リスク・低コストな取り組みから実践する

次に行うのは、短期的に実現可能なプログラムを展開してその効果を実証し、その成果を関係者と共有しつつ、次第に実施範囲やプログラムの内容を拡大していくというプロセスです。小さな実績と検証を積み重ねることで、最終的な都市スケールでの空間整備に向けた多様な関係者の合意形成も図りやすくし、プロジェクトの精度を高めることができます。その最初の実施プログラムがLighter(簡単に), Quicker(素早く), Cheaper(安く)(以下、LQC)と呼ばれるものです。PPSはLQCについて、 「LQCの実験的な取り組みは、より低いコストとより低いリスクで、長期的な取り組みの実証実験の役割を果たす。こうした実験的な取り組みは(中略)地域の資産を活用して未活用の空間を刺激的な実験場へと変え、市民に「場」の可能性を示し、他の地域への後押しとなる取り組みである。これらの取り組みは、ビジョンを描いているステークホルダーを実際の行動に移させるための有力な根拠となる。」と説明しています。その実施対象としてパイロット・プロジェクトに選ばれたのが、Campus Martius Park、Grand Circus Park、Capitol Parkの3か所でした。

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□LQCの手法の解説(出典:PPS, A Placemaking Vision for Downtown Detroit)

〇Campus Martius Park

パイロット・プロジェクトに選定された場所では、その場所の歴史や特徴、課題を読み解き、より詳細な活用プランが検討されます。その場所で実施するコンテンツや将来的な場所の改修イメージパースなども作成し、それを1つずつ検証する形でLQCの取り組みが実践されていきます。Campus Martius Parkでは、広場でのポップアップストアの展開や芝生エリアの改修、植栽帯から遊歩道への改修や路面電車停車場の設置等が盛り込まれています。これらの将来イメージに基づき、まずは簡易に実施できる内容として、広場でのポップアップストアの展開や芝生エリアのテコ入れといった比較的軽微な取り組みが実際に行われました。

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□Campus Martius Parkは右図の5番の位置にある広場 / 公園である(出典:PPS, A Placemaking Vision for Downtown Detroit)

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□Campus Martius Parkでの導入を目指す具体的なコンテンツの配置図(出典:PPS, A Placemaking Vision for Downtown Detroit)

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□Campus Martius Parkの従前の様子(出典:PPS, A Placemaking Vision for Downtown Detroit)

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□Campus Martius Parkの将来的な改修イメージ(出典:PPS, A Placemaking Vision for Downtown Detroit)

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□Campus Martius Parkでの2013年のLQC実施時の様子(出典:PPS, A Placemaking Vision for Downtown Detroit)

2013年からスタートしたLQCの取り組みを踏まえ、私が訪問した2017年6月時点ではさらに取り組みが進み以下のような光景が見られました。初年度のポップアップストアの取り組みからはさらに進化し、車道だった部分の歩行者空間化や仮設店舗から常設のレストランへの移行、さらに芝生エリアをUrban Beachへと改修し多様な座具の設置やバースタンドの併設等、人が居心地良く利用するためのアメニティが様々なところにちりばめられていました。このように小さな実証実験を繰り返しながら少しずつ投資を行い、精度を高めながらコンテンツを挿入してビジョンを現実のものにしていく進め方はまさにプレイスメイキングの本質であると感じました。肌の色や年齢、社会的地位を問わず多様な人々が思い思いに過ごしている様子は本当に豊かなシーンであり、従前の公園とは比べ物にならないほど、街にとって価値のある場所になっていました。

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□広場脇の道路が歩行者天国化&バスケコートとなり、遊んでいる子供たち(左) 管理者と利用時間を示すサイン(右)

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□座具が設置された芝生エリアでくつろぐ人々(左) きちんとしたサービスを提供するレストランも設置された(右)

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□Urban Beachに改修された芝生エリア(左) プロジェクトの中心となっている地元企業のサイン(右)

〇Grand Circus ParkとCapitol Park

Campus Martius Parkは当初の将来イメージに向けて着々と取り組みが進んでいるようでしたが、街全体としては相変わらず厳しい状況である中、全てのプロジェクトが想定通り進んでいるわけではないようでした。ただし、それは他の2か所が失敗しているということではなく、限られた資金や設備、人員を、まずはCampus Martius Parkにかけていると考えられます。3か所を平等に進めた結果、成果が中途半端になることを避けるため、選択と集中によって確実に成果を挙げて進めていくのも、プレイスメイキングのプロセス・デザインにおける重要なポイントであると感じました。

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□Grand Circus Parkは右図の1番の位置にある公園である(出典:PPS, A Placemaking Vision for Downtown Detroit)

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□Grand Circus Parkは、空間は整備され座具とパラソル、警備スタッフまで揃っているものの訪れる理由となるコンテンツがないため、利用者の姿はほぼ見られなかった

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□Capitol Parkは右図の3番の位置にある公園である(出典:PPS, A Placemaking Vision for Downtown Detroit)

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□Capitol Parkは、舗装が一部はがされた状態のところに簡素なテーブルセットが置かれているのみで、到底人が利用したいと思えるような状態ではなかった。

デトロイトの街に息づくものづくりの精神を復活させる:SHINOLA
最後に紹介するのは、ものづくりを通してデトロイトの街の分かと雇用を守ろうとする企業です。デトロイトのミッドタウンに本店を構えるSHINOLA社は、2011年に創業し地元の元工場労働者などを雇って職人として育成し、0から時計ブランドを立ち上げました。創業オーナーは世界的時計メーカーFossilのファウンダTom Kartsotis氏で、腕時計の製造からスタートし、現在では革製品、自転車、コーヒー、炭酸飲料、レコードプライヤーに野球のバッドまでをつくっています。時計と革製品のラインは昨年新宿伊勢丹に日本初のショップができる等、成長著しく今後はホテル事業にも乗り出すとのこと。SHINOLA社が面白いのは、最初から何をつくるか決めるのではなく、デトロイトの人々に息づく質の高いものづくりの技術を活かせるものをつくっていき、地元に雇用を生むというポリシーで経営している点です。現在はアメリカ本土を中心に19店舗を展開し、従業員約600人のうち380人がデトロイト市民とのことで、地元の雇用を守ることにも貢献しています。世界の製造業が、人件費や法人税、不動産価格の安い海外に生産拠点を置く中で、アメリカ国内で完結する製造と流通のビジネスモデルを築こうというチャレンジは相当な覚悟のいる判断だと思いますが、そうしたチャレンジ精神あふれる企業のおかげで地域に雇用が生まれ、自動車産業で失業した人々の生活が守られている部分もあるということを思うと、SHINOLA社はデトロイトの街にとって非常に重要な役割を果たしているのだと感じました。企業理念を知り、現地を訪れて感動した勢いで、私もSHINOLA社の腕時計と財布を購入し現在も愛用しています。

参考:https://www.shinola.com/

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□デトロイトのミッドタウンにあるSHINOLAの本店

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□腕時計は好きな文字盤とベルトの組み合わせを選べる(左)  希望すればベルトにイニシャルも刻印してくれる(右)

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□革製品のラインナップも充実(左)  自転車は街乗り用のラインが主力の様子(右)

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□本店には自社ブランドのコーヒーが飲めるカフェも併設(左) コーラも製造し、デトロイト市内でボトリングしている(右)

デトロイト訪問を振り返って
今回、デトロイトの街を1人で訪れてみての感想は、まず率直に今のタイミングで現地を体感できてよかったということです。2013年の財政破綻から4年が経ち、少しずつ再生の兆しが見え始め、国内のメディアでも様々な取り組みが取り上げられるようになりました。渡航前にそうしたメディアを通して持っていた印象は、沈没からの復活を図る都市の明るくバイタリティに溢れた空気感であり、治安面で懸念はあるもののポジティブな要素が大きい街であるというものでした。
しかし、到着してすぐ、その印象は180度変わることになりました。降りたった街は、Campus Martius ParkやカジノのあるGreek Townといった中心部のごく一部を除いてほとんど人通りがなく、高層の廃墟が立ち並び、雰囲気の良くない人が俳諧しているような場所でした。期待していたものとは裏腹に街の印象は鬱屈としていて、人通りのない裏道や廃墟の近くを通りかかると昼間でも身の危険を感じるような状況でした(実際に3日間の滞在期間中に市内で2件の殺人事件がありました)。今回ご紹介した内容は、再生の取り組みが実を結んでいるところが中心ですので明るい印象もありますが、市内のほとんどのエリアは下に挙げるような大小様々な廃墟が依然として残り、公共サービスも滞ったままの地域も多くあります。日本は公共サービスの質が元々高く、仮にデフォルトすることがあってもここまで荒廃することはないかもしれません。そういった意味でも、公共サービスや経済活動が機能不全に陥った街というのがどのようなものなのかを実際に体感できたことは非常に貴重な経験となりました。

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□1988年の廃業後から放置されたままのMichigan Central Station

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□郊外の住宅地には今にも崩れそうな空き家が連なっている(左) 街なかの空き家や廃墟は、銃や麻薬の取引をはじめとした犯罪の温床になっている(右)

最後が若干暗い印象になりましたが、とはいえデトロイトはご紹介してきた取り組みをはじめとして再生に向けた動きが今後さらに加速していきます。いずれまたこの街を訪れ、一歩ずつ暮らしを取り戻していく様子を体感してみたいと思います。

終わり (さとし)

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