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【レポート】OSAKA URBANDESIGN EXPOLRE vol.4『大阪の都市公園の思想』(講師:堤道明さん)

大阪で先進的な都市デザインを実践されてきた方々をお招きし、直接レクチャー頂くハートビートプランの社内連続講座『OSAKA URBANDESIGN EXPOLRE』。
 vol.4は、『大阪の都市公園の思想』をテーマに、もともと大阪市の経済戦略局で大阪城公園のパークマネジメントや、天王寺公園のてんしばプロジェクトを推進され、現在は長居公園の指定管理者である「わくわくパーククリエイト株式会社」で公園のマネジメントを主導されている堤道明さんに、長居公園の現地案内や、公園を核とした地域活性化の在り方やスキーム論、官民連携に向けて必要なことなどをお伺いしました。
今回は、その様子をレポートいたします。(担当:古庄)

 これまでの講座のレポートはこちらからご確認いただけます。

 今回のアーバンデザインエクスプローラーは、2部構成となっており、
第1部では、実際に堤さんに長居公園内を現地案内いただき、リニューアル整備のコンセプトやその狙い、各施設の再整備の内容などについてご説明いただきました。
第2部では、座学で大阪城公園のPMO事業も含めた大阪市の都市公園の思想について、レクチャーをいただきました。


第1部 長居公園のパークマネジメント現地視察

堤さんに公園内をご案内頂いている様子

長居公園のパークマネジメントのコンセプト

公園視察では、はじめに長居公園の再整備のコンセプトや、パークマネジメントの考え方についてお話をお伺いしました。
長居公園は、2021年4月からヤンマーホールディングスのグループ会社である、わくわくパーククリエイトが指定管理事業者の中心として、長居公園の管理・運営を行っており、堤さんは、その指定管理事業者の立場でパークマネジメントを担当されております。

まず、再整備にあたっての考え方について。「みんなわくわく、明日もわくわく。」をコンセプトに、食・スポーツ・アート・学びを軸にリニューアルが進められているのですが、ポイントは、いわゆる大きな箱モノ主導の開発のようなディベロッパー的な再開発ではなく、地に足の着いた計画を立てて進めている点だそうです。

また、今回のリニューアルは、スポーツと緑が中心である長居公園において、「食」や「学び」の場として整備する計画なのですが、特定の層・ターゲットに向けてアプローチするのではなく、あらゆる人に公園を利用してもらう狙いを持って計画されています。

一方で、長居公園のある東住吉区から子育て層が流出しており、アンケートでも「長居公園は広いけど、子供とゆっくり遊べる場所がない」という声もあったことから、ファミリー層の呼び込みには注力されたそうです。

ここからは、公園内の各スポットごとにご案内頂いた内容を紹介していきます。

①芝生広場

開放感にあふれ、気持ちのいい憩い空間になっているこの芝生広場は、もともと数本の木々が生えていて、その横に小さな売店があり、さらにフェンスで囲まれた屋内相撲場があり、空間が分断されてとても見通しの悪い場所だったそうです。それらを撤去して開放的な芝生広場に再整備しているのですが、あえて起伏をつけることで、ボール遊びや自転車の進入を防ぎつつ、腰かけやすいような形状になっており、ランドスケープの面でも工夫が施されています。

芝生の部分で約5,000㎡、広場全体で約7,000㎡の広さがあり、当日もレジャーシートを広げてくつろぐ若者など、多くの人が思い思いの過ごし方で楽しんでいました。


②相撲場

つづいてこちらの相撲場。2022年6月に完成したばかりの建物で、こちらも指定管理事業者が老朽化した相撲場を解体して新しく建設したそうです。(後々、大阪市に寄付で譲渡予定)

ちなみにこの相撲場は、大阪の大相撲春場所では、芝田山部屋の力士が利用さているそうです。

公共施設であるため、利用料金も安いそうですが、土は本格的なものを使用しているとのことで、僕も実際に土俵脇の調体柱(=鉄砲柱)で「ドスコイ」と一押しさせていただきました…!

相撲場のなかの様子


③スケボーパーク

つづいて、スケボーパーク。

こちら、パブリックパークでして、なんと利用料金は無料で、登録手続きをすれば、24時間オープンのパークを誰でも使えるそうです。

もともと長居公園内のスケボーによる騒音の苦情が相次いており、数年前に全面禁止になっていたそうなのですが、今回のリニューアル整備の一環で、スケボー専用パークとして再整備することになったそう。(指定管理業者が大阪市から設置許可を得て整備)

スケートボーダーの意見も取り入れながら一緒に設計も検討したそうで、初心者から上級者まで誰もが楽しめるように、複数のタイプのセクション(=スケボーで使用される構造物のこと)が用意されています。

なんと東京オリンピックの金メダリストもこの場所を利用しているとのことでした!

また、利用無料としていることから売上収入がないため、ネーミングライツで収入を得ているとのことでした。(スケボーパークの正式名称は「タイガーラックスケートボードパーク長居」)

現在、管理棟を設けて24時間スタッフを配置することで、大きな問題がなく運営出来ているようなのですが、今後の課題としては、「騒音」の問題と、「管理コスト」の問題とのことです。騒音に関しては、防音機能を果たす木を整備するなどの対策を講じているそうです。また、管理コスト面に関しては、QRコードで利用者の入出場を管理して、警備員の常設を簡略化する手段も検討したいと話されておりました。


④案内板とバナー

公園内の案内板に店舗の案内もある

道中、園内の案内板に飲食店舗の案内が載っていたり、バナーに企業名が入っていたりしているのを見て、すかさず堤さんに「これはどういうロジックで可能なのか」について、質問しました。

案内板については、公園施設の看板になるため、公園に合うものしか掲げられない制約はあるものの、占用許可を受けて設置している施設については掲載が許可されているようです。

また、バナーについては、「広告」ではあるものの、「案内バナー」とすることで、市の許可を得て掲出できているのだそう。バナーの製作費を賄える掲載料を企業からいただいているそうです。

植物園のバナー。「SHARP」の文字がみえる。


⑤長居わくわくファーム

親子で農体験ができるファーム

こちらは、植物園近くにできた「長居わくわくファーム」という農園体験できるエリアです。

大阪の伝統野菜などを中心に、多くの種類の野菜を栽培・収穫できる体験をここで実施しているそうで、家族連れに好評だったそう。

まさにリニューアル整備のコンセプトである「食」や「学び」の場としてつくられた場所ですね。


⑥水辺の散歩道

公園内のリニューアル整備工事の概要

水辺の散歩道、もともと植物園(=有料エリア)内部であったエリアの一部で、デッドスペースになっていた範囲の一部を散歩道として無料開放して、通行人が通れるように簡易な整備をした全長500m弱の道です。

その道を歩いてもらい、植物園に興味をもってもらって入園してもらうことが狙いだそうです。時間の都合もあり、入口付近しか歩けなかったのですが、池を遠くに見ながら散策できるこの散歩道は、歩いてとても気持ちいいような道でした。


⑦アスレチック「ボウケンノモリ」

つづいては、郷土の森エリアに新設されたこちらのアスレチック施設。
高さも楽しめる樹上で空中アスレチックを体験できるコースや、ハーネス無しでも遊べる小さなお子さん向けのコースなど、自然豊かな環境のなかで冒険を楽しめる施設になっています。

こちらは、元からそこに自生している木をつかってコースをつくっており、樹木の専門集団の方が運営会社をしていて、整備による樹木へのダメージを最小限にとどめるように工夫されているそうです。また、アスレチックの撤去の際には、もともとあった自然状態に戻せるようにしているとのことでした。

また、この「ボウケンノモリ」に限らず、長居公園内全域で、植栽の整備をとても大事にされている印象を受けました。例えば、樹木が密集した箇所には間伐を行って日照の確保をしたうえで、植栽の再配置をしたり、店舗周辺に植栽を新たに植樹したり、樹木医の診断に基づいて園地内への移植を行ったりと、樹木をきちんと大事にしつつ、再配置などによって緑地面積を確保されています。むやみに樹木を伐採して施設を建築しているのではなく、最大限緑を大事に考えられているのが、とても勉強になりました。


⑧エントランス広場

ヤンマー直営のフードコート型レストラン「YANMAR MARCHÉ NAGAI」
堺市発祥の桜珈琲。堤さんがどうしても出店して欲しかったお店とのこと。
こちらも桜珈琲さんが運営する洋菓子屋「confiteria S」

長居の交差点の側から公園(南西口)に入った箇所にあるエントランス広場には、新たに3つの店舗群を整備しています。

ヤンマーが直営で運営するフードコート型のレストラン「YANMAR MARCHÉ NAGAI」、中庭の桜が印象的な「桜珈琲」、パウンドケーキやクッキーなどを販売する「confiteria S」が営業しており、平日の昼間でしたが多くの方が利用しておりました。
また、後述する植物園でのチームラボによるアートプログラムの常設展示の効果もあり、夕方以降の利用もカップルを中心に多いのだとか。

なお、桜珈琲とconfiteria Sは、建物をヤンマーが建築して、建物賃貸借で貸しているそうです。

エントランス広場に設置されている座具什器も、今回のリニューアルに合わせて刷新したとのことでした。


⑨ヨドコウ桜スタジアム

最後に、「セレッソ大阪」のホームスタジアムであるヨドコウ桜スタジアムを見学させていただきました。観客収容数約25,000人のこのスタジアムの特徴は、なんといってもフィールドと客席の距離の近さで、臨場感のある試合観戦ができるそうです。


第2部 レクチャー『大阪の都市公園の思想』

1-1 これまでの経歴

レクチャーの様子


 それでは、はじめさせていただきます。少し雑駁な話になるかもしれませんが、今日は「大阪の都市公園の思想」というリクエストをいただいておりますので、大阪のパークマネジメントを始めたきっかけとか、裏話的なことも含めてお話を出来たらなと思ってます。今日お話する資料は、大阪市の公開資料等に基づいて作成したものではありますが、在職当時の記憶に基づく個人的な見解もありますので、私の話が大阪市の見解そのものではないということを先にお断りしたいと思います。

 私は、昭和56(1981)年に大阪市に入り、35年間勤務しました。市職員時代に僕が何をしてきたかというと、主に財政とか秘書部門におりまして、課長時代に経済振興、特に観光とかスポーツの振興の部署を担当をしました。その後、紆余曲折ありましたが、経済振興の局長級を務めることになり、大阪城公園のパークマネジメントや、天王寺公園のてんしばプロジェクトを推進したというような形です。

 その後、大阪市を早期退職することになり、セレッソに再就職して、ヨドコウ桜スタジアムなどのプロジェクトを完成させて、セレッソの立場でパークマネジメントをやるつもりだったのですが、のちにヤンマーさんがこれをやるということになり、セレッソからわくわくパーククリエイトに移籍をした、という経緯です。

2-1 大阪城公園の当時の課題

 まず、大阪城公園のPMO事業についてですが、大阪城公園はそもそも、大阪を代表する公園であって、しかも大阪城天守閣というキラーコンテンツを有しているのにも拘わらず、いまいち観光客が来られないということで、もっと活性化できるのではないかということで、2011年頃に検討ははじまりました。

 2011年には、大阪城天守閣には150万人の来館者がありました。ところが、観光バスの平均滞在時間はわずか1.5時間ほどしかない。これが何を意味しているかというと、バスの停留所駐車場から歩いてきて、大阪城の前や、城の中に入って写真を撮って、すぐに帰ってしまうというのが行動パターンだと推測されるということです。それはなぜかというと、来園者に対するサービスのメニューが全然ないというのと、やっぱり施設が不足しているのではないかという話になる。

 そうすると大阪市がお金をかけて投資をして、回収していけばいいんじゃないかというところなんですけども、当時の大阪市の財政状況は、非常に厳しいもので、大規模な投資が非常に困難であり、なかなか予算が取れないという状況でした。また、当時、大阪城公園は市直営の公園で、樹木の管理も含めて直営管理をしていたのですが、これが行財政改革の一環で、維新政治の基本である「民で出来ることは民で」というような話がありました。

 もうひとつ、課題として文化財保存・活用の観点があります。大阪城公園の大部分は特別史跡に指定されていて、簡単に建物を建てたりすることが出来ないんですね。昔あったものを復元することは可能なんですが、新たにつくるというのが難しいのです。それで、当時本丸内には2つの売店がありまして、既存不適格な状態でした。ちょっとした土産物と食事ができる売店なのですが、文化庁から「早く改善しなさい」ということを求められていました。

 また、旧陸軍の第四師団司令部跡(現在のミライザ大阪城)をどう活用するのかという課題もありました。実はこれも、特別史跡大阪城からすると厳密には既存不適格であったんですが、昭和の戦前の近代遺産ということで文化庁はこちらの建物に関しては改修して必要な機能を入れるのであれば活用を認めるというのが当時の方針でありました。
 この建物は、耐震補強の問題もありまして、今はNHKと合築になっている歴史博物館があると思うんですが、もともとはここに博物館が入っていて、軍の建物なので頑丈ではあるかと思うんですが、建物自体は震度6くらいになると潰れてしまうのではないかと当時言われていました。それで、博物館が移設した後、この建物が全く使われない状態になって、近代遺産ということで何とか活用しないといけないという現状の一方で、耐震工事をするには非常にお金がかかってしまうというジレンマに陥りました。さきほど説明したとおり、当時の状況では大阪市が大規模投資をすることは難しかったのです。


2-2 民間によるパークマネジメントへ

 そこで、民間投資のノウハウの呼び込みが不可欠なんだろうということで、有識者の先生と面談をして、先進事例の研究からはじめました。先進事例を参考にしようと当時言われていたのが、市立大学の嘉名先生なんです。
 ニューヨークのブライアントパークなど、NPOなどの組織が公園運営をしている事例などの話を聞き、公園の民間によるマネジメントが出来たりしないかと思うようになりました。そこで、パークマネジメントが事業として成立する可能性を探るために、民間ヒアリングを実施しました。
 当時は、2~3グループが興味をもっていただいて、意向などを聞いたのですが、その際に事業者さんが言っていたのが、「大阪城天守閣もこの事業スキームに入れてほしい」ということでして、大阪城天守閣を無いままのパークマネジメントは成り立たないというような話がありました。

 ヒアリングの結果、大阪城天守閣を含めた全体のパークマネジメントであればできるということが、なんとなく感触が得られたので、これを市の重点施策に入れてしまおうということで、当時の大阪都市魅力創造戦略の重点課題の一つとして、これを組み込むことにしました。

 他方では同時に、特別史跡大阪城としての保存計画を策定しました。この意図としては、単純にお金儲けのためだけにパークマネジメントを導入するわけではなく、民間の力も借りながら特別史跡としてふさわしい整備もやっていきますということを示す意味がありました。これについては、別の委員会で策定し、パークマネジメントの募集要項づくりに入りました。
 2013年に民間ヒアリングを実施したんですが、市から企業にヒアリングを行い、その企業だけを相手にするような要項をつくるとなると公平性が欠けるので、募集要項の確定前に「アイデア募集」というのを行いました。
 それで、結果としてはアイデアをいただいた企業がそのまま事業者として正式応募いただき、最終的に2グループに応募していただきました。

2-3 PMOのスキーム

 次は、パークマネジメント事業のスキームについてお話します。
 まず一つは、一般的な指定管理業務です。大阪城公園では、天守閣の施設運営や公園の維持管理の業務など、いわゆる指定管理者として、PMOさんにお願いすることになります。その維持管理にかかる費用については、大阪城天守閣の入館料や駐車場収入から賄います。維持管理業務の市からPMOへの委託料はここではゼロなんです。
 もう一つは、魅力創造事業です。新たにつくる施設、例えば城テラスであったりミライザ大阪城であったりの建物については、PMOのほうで作って、大阪市に寄付してもらうスキームになっています。これはなぜかというと、特別史跡であり、国有地であることが要因です。市有地がほとんどないんです。国有地のうえに民間施設を建てるとなると、しっかり賃料(占用料)をとられてしまうんですね。なので、建物を大阪市に寄付してもらい、「市の施設なので認めてください」という形で文化庁や近畿財務局と調整をして、了解をとり、このスキームになっているわけです。ですから、これらの施設は占用許可ではなくて、市に全部寄付している形になっています。
 他にも、イベントなどを実施して、PMOの収入にしてもらいます。

 維持管理にかかる全体のお金については、もともとがだいたい年間3億円ほどの税金をかけて管理をしていたのですが、PMOの実施後は、むしろ2億円以上の納付金を毎年固定で得られることになり、単純計算で5億円ほど収支が改善できるようになりました。

 なぜ大阪城公園の維持管理の業務代行料がゼロで成立したかというと、やはり天守閣の存在が大きいです。市の直営時代から天守閣は2億円以上の黒字を確保できており、駐車場収入もあったんです。また、売店も実はけっこう売り上げていたのですが、要はこれらのもともとバラバラに個々で得ていた収入をPMOに一本化できたのが大きいのです。固定納付金に加えて、利益の7%を変動納付金としてPMOから収受する契約になっているのですが、2016年度から2018年度まで、計画の1,800万(変動納付金の額)を上回る好調な状況で推移しました。その後はコロナで収入が得られず苦しんでいると聞いていますが。
 天守閣をPMOの管理に含めるかどうかについては、市のなかでも意見の割れたところではありましたが、最終的に僕は当時の橋下市長のところへ直接行きまして「市長、組織論をとりますか、民間投資をとりますか」と確認したところ、即座に「投資をとります」と返答があり、天守閣をPMOに管理してもらうことになりました。

 それで、実際に民間に任せたらうまく行くのかということについてなんですが、実は大阪城パークマネジメントを構想する前にも、観光政策として色々な仕掛けをやってきていたので、感覚はつかめていたんです。例えば、USJを誘致した際に掲げた「国際集客都市構想」などです。肝になるUSJの誘致に加えて、「もう1泊してもらって大阪を回ってもらおう」ということで大阪周遊パスをつくったりですね。これによって、大阪城公園の天守閣に来られる人も非常に多かったですし、江戸時代の浪花の街並みの再現が人気の、天六の「住まいのミュージアム」などにもたくさんの方が来られました。あとは、平成中村座の誘致も担当していました。大阪城をバックに昔の芝居小屋を建てるんですね。一番最初は扇町公園でも開催しました。それらの経験から、歴史を活かしたプロジェクトを通じた大阪城公園での誘客についてはある程度イメージができていたわけです。

 最後に、いまの大阪城公園の管理運営について私見を述べさせてもらいます。正直、「ちょっとやりすぎじゃないですか」と思っている部分もあります。大きなホール(大阪城公園に必要でしょうか…)をいくつか建設した際に、木をだいぶん伐採してつくっていますが、たしかに鬱蒼としていましたが、人と店舗が空間にマッチするような、公園にふさわしい建物を作っていく必要があると思っています。また、歴史公園にふさわしいイベントをやってもらいたいという想いも正直ありますね。
 長居公園では、あんまり儲からないんですけど、損が出ない範囲で、やはり大阪市民にとっても良くて、観光に来られる方にとってもメリットがある、そういったものが作りたいなと思って、こういうパークマネジメントとは一線を画したいと思ってます。


3-1 てんしばプロジェクト

 では、次に天王寺の「てんしばプロジェクト」についてお話します。これは、大阪城のPMOの整理が一通り終わったのちにやりました。
 背景としては、かつてのホームレスの人の多さから、公園利用者からの苦情が非常に多かったという過去があり、その対策として天王寺博覧会(1987年)の際にホームレスの方に公園の敷地外へ出ていただいたという経緯があります。それで、月日が経って天王寺あべのエリアに、例えばあべのハルカスができたり、通天閣新世界エリアが観光客に人気を博するエリアとなったりで、訪れる人が増えていったのですが、結果として、公園周りが周辺の周遊性を阻害してしまうような状況になっていたんですね。それで何とかしようということで。てんしばプロジェクトがスタートしました。
 昔は、公園脇から美術館に行くときに、青空カラオケなどが本当に存在したんです。おじちゃん達を相手にテントで1曲100円とかでカラオケを歌わしていて、これがずっと並んでいたような状況。そんな道を通って美術館に行くんです。(笑)
 そういうような状況に加えて、当時の天王寺公園は、花壇があって見た目は綺麗ですがほとんどがコンクリート舗装で、憩えるような空間が全くない、無機質な公園だったのです。
 それで、さきほどのカラオケなどのテント小屋の撤収からですね。これは建設局がよく頑張ってくれたんですけど、警察の協力も得て、全部撤去して、そこにできたのがてんしばなんです。僕が担当したのは1期のときでした。この時も実は、動物園も含めて全体をパークマネジメントとしてできないかと僕は思いまして。その方向で動いていたのですが、「動物園は独立行政法人化すべきだ」という意見が強く、実現には至らなかったのです。
 結果的にてんしばができて、天王寺が人気の街になり、地価も上がっていますので、そういう意味で成功といえるんじゃないかと思っています。これが一つのモデルになって、パークPFI制度ができたんじゃないかなと思っています。2期のほうは、少し公園らしさが欠けて、商業施設の中庭みたいになっているなと個人的には思っていますが…。

3-2 官民連携のポイント

 いまお話したプロジェクトは、官民連携に向けてプロジェクトを進めていった例なんですが、大事なのは「官民連携は手段であって目的ではない」ということです。行政は「民間活力を導入せよ」と言われると、それが目的になってしまいがちなんですが、それはあくまでも手段で、行政がしっかりしたビジョンを持っていて民間と議論して共有していくということがとても大事だと考えています
 もう一つは、行政の想いだけを全面に押し出しすぎて、民間の意向をないがしろにして進める事業が多いのも事実です。パークマネジメントを導入することが目的になっているような募集要項もよく見かけます。当時パークマネジメントをやったときは、経済戦略局という、どちらかというと観光とか経済振興の立場からやっているといたのですが、今はそれが建設局が主管になったということで、公園の管理の論理があまりも勝ちすぎて、少し行き詰っているようにもみえます。


4-1 長居公園のマネジメント

 最後に、長居公園についても紹介します今日ご覧いただいたように、コンセプトとして「みんなワクワク、明日もワクワク」をコンセプトに、スポーツ機能だけでなく、食やアート、学びなど「みんなのワクワクが花咲く公園」ということで世代を繋いでより豊かな未来を育むというのを目指しています。ヤンマーが「サステナブルフューチャー」というミッションを掲げていて、それを長居公園で実現したいということですね。それで、食・スポーツ・学びという軸で整備していきました。「食」というのは、都会だけど自然のなかで食の豊かさを感じられる空間のこと。「スポーツ」は、「する/観る/支える」という具合にスポーツに親しむことのできる環境のこと。「アート」は、日常生活のなかでアートや音楽に気軽に触れられる機会をつくりたい。そして、「学び」は、「五感で楽しむ体験」を通じて学びに繋がるような、新たな発見と気づきのある公園にしたいというコンセプトです。

 更に、安心安全でサステナブルな公園づくりを支えるテクノロジーということで、ヤンマーの色んな技術を応用しています。例えば、エネルギー変換であったり省エネであったり。あとは水質浄化もしています。さきほど見てきた植物園の水質も、ヤンマーなどの技術を使って浄化を始めているんです。数年かけて浄化する計画です。また、資源循環ということで、レストランとかで出る残菜をたい肥化して、それを公園の維持管理に活用していくというようなことも考えています。将来的にはロボットとかAIとかの情報技術を使ったパークオペレーションサポートシステムの開発を検討していくということで、公園を実験の場としていろいろなテクノロジーの応用を見据えています。
 

 整備の内容としては、ヤンマー直営レストランや桜珈琲などの店舗を入れたり、自然の木をそのまま使って遊べる体験型アスレチック「ボウケンノモリNAGAI」を導入したり、あとは嫌悪されがちなスケートボードについてもローカルスケーターと連携して整備してきました。もともと、危険走行とか騒音による苦情が非常に多かったんですね。だけど、東京オリンピックを契機にスケートボードの人口がすごく増加してきて。今は登録制にしていますけど、小さい子から非常に人気があります。ローカルスケーターと連携して施設の設計とか運営体制も進めてきたんですね。樹木を植えるなどして騒音の減少に取組もうとしています。ただ、ボーダーに対する苦情は激減して、安全で警備員もつけているので、安心して遊んでもらっているところです。利用者の4分の1くらいが12歳以下の方で、想定よりも低年齢の層にご利用いただいているところです。
 次に植物園ですが、土壌改良をしたり間引きしたりして、魅力向上を図ろうとしています。コロナの影響で利用者が落ち込んだのですが、今年(2022年)は非常に好調で、ちょっと期待しています。65歳以上と中学生以下の大阪市民は無料なんですが、もともと有料率は2割程度だったのに対して、今年はだいたい3割~4割になっているんです。新たな顧客も呼べているのかなと思います。あとはチームラボの効果もあるんだと思いますけどね。昼と夜両方の魅力向上によって相乗効果を図りたいと思っていて、豊かな花と樹木、それと水景があり、その水質浄化で水も綺麗にしようと思っています。夜間については新たな息吹をということで、チームラボによる「光のアートプロジェクト」の常設展示をしています。

 この展示をご覧になって、昼間の植物園も来てみたいと思ってくれる方もアンケート結果から見えてきていて、相乗効果が出てきたら良いなと思います。チームラボの展示に必要な色々な機器も、植物園っぽい装飾にしてできるだけ日中は目立たないように隠していて、配線も全て地中化しています。できるだけ昼間の植物園には影響がないかたちにしているのです。こうしたアートプログラムの取入れによって、昼だけでなく夜も活性化することができ、周辺の店舗さんも非常に賑わってきているので、ある意味地域貢献にもなっているかなとも思っています。
 あとは、緑を守るということを大事にしていて、植栽整備についてお話します。もともと密集していた背の高い木は減っているんですが、その代わり中低木や芝生を新たに整備して、緑地面積自体はむしろ増やしているんです。今回のリニューアルに際して、緑地が約3,200平米ほど減ったのですが、逆に新たに整備した芝生広場が5,300平米くらいあり、全体の緑の面積は増え、さらに視野も抜けたりするので、鬱蒼とした閉鎖的なイメージも払拭できました。芝生広場には、自転車で乗り入れられないようにあえて起伏を付けていて、人が憩いやすい空間にしています。


 この考え方はとても良いですね。普通は伐採すると緑が減るとかっていわれますが。


 はい。前提として、とにかく自然をできるだけ傷めないようにしようとしていて、腐った木などは伐採しますが、できるだけ移植をしています。今後は樹木管理のガイドラインをつくって、指定管理の残りの期間(約18年)でどういう計画で管理していくかを次世代にきちんと引き継げるようなパークマネジメントをやっていきたいです。

4-2 パークマネジメントと地域連携

 もう一つの特徴として、近隣の地域とか町会や商店街等の関係者とプラットフォームを形成して、長居公園に対するステークホルダーをもっと増やしていこうと考えています。まずは、スポーツ部会と緑部会と、それから今後食部会をつくろうと思っていて、例えばスポーツ部会では、新スポーツとかイベントの誘致とか、障害者スポーツの開催支援とかを考えていきたいです。緑部会も、これからの長居公園をどうして行くんだというところを議論してもらって、都会の里山みたいなところで、子供の健全育成にも貢献したいなと。あと、さきほど、子供が遊ぶ児童遊園があったと思うんですけど、あそこはちょっと手つかずなんですね。それで、もう少し運営で儲かってきたり、ネーミングライツとかが出来るようになって財源ができれば、あそこにもう少し新しいものを入れたいなと思っています。まずは何もない原っぱを作るっていうのも実は子供にとっては大事だと思ってるんで、そういうことからやりだして、その後手を付けていきます。これが割と良い取組みじゃないかなと思ってますけどね。


 そして、近鉄さんも針中野からこちらへ誘導したいとおっしゃっていただいています。針中野駅をもう少し使いたいということで、針中野駅をヤンマーのデザイン室と連携して、緑を感じられるような駅にしてくれています。また一度ご覧いただけたらと思います。駒川商店街という大阪を代表する商店街もありますので、そことも連携をして商店街のバナーを作ったりとかもしています。パークマネジメントを通じて、この辺のエリアの活性化に貢献したいなと思ってます。
 さっきも体験農園も見ていただきましたけれども、このあたりは結構農地も残っていて、ああいう体験農園的な取組みから、農地を維持するための貸農園のような動きが広がっていかないかなと思ってまして。「農業って楽しいな」とこのエリアの人たちに感じてもらって、貸農園を使ってくれるみたいなそういう流れが、滲みだしができたらいいなと思ってるんです。

 以上、雑駁になりましたけど、こんな感じでパークマネジメントについて考えてやってます。なにかご質問があればお答えします。

4-3 質疑応答

新津
 僕は大阪城公園の近くに住んでいて、子供も小さいので、色々な公園に行っているのですが、大阪市の公園のなかにも色々な棲み分けがあるなと思っています。大阪城公園やてんしばを担当された際に、市としてそれぞれの公園の役割とか特徴、あるいは差別化だったりターゲットが違うとか色々あると思うのですが、どういう考えで公園の特徴を考えられたのかお聞きしたいです。


 大阪城公園はやっぱり歴史公園なので、歴史に根付いた、歴史の息吹を感じられるようなパークマネジメントにしたかったのが一つです。森ノ宮駅の手前は、地域の方の利用も多く、もう少し手を入れてほしいというのが本音です。ボーネルンドの遊具も良いのですが、そのすぐ横の無料の遊具は錆びたままになってしまっているので。大規模なイベントもできるし、地区の公園としての機能もあるという具合に、両者を上手く共存させないといけないと思っています。
 天王寺の場合は、僕自身としては動物園も含めてもう少し大規模なパークマネジメントにしたかったんですけど、結果的にあのエリアしかできないっていうことになって。ああいう形で設置許可方式でしかできなかったというのは、やや心残りではあります。ただ、あそこはターミナルでもありますし、全体としてあのような緑の空間ができたっていうことは、良いと思いますね。結果的に地価が上がったりとか、住んでみたい街になってますし、周辺のエリアも投資も進んでますので。
 そうした想いも踏まえて、ここを地域に根ざした新しいパークマネジメント、デベロッパー型ではないパークマネジメントみたいなことを目指してやって行きたいと思っているのです。僕は、それぞれの公園のマネジメントは、公園ごとにちゃんとビジョンをしっかり掲げないといけないと思います。例えば東京だと、やはり公園ごとにパークマネジメントの在り方を検討してつくっておられるんですね。そうでないと、民間はやはり利益の最大化が目標ですし、官民の想いがズレてしまうのです。行政側が「公園をこうしたい」というビジョンをしっかり持って、そのために民間活力をどう活用するのかという議論をしなければいけないと思うんです。


 もし、タイムリープして遡れたとして、大阪市の立場で要綱を作り直せるとしたら、大阪城公園とてんしばは、「こういう風に変えてみたい」とかはありますか?


 やはり、てんしばは動物園も含めた公園全体でやり直してみたいです。パークマネジメントの中に動物園の可能性を活かせると思うんです。店舗が合って、芝生があって、動物園があって、美術館があるという全体のまとまりをつくってみたいですね。
 大阪城公園は、歴史公園として整備して史跡の整備計画も作ってるのに、それが全然忘れられてる感じがします。要項は間違っていなかったと思います。むしろ、候補者となる民間との対話をきちっとすべきでした。


 それはイベント内容とか施設の内容とか、そういうものの対話ということですか。


 そうですね。平成中村座でもちゃんと大阪城にちなんだ演目を作ってくれたんですよ、勘三郎さん。太閤夢桜という。最後に「花見に行こう」って後の幕がバッと開いて、天守閣をバックに桜吹雪が舞い散るみたいなね、短編でしたけど。大阪城でやらせてもらうのにふさわしい演目を作るって言って、やってくれました。とにかく賑わいさえ作れば良いというものではないと思います。

園田
 地域連携の話を最後の方でありましたけど、ここは元々指定管理が入っていて、切り替えのタイミングで今やられていると思うのですけど、そこで新しく色々リニューアルの計画が出た時とかに、事業が始まる前に地域の方や近隣の方と接点を会社として持たれたのですか。


はい、セレッソ時代から、結構ここは地域に愛されている公園なので、いろんな意見交換ができる場があったんです。プラットフォームという形ではないですけれども、いろんな議論をさせてもらいました。議員さんも含め、まちの人の意見はずっと聞いて回ったりしました。地元の活動してくれている地域振興会の女性部長のおばちゃんがいて、その方と仲良しなので、その人を通じて地域の声なんかを聞きながらやってきました。やっぱり、デベロッパー型の商業施設はいらんとかっていう声はありましたね。寛げる場を作ってほしいとかって。そういう意味では、今喜んでいただいてます。
 その後、議員さんから「地域の公園だからビジネスのための公園はいらん」という意見もあり、開発型のパークマネジメントは採用されなかったのだと思います。

園田
 さっきおっしゃっていた、プラットフォームという、いろんな部会を作ってやられるものは、この公園の立ち位置もありますけど、どんどん街に出て行くっていう方向を掲げていらっしゃると思うのですが、そうした公園外の事業者や地域との連携について、会社としてはどう位置付けているのですか。


 もちろん指定管理は指定管理としてやりますけど、別にお金を使わなくても、例えばここが実験場になって新しい健康産業が生まれるっていうのも、僕は必要なことだと思っていて、外部の企業さんに入ってもらって例えばデータを集めて有効なものにしていくとか、スポーツを通じて健康寿命を伸ばすみたいな取組みは、なかなかヤンマーだけではできないので、強みを持った企業さんとマッチングしてもらって進めていくとか、単に地域とか今使ってる人だけじゃなくて、ステークホルダーを増やしたいという思いでやっています。


 公園整備の全体の事業費はだいたいどのくらいなのでしょうか。 


 指定管理での収入はだいたい年間12~13億くらいです。魅力向上事業ではまだ利益は出せていません。それをコンサート収入で補っているような状況です。スケボーパークは魅力向上事業なのですが、だいぶんお金がかかってしまっていて。通常は魅力向上事業で儲けて設けて新しい投資をするんですけど、ここはそのようになってないんですよ。


 支出としてはどのようなものが多いのですか。


 やはり、維持管理費や光熱費です。夏場が暑くて雨も降らないので、水道代だけで400万くらいかかってしまうんです。電気代もこの頃上がっているので、大変なんです。


 そうすると、収入としては大阪市の指定管理料が一番大きくて、それを維持管理に充てているような構図ですね。それに+αして、スタジアムの利用料や駐車場収入という感じですか。


 そうです。あとは広告収入やコンサート収入ですね。

岸本
 ヤンマーさんが指定管理者になるきっかけは何だったんですか。


 もともとヤンマーはセレッソのスポンサーですし、他が指定管理者になるとセレッソがやりにくいとの判断もあったようです。ヤンマーの役員に「指定管理とはなんぞやということをレクチャーしてほしい」と言われまして、管理料金をもらって指定管理業務で市が決めた業務を淡々とこなしつつ、魅力創造のようなパークマネジメントの取組みをするんですと説明しました。要は、今後は民間投資を前提とした取組みになりますと。そのなかで、「ヤンマーは環境技術とか色々な技術をお持ちだから、長居公園を舞台に実験場にしたら面白いのではないか」、「それがヤンマーのブランドアップにも貢献するかもしれない」ということをお話したら、興味を持ってもらえて、その後にオーナー自身が色々長居公園を見て回られて、うちでやろうと言ってもらえたんです。実際、環境技術を使おうとか、再生エネルギーをもっと使おうとか、ヤンマーの今開発中の残菜を肥料化するような機械とかをここに入れて実験しようとか、サステナブルフューチャーを体現する公園にするという号令が今は出ているそうです。そうなると「食」、レストランは当然、ヤンマー直営ですよね。

5-1 夜の長居公園

 質疑応答のあとは、堤さんにも参加いただいてみんなでBBQを食べながら懇親会を楽しみました。ちなみに、こちらの会場である「GoodBBQ長居公園」も公園内の施設でして、BBQ機材や食材もすべて揃っていて手ぶらで気軽に楽しめる施設となっています。手ぶらで来て気軽に楽しめて、片付けも要らないのは良いですね。


 その後、事務所メンバーの何人かで、チームラボの「光のアートプロジェクト」の常設展示を見に行きました。これが常設で見れるというのはすごいです。夜の公園なのですが、とても賑わっていました。なるほど、堤さんのご説明のとおり、配線などはよく隠されていて、こんなに電気を使っているのに電源コードの束は見えないようなっています。「チームラボ」の展示を見た人が、こんどは昼間の植物園に来てみたいと思う気持ちがよく分かります。


《感想》

 公園の利活用を、「官」の立場でも「民」の立場でも取組まれてこられた堤さんが、「官民連携の前に、まずは行政が各公園に対してきちんとビジョンを持つべきだ!」とおっしゃっていたのが、とても印象的でした。官民連携は、あくまで手段であって目的ではないというのが、よく分かりました。
その前提で長居公園のマネジメントをみてみると、ヤンマーさんがいわゆるデベロッパー的な開発型ではなく、サステナブルフューチャーを体現する公園をめざして自社の技術をパークマネジメントに活かして運営をされているというのも、理想的な民間活力の導入のかたちで、カッコいいなぁと感じた一日でした!堤さん、ありがとうございました!










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