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場所に根ざして あるものを活かし、自分たちの手で実現する ―飯田暮らし体験記―【田中咲】

だいぶ季節が変化してしまいましたが、今年の1/12(水)―23(日)の間、長野県飯田市に滞在しました。
昨年度ハートビートプランでは、飯田市のリニア駅周辺整備に関わるプロジェクトに携わらせていただき、そのプロジェクトの中で出会った飯田で活躍される方々のもとで、約2週間、様々なことを体験しました。普段とは異なる環境、異なる仕事で、違う種類の緊張感を覚えながら、見て聞いて感じたことを体験記として綴りたいと思います。

主にお世話になった天龍峡

■飯田市とリニアとハートビートプラン
 
長野県飯田市は人口約10万人の地方都市です。今後リニア新幹線が通り長野県駅が作られる予定であり、ハートビートプランは2018年度の基本計画策定時と、昨年度に、プロジェクト全体の事業推進や、魅力発信施設、事業の情報発信について検討する立場で関わらせていただきました。その中で私たちが検討していたのは、予定乗降客数が1日6000人の、大都市間を結ぶいわゆる中間駅と呼ばれるような駅において、単に交通利用者のための駅にするのではなく、飯田の既にある魅力を活かしながら、日常として市民の方々に使っていただける駅を作りたい、というものです。

リニア建設予定地方面を望む

個人的な話で言うと、学生時代、アルバイトでお世話になった設計事務所で、この長野県駅の駅前広場の模型を作らせてもらっていたことがあり、社会人として異なる立場からこのプロジェクトに関われることをとても嬉しく感じていました。
 
今回飯田に2週間滞在してきたのは、先に述べたような、飯田に既にある魅力、と言うのであればまず、自分が飯田の魅力を体感する必要がある、地域の方々と同じ時間を過ごしたい、と思ったためです。
特にお世話になっていたのは、天龍峡で「テンリュウ堂」というシェアカフェを経営され、南信州で様々な地域活性の活動に取り組まれる株式会社松澤取締役の折山さん、そして天龍峡の地域活性、天龍峡ナイトミュージアムの総合プロデュースをされている株式会社宿研の島田さんです。

お二人が手掛ける天龍峡ナイトミュージアムは、一昨年度から開催されている、天龍峡第二公園を舞台にしたライトアップイベントです。名勝であり国定公園でもある、昼間素敵な天龍峡の夜の姿も楽しんでもらい、地域の方々の兼ねてからの夢であったライトアップが実現されたものです。
 

天龍峡ナイトミュージアム ライトアップの様子


本来は1−2月に開催され、そのお手伝いをさせていただく予定だったのですが、コロナにより直前で開催は延期に。それでも、中止・自粛にするのではなく、できることを考え代替企画をすぐに実施していく、という折山さん・島田さんの方針を伺い、私もどうしても行きたい思いもあったので、その旨お伝えしたところ、PCRの陰性を確認の上で、滞在を快く受け入れてくださいました。
 
滞在中は主に、ナイトミュージアムの企画の一つであった夜市の代替テイクアウトイベント(テンリュウ堂テイクアウトデイ)の準備・運営や、ライトアップの様子を少しでも味わってもらうための現地からのライブ配信に向けた検討、そしてそれ以外の時間は折山さんのほとんどの行動に同行させていただきました。
滞在を経て、特に印象に残っていることが3つあります。
 
 
■とにかくやってみる スピード感とダイレクトな変化
 
テンリュウ堂テイクアウトデイ(以下、TDTD)の準備・運営と、ライブ配信でとても驚いたのは、そのスピード感とダイレクトな反応です。普段の仕事で何か企画をする際は、1ヶ月前には何をやるか、何を設置するかを確定させ、その何ヶ月も前から繰り返しの協議をしているのが当たり前だったので、それとは全く違うスピードで何かを作り上げていく感覚にとても驚きました。
 
TDTDでは、ナイトミュージアムの夜市に出店予定だったお店の、お弁当やスイーツ、雑貨などをテンリュウ堂にて委託販売しました。TDTDは私が飯田に着いた日の3日後に1回目が開催予定だったのですが、具体的なことはこれから詰めよう、という段階でした。
開催までは、スタッフの方々と一緒に、レイアウトやオペレーション準備、春巻きの仕込みや、仕入れてしまって大量に余っているりんごの販売方法を検討し、デコレーションで可愛くしたりんごチョコレートを作りました。イベント当日はスタッフとして、商品の納品や補充、レジ対応に回りました。お客さんが店の外で既に待っている開店前ギリギリまでの準備や、レジに長蛇の列ができた時にはドタバタしてしまったものです。それでも、お客さんの楽しんでいる顔を見て、自分の作ったりんごチョコレートが売れた時は、とても嬉しかったのを覚えています。
飲食・物販の接客業は学生時代のアルバイト以来で、とにかく自分のできること、アンテナを最大限に伸ばして動く、ということで精一杯でしたが、作ったものが売れる、逆に良いものを作らないと売れない、自分たちの仕事がその日の売り上げに直結する、ということを味わえたのは貴重な経験でした。
無事盛況に終わり、最後にレジ締めをして売上を出店者の方にお渡ししたとき、出店者の方の「本当にありがとうございます」という言葉には、自分には到底想像が及ばないであろう、コロナ禍での飲食店の方々の状況に、深く考えさせられました。

試作中のりんごチョコレート
準備中のテンリュウ堂の様子


店内の様子

ライブ配信は、ナイトミュージアムの公式インスタグラムでライブ機能を使い、現地のライトアップの様子を配信しました。「ライブ配信をしよう」ということは決まっていて、何を伝えたくて、何のシステム・機材を使って、どのように撮影するかなどは、島田さんの会社のスタッフの方や、市役所にインターンに来ていた学生さんと一緒に検討しました。夜な夜なインスタグラムに上がっている参考になりそうなライブを見漁っていると、旅行会社などが、旅に出にくいコロナ禍において、色々と工夫を凝らした配信をしているのを知り、SNSの活用の可能性にも驚きました。タイミングが合わず実際のライブ配信は大阪に戻ってから見ることになりましたが、島田さんが、ライトアップの見どころスポットでその様子を紹介した時の、いいねボタンが大量に流れるなどの反応も楽しく、と同時に、生でこのライトアップを見ていただきたいという思いが増しました。
また、ナイトミュージアムに関する一連の企画の広報のために、島田さんが出演する、テレビ信州のロケ、中京テレビの生放送にも同行させていただき、中京テレビの放送直後には、フォロワー数が一気に増加するというダイレクトな変化に、待合室で興奮したのも覚えています。

ロケの様子
中京テレビのスタジオ内にて

決まっていないこともあるけれど、とにかくやると決めて動き出す。前例のあるなしに関わらず、批判や苦情のあるなしに関わらず、とにかくやってみないと進まない。みなさんのそんな思いで動き続けている、そんな現場でした。
 
残念ながら、滞在中にナイトミュージアムが開催されることは叶いませんでしたが、開催までの過程に少しでも関わらせていただいたことはとても貴重な経験でした。
普段は主には1年間の業務期間で、5年〜10年のスパンでプロジェクトに関わらせていただいますが、それとは別の、商売や宣伝のスピード感を体感し、また、B to BであろうとB to Cであろうと、自分達の仕事がエンドユーザーである市民の方々の評価に直結している、という感覚を忘れないようにしたいと思った出来事です。
 
 
■実感としての地域内資源の循環
 
折山さんの「ごはんだよー」という言葉に呼ばれ、毎日できたての野菜たくさんのご飯を食べました。
連れていっていただいたりんご農家さんでは瓶詰めしたてのりんごジュースをいただいたり、大根は部位によってメニューが異なり、漬物にするにしてもその大根の味を見て塩分量を変えるといったお話を聞いたり、山の中のレストランで魚のメニューを選ぶと突っ込まれたりもしました。今の私の体はこの土地のもので更新されている、と感じました。

歩いた後に沁みるりんごジュース
折山さんの美味しいまかない

 2週間お世話になった宿では、薪ストーブがあり、一番暖かかったのが薪ストーブでした(島田さんに教えていただいて、火がうまく起こせるようになったのは帰阪する前日のことです)。帰り道に薪を売っているガレージがあるのですが、とんでもない量でとんでもなく安いです。(ヨドバシカメラのキャンプコーナーで売っている薪の高さにぎょっとします。)今、私はこの土地の木のおかげで寒さを凌いでいる、と感じました。

最強に暖かい薪ストーブ
朝起きるとこの雪景色、寒い!

「選べることが文化度を上げる」という言葉を折山さんから伺いました。本物を見極める目を持っていないとそれは選べない。客側も問われているということだと思います。
普段の生活ではいつでもどこでも食べたいものが食べられます。旬や特産物、など特に関係なく、定番のあの味、あのメニュー、、、、。私は疲れて思考が停止している時は、特に好んでジャンキーなものを求めがちです。これ食べたら体に悪いよな、別に地域にお金が入るわけではないんだよな、とはわかりながらも、結局商品を購入するということはそのシステムを助長している、加担している、ということなのですが、それを選んでしまうほどに、自分の生活リズムや働き方の中で助けてほしい部分にツボが刺激されていて、なかなか変えられない。ギャップの中で生活している感覚があります。
 
また、2週間の間に、様々な場所に連れて行っていただき、歴史的資源も多く目にしました。旧飯田測候所、橋北橋南地区、下市田学校、、等々。保存されるだけでその歴史や価値を知る人は限られ、その人が亡くなってしまったら途絶えてしまう、という状況はよくあることだと思います。あるところで活用がうまくできたら他のところもそれに続くことができる、連携して地域全体としてよくなれば、として折山さんが取り組まれている各場所での活動を伺い、地域のものを使う、地域が持続するということがどういうことなのか、改めて考えさせられました。

旧飯田測候所
中心市街地を巡る裏界線
下市田学校

■大きなプランの中にもある、ひとりひとりの人生

空き家の増加する天龍峡駅前

 ある日には、天龍峡で新たに家を買いたいという私と同年代の女性の方を、折山さんが仲介されており、大家さんも含めた相談の打合せに、私も同席させていただきました。元々地元の方が住んでいて、今は空き家となっている一軒家で、大家さんから色々お話しを伺った後、家の中にも入らせていただきました。最近まで住んでいた、というその家は、広々としていて、書籍や写真をはじめとして生活の痕跡がたくさん残っていました。空き家はただの空き家ではなく、確かに誰かがここで生活していた過去があり、自分が思い出をつくるように、そこにも思い出が詰まっています。天龍峡に長くお住まいの方との立ち話の中では物件事情を色々とお聞きしました。テンリュウ堂では地域のおじいちゃんやおばあちゃんがふらっと立ち寄り、しばらくお話をして帰っていくことがよくあり、気合を入れよ、と私の背中もバシバシ叩かれたものです。下市田学校の中では陶芸の会が開かれていて日常的に集まっているようで、ある時には折山さんと一緒に、会の代表の方に教わりながらお皿を作りました。

下市田学校にて陶芸を体験!

社会人になってからの2年間で私が経験してきたのは、何かの整備が予定されていたり、実際に何かが整備された、整備しているというような状況で、何ができるか、ということです。「つくる」「つかう」という言葉をよく使いますが、この2週間で感じたのは、それ以前に、そこで生きている、という日常があることでした。
 
何かを作る、何かが立て替わる、ということに関係なく日常は動いていて、ただ、何もしなければ、廃れていってしまう、人がいなくなり孤独を感じる状況が多く発生してしまう、地域の方が大事にしてきたものが、その魅力が感じられなくなってしまう、という方向に向かっている。その価値をどのようにして伝え残していくのか、新たにどんな価値を付加できるのか、本当に必要とされているのは何で、何を残すのか、ということを折山さんたちは実践されています。
 
自分が今携わる仕事も、まちの人生に比べたらほんの一部の期間だということを改めて感じました。折山さんの「大きく変えようとは思わない、日常を小さく変えていくところから」という言葉は、どんなに大きなインフラやエリアを扱うことがあっても、そこにあるのはひとりひとりの人生の集合であり、変わるのはその人の気持ちや暮らしの一部分なのだ、と、色々一緒に回らせていただきながら振り返っていました。
 
 
■2週間を振り返って
 
大学院の卒業時期からコロナ禍が始まってしまって以来ずっと、思えば2週間近く居住地以外に住む、ということをしてきていませんでした。卒業旅行も行けなかったので、国内ではおそらく、ハートビートプランでのインターン以来だったと思います。
2週間でもまだまだ短く感じましたが、この滞在で体感した飯田の魅力を一言で表すならば、場所に根ざして あるものを活かし、自分たちの手で実現することであると感じます。
 
今回の滞在の裏では、自分一人で何ができるのかをきちんと受け止める、ということも思っていました。自分一人で地域にいるとき、当たり前ですが、会社のこと、仕事のこと、自分のことを話すのは私しかいません。地域の方と話すと、動いている現場の中に身を置くと、こう言えばよかった、この知識が必要だったと思うことは多々ありました。ただそれ以上に、自分が聞くだけ、受け止めるだけでなく、自分の考えを自分の言葉で伝えることと、相手の思いに応えられる技術の蓄積、想像力が必要だと強く感じました。そして、ひとつ確かめられたことは、自分の行動で誰かが少しでもよかったと思ってくれる、元気になってくれることが私のモチベーションだということです。
私たちの仕事は、コンサルという立場に限って言えばいずれは地域から去っていく仕事ですが、私はそこで出会ったお世話になり尊敬する方達と、仕事で終わらない関係性を築きたいと思っています。
 
社会人になって2年が経とうとする時に、自分は何者なのかを今より知るという意味でも、非常に大きな2週間でした。いつかまた、飯田のみなさんと一緒に仕事ができる時には、しっかり力になれるよう、それまでに力をつけたいと思います。
 
お世話になった飯田の皆様、この度は本当にありがとうございました。

(田中咲)


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