私はたぶん、デミセクシャル。

きっと、自分はノンバイナリーとかクエスチョニングで、男とか女とかはどうでもよくて、自分の感覚では決まりきってない生き方の中に強く「女性性」を求められるのが鬱陶しくて、それでいつも恋愛が嫌になるんだと思ってた。

そうじゃないと気づいたのは、なんとなく登録していたマッチングアプリで、話も弾んで結構いい印象だったノンバイナリーの男性から、二回目に会う予定を持ちかけられたときだった。

「また会いたい」の一言に、心臓が痛くなるくらいの嫌悪感を覚えて、なんでか知らんけど、怒りにもよく似た感情が湧いてきた。

誤魔化しようもなく「私は会いたくない」と感じてしまって、叩きつけられるように「女性性を求められていることだけが嫌だったわけじゃない」ことに気付かされて、自分の思い違いに嫌気が差してしょうがない。

ただの「会いたい」に、腹が立つほど「会いたくない」と思ったのは、なんでなんだろうか。

会って二日でもう会いたがる積極性が、なんでか私には節操のなさに感じられて気持ち悪いと感じた。
マッチングアプリなんだから当然の積極性じゃないか、という気持ちもあるのにね。

会ってすぐに「また会いたくなる」という心理が解せない私は、自分なら次に会うのは一ヶ月後とか、むしろ二ヶ月後くらい間があいたほうが心地よいと思いながら、Googleの検索窓に「付き合う前 デート 頻度」を入力して、一般的とされる概念を再確認してみることにした。

そしたら、返り討ちみたいに絶望した。

人と人が付き合う前のデートは二週間きざみが目安とか、マジ?
そんなに会っていたら「もう付き合ってるじゃん」と感じたけれど、とにもかくにも、世の中の多くの見込みカップルたちはそうらしい。

えー、信じらんない……。

出会って一ヶ月も経たない人と、自分の将来を検討できちゃうのって、どういう感覚?
恋愛にしろ結婚にしろ、いろんな関係の結び方があるものだけど、それにしたってパートナー同士のコミュニケーションだって見込まれるわけじゃん。
どんな気持ちで手を繋いでハグをしてキスをしてベッドインしてんだよ。

私は信頼関係ができてから恋愛への舵切りをするけれど、世の中の人は、恋愛をはじめてから信頼関係を構築しているということ?

ガードが硬いとかそういう話じゃなく、私だっていくつかの恋愛をしてきた過程で一通りのことはしてきたうえで、たとえば貞操観念がガバなのがデフォルトの世界だろうと、この世で最後の男女になったとしても、会ってそう日の経たない人間のことを私は「いつしかそういうムードになることを見込んで差し支えない相手」とは全然思えない。

中学生の頃には好きな男の子に告白してフラれて、別の人から告白されてようわからんけど付き合うことにした日もあって、高校ではそれなりのビッグラブを経験したから、自分は一応「普通」と呼ばれるような恋愛遍歴を持ってきて、歳を重ねる過程で性別の色分けがダルくなったんだと勘違いしていた。

くっそ面倒くさい傾向に当てはまるのは、デミセクシャルという言葉だった。

好きな人は好きになって、でも他人から性的な目で見られることはしんどくて、どんなに外見や内面が好みの相手でも、知り合って間もなければ色めいた下心も沸かないっていうのは、そういうことだったの?

デミセクシャルは、深く信頼した相手でないと恋愛的な感情や性的な感情を抱かないのが特徴らしい。いやもう、それじゃん。

高校を卒業してから十年以上、異性からアプローチを受けては鈍いフリして躱してきたけれど、多くの人の場合はそのタイミングでラブ的な感情が生まれるものだったんだね。

はーあ、気がついたところでフリダシニモドル。

とりあえず、マッチングした人には折を見てごめんなさいの連絡をした、去年の秋。

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