愛なのかもしれない
あたたかい。
陽の差し方も、においも、鳥の鳴き方も、私の鼻歌も、完全に春だ。
気持ちが良いので深呼吸。
喉を通るひんやりとした空気は、しがみつく冬。吐きだして残るのは春の味。
髪を切りに行こうかな。
水色のピアスがきらきら光って海みたいだ。耳たぶに海を。うきうきするね。うきうき。
あと1週間もすれば、みんな、あの白い冬を完全に忘れてしまう。
昔は春が怖かった。
今はもう思い出せない、理由もその感覚も。
別れで気付く寂しさなんて、愛しさなんて、またすぐに忘れてしまうよ。
わかっているけど。
ああ、みんな本当はわかっているのか。だから泣いているのか。抱き合っているのか。
それはそれで、寂しいね。
また会おうね、なんて笑顔で別れて二度と会わなければいい。
もう二度と会わないだろうな、と別れた人に、どうにかして会ってみるのもいい。
偶然会った時、気づかないふりをすればいい。
気づかないふりに傷つけばいい。
何にもなかったみたいに久しぶりー!と手を振ればいい。
思い出はそのままに、別れは惜しまず、今ここにある春のはじまりを抱きしめていたい。愛でていたいね。
きっと、あっという間に夏が来る。
そしてまた思い出す。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?