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intelは第12世代で性能・電力効率両面でApple M1とAMD Ryzenをぶち抜いたと勝利宣言したが、そう受け取られてない件

最近の発表会で、intelがかなり強気なスライドを出していました。このスライドの意味するところは、

intel CES 2022の広報スライドを筆者改変

1. Ryzen 9 5900H(Zen3)の定格45Wにそろえたとき、Ryzenより40%速い
 =次世代Zen4でも追いつくのに苦労しそう

2. M1maxの定格30Wにそろえたとき、M1maxより速い
 =より低い消費電力で(線を横に引っ張って20W程度で)M1maxと同性能を達成できる

であり、intel第12世代は性能でも電力効率でもライバル(AppleやAMD)を蹴散らしたと主張しているわけで、intelにとって派手な勝利宣言をした図ということになります(これの信憑性自体は後で議論します)。

ただ、このグラフを読んだにも関わらず、グラフの意味を理解できていないツイートをかなり多く見ました。

パターン1:大量に電力を食って数字を盛ってるんだろ!

このパターンはよく見ました。例えば下記のiPhone Maniaというサイトの記事はそれに該当するでしょう。

消費電力の面ではM1 Maxに軍配が上がりそうです。……M1 MaxはAppleが公開しているグラフによると最大で約30ワット、Intelの資料でも最大で約35ワットと遙かに低い電力で動作可能です。

Intel、第12世代Core i9はM1 Maxより高速とアピール~世界最速を自負 iPhone Mania

intelが出したグラフは、「第12世代は電力消費を30Wに固定したとしてもM1 maxとRyzen 5000番台のいずれにも勝利する」「M1 maxと同じ性能をより低い電力で実現できる」という宣言なので、「本当はいくら電力を使っていたんだ!?」という疑問には回答済みということになりますし、どのCPUもアイドル時はもっと消費電力が少なくなります。なお、例のグラフの延長線上にはコア数が同じCore i7-1280P (TDP 20-28 W)という製品のカーブをつなげることができ、最大28Wのオプションもすでに用意されています(し、デスクトップ用製品に電力制限を加えたテストでは、第12世代15W帯の製品はM1に近く、9W帯の製品は同じく9W消費するA15やSnapdragon 8 gen1に勝ちそうな数字を見せています)。

こういう解釈になるのは、グラフが読めていないのか、それとも「intelは爆熱」という"常識"が邪魔をして理解を妨げているのか、興味深いところです。AMDファンっぽい人でも情報を十分に得ている人はこういう勘違いはしていません。

パターン2:intelも少しはギャップを埋めたね

もう一つ見たパターンが、「intelはライバルを追い越した」という宣言の内容自体を読み取れず、「まだギリギリ追いついた程度で追い抜いていない」と解釈しているものです。スライドでは、intelは、Ryzen 5000番台の45Wモデルに対しては、定格電力でも40%高速で軽々ブチ抜いたという宣言をしていますが、「AMDにちょっと追いついたね」くらいの解釈のツイートをちょくちょく見ました。

こういう解釈は、「intelはかなり遅れていたからいきなり追い抜くことはないだろう」という"常識"が邪魔をしている、ということ以外に原因が思いつきません。

追記:英語圏でも同じ現象が見られた

notebookckeckのi7-12700H検証記事で、intelお手盛りの測定ではなくCinebenchR23(Appleシリコンにもネイティブ対応済み)で電力制限を行ったうえでパフォーマンスを比較した結果、Ryzen5000シリーズを上回る電力当たり性能を達成し、M1 pro並みの数字を出したという結果がグラフ付きで報告されています。

が、この記事のコメント欄の1番は、「この記事は不完全だ。電力あたり性能を比較しなければ意味がない」と主張し、記事のメインのグラフを全く読み取っていないため、あとから袋叩きにあっています。

思い込みが原因で記事をまともに読めないというのは、海外でもいくらでも例があるようです。

intelもちょっとおかしい

まあこれに関してはintelがちょっとおかしい面があり、M1やRyzen 7 5800Uが初登場した時点、約1年前のintelのフラッグシップはCore i7-1185G7でしたが、これはライバルCPUの2倍の消費電力(Apple/AMD 15W vs intel 28W)でせいぜい60~70%程度の性能しか出せず、惨敗と言っていい状態でした。

それが、1年前のフラッグシップを基準とすると、後継機種のi7-1280Pは同一消費電力で2倍の速度、電力をさらに1.5倍使うという代償付きながらi9-12900Hという新フラッグシップは3倍もの性能向上を成し遂げています。

加えてこの1年間、AMDは5900HX (45W)、AppleはM1 max (CPU部分のみで30W)など2~3倍の消費電力の新フラッグシップを出しており、再び同じ消費電力帯での比較が可能になって、1年で2~3倍の性能アップに成功したintelが勝利宣言をするに至ったわけです。

「1年で3倍の速度になりました」というのは、さすがにほとんどのPCユーザーの常識に合わないので一瞬理解できないのはやむを得ないのかなという気はします。

intelの大本営発表に疑問も挟んでおく

基本的にこの手の発表会で出される話は大本営発表であり、成果を盛っているので話半分で聞く必要があります。

注意点①計測方法

intelの提出した資料では、わりと純粋にCPUの性能だけを測るベンチマークを使用しています。簡単に実行できるベンチマークではCinebench R23(Appleシリコンネイティブ対応済み)がこれに近く、製品発表後もこちらのベンチを使うとintelの主張に近い数字になると思います。

ただ、Appleの場合は、iPhoneやAndroidでも使えるgeekbenchというベンチマークに強く、こちらではintel第12世代はM1に電力効率は勝てないという数字が出るのではないかと思います。こちらは様々なベンチマークの合成でメモリ性能なども寄与しており(Antutuにも似ています)、スマホのベンチマークで使われたこともあってAppleシリコンはこちらに特化して好成績を上げるように見えることが多いです。

なお、Blenderのレンダリング速度などはgeekbenchのほうが良く比例するので、スマホ専用ベンチというわけではありません。intelのスライドでBlenderベンチでM1 maxに勝っているという結果は、M1 maxが30Wでi9-12900Hは45W駆動だと見ています。

注意点②電池持ち

例えばCPUを全力で回せば(30W使い切れば)、M1 Macbook Proだろうがintel第11世代だろうが電池持ちは大差なく、約2時間で落ちます。M1 maxはCPUの30Wとは別にGPUが30W食っていて(96Wアダプタが付いてきますし、アダプタで計測すると最大90Wほど消費します)、同時に最大限回すとMBPの58.2Whのバッテリーでは1時間持たず落ちます。

「普段使い」の電池持ちに寄与するのは、どちらかというと中程度の負荷の時の消費電力が影響します。M1の電池持ちにはこれが大きく寄与しています。例えばM1はHTML描画や動画再生に特に強く、ほとんどアイドル状態と変わらない程度の電力しか消費しておらず(アイドル最大4W、動画再生最大8W)これが電池持ちを支えています(intel旧フラッグシップはアイドル最大8W、動画再生最大25W)。

intel第12世代は、絶対性能が上がって「中程度の負荷」を余裕をもって回せるようになったことと、Eコアと言う低負荷なら低い消費電力で回せるコアが追加されたおかげで、中程度の負荷ではRyzenに比べ低い消費電力で回せるということが明らかになっています。

ただ、intel第12世代が動画再生時にM1並みまで行くかは使ってみないと分かりません(EコアはARMのLITTLEコアほど小さくないため)。このあたりはOSとの連動性の問題もあり、Windowsではバックグラウンドタスクがゴリゴリ電池を消耗していることがあるので、CPU性能以外の部分で電池持ちに差がつく可能性も大きいです。

また、intelはターボクロックで過剰に電力を使うことを好む傾向にありるので、素性はいいのだからこれをどれだけ自省するかも見ものです。

また、intelの出した図からも読み取れますが、ノート用のRyzen 5000番台は消費電力を減らしても性能がそこまで変わらないという特徴があり、45Wの5800HはM1 maxに負けますが、15Wの5800UはM1に勝る性能を見せます。なので、15W帯の8コアRyzenはintel第12世代に対しても善戦、ないし上回ると予想しています。

また、AMDは同時に発表した新モバイルCPUでクロックの向上を果たしており、最大30%程度高速化したそうなので、こちらとの比較も必要でしょう。



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