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【トワイライト・オブ・ザ・シークレット・リリー・ガーデン】 #1


「イヤーッ!」
「イヤーッ!」

 静謐なアトモスフィアを湛えるドージョーに、2つのシャウトが響く。シズカが放った突きをシホが絡め捕り膝を押さえて引き倒しかける。シズカは流れに逆らわず、むしろ勢いをつけて回転し危険な肘打ちを相手の側頭部に仕掛けた! 「イヤーッ!」シホはこれをガード!

 更にシズカの無防備背中に突きを打ち込む! 「イヤーッ!」「ンアーッ!」吹き飛び倒れたシズカを追い、シホのストンピング攻撃! シズカはワーム・ムーブメントで避ける! 「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」!「イヤーッ!」「イヤーッ!」シズカが一瞬の隙を突き立ち上がる!

「「イイイイヤアアアアア!」」ミニマルな木人拳めいたカラテの応酬! 「イヤーッ!」「イヤーッ!」両者の腕が十字に組み合い、静寂が訪れる。……パチパチパチ。シホとシズカから僅かに離れたところに座っていたミライが拍手した。2人の張りつめた緊張が解ける。

「スゴイ!もう『アイドル戦争特に宇宙』のタテシーンは完璧だよ!」

 ダンス・ウェアを着た二人のアイドルはミライの差し出す飲料水を受け取って座り込んだ。「殺陣が一番不安だったけど、流石シホ=サン。上手く合わせてくれたわ」とシズカ。「この程度、当然のことだから」シホは無感情に水を呷った。

「はいはいそうね」毎度の友人の口ぶりに慣れたシズカも水を飲む。「そういえば、他の班は撮影だっけ?」ミライが言うのは他のアイドル達の事だ。彼女たちは現場へと赴き撮影を行っている。事務所のアイドルは幾つもの現場に散らばっている。「……確か、アンナ=サンの班がそろそろ帰って来るのでは」

「そうね。あの子たちなら順調だと思うけど……」心なしかシズカの顔が曇る。「どうかしたの?」「……いえ、私の杞憂よ」シホが言う。「何かあるなら言った方がいいんじゃない?」「……そういうシホ=サンこそ、何かあるの?」たちまち一色触発のアトモスフィアが立ち昇る。「ちょっとやめようよ」とミライ。

「ほら、私たちも撮影近いんだから台本の読み合わせでもしよう! 休憩したら!」「あなたはまだ何もしてないじゃない……」アイドルたちは立ち上がり、広いドージョーの出入り口へと向かった。ふとシズカの足が止まる。「何してるの。早く……」「……何か、来る」「え?」

 CRAAASH! 轟音と共にドージョーの天井が破れ、多数の質量存在の気配が溢れた。「アイエエエ!? なになに!?」ミライが床を転がり飛来するガレキを回避する。巻き上がった煙が収まると、そこには……巨大な招き猫像が鎮座していた。「……ナンデ」茫然とシズカが見上げる。シホもまた呆気にとられていた。

『NAAAAGOOO』巨大招き猫は一声鳴くと、大きく飛び上がり夕空へ消えて行った。3人のアイドルは慌てて飛び出した。外では更なる異変が起こっている。まずワータヌキ像が飛行している。地面を小人が行進し、ビルの壁面をピンクの象が歩いている。その他多くの悪夢めいた幻想的光景! フシギ!

 一早く正気を取り戻したシホが叫ぶ! 「とにかく建物の中に……」そこへワンハンドレッド・デーモン・パーティーめいてファンシー生物の群れが突進! 緑のタヌキ、時計ウサギ、ドードーなど非現実的存在! 「私に任せて!」ミライが立ち塞がりカラテを構える。古代ローマカラテの型の1つ、獅子の構え!

「イヤーッ! ……アイエッ!? アイエエエエエエエ!」ミライのポン・パンチは虚しく怒涛の如き群れに飲まれ、彼女自身もまた飲み込まれ、アワレなレミングスめいて押し流されて姿が見えなくなった。「ミライ=サン!」シズカは咄嗟に追い掛けるが、シホの制止を受け引き下がった。「もう手遅れよ。それより、あれ」

 指し示す方向には、先程と同じくファンシーモンスターの群がり。球状に膨れたそれは内部に何らかの質量を抱えているようである。「もしかして……」シズカとシホは駆け出し、ファンシー球体にカラテを打ち込んだ。「「イヤーッ!」」ボムン! 球体は雲散霧消し、中から2人の少女が転がり出した。

「アイエエエ!アイエエエ! ……あれ?」体を丸めて悲鳴を上げていた少女が顔を上げる。「カナ=サン」シホが声を掛けるとカナは目を潤ませて叫んだ。「シホ=サン! アイエエエ!」シズカはカナが庇っていたもう1人に注目した。「アンナ=サン。何があったの?」カナの腕の中で少女が震える。 ウサギの耳のフードが付いたパーカーの少女、アンナが顔を上げた。今日の撮影の同じ班だったカナとアンナ。そしてもう1人。ここに居ないのは。


「……ユリコ=サンが……暴走した」




 4人のアイドルはそこら中を飛び回るファンシー生物を避け建物の陰に身を寄せた。彼らは明確な意思を持っている訳ではなく、何かをしているようではない。その証拠に、目の前を虹色の蝶が飛び過ぎたが襲い来る様子はない。「……これはユリコ=サンのクウソウショウジョ・ジツ」アンナが語る。

「だけど、こんな大きいのは見たことない……」「どうして暴走を?」アイドルたちは強大な力を持つが、それを制御することは至難の業だ。ましてや経験の浅いアイドルともなれば、易く容易く力に呑まれ暴走を許してしまう。「今日の撮影で……なかなかOKが出なくて……最近ずっと撮影上手くいってなかったから」

 カナが俯いたアンナの言葉を引き継ぐ。「それでね、みんなでガンバロって言ってたんだけどね、ユリコ=サン辛そうで……事務所に着いたら様子がおかしくなって」「それでユリコ=サンはどこに?」「分からない……私達も逃げるのに精いっぱいで……」警戒していたシホが頭上を見上げた。

「増えてきた。動かないと」「でもどこに? ユリコ=サンも見つからないのに!」カナが悲鳴を上げる。モンスターの襲撃が堪えているのか。「あの人を止めに行かないと。……アクシスが帰って来る前に」現在事務所にいるアイドルは彼女達だけ。早急な対処が必要だ。「……監視カメラ」アンナが呟く。

「カメラ?モニター出来るのは事務所だけよ」とシズカ。「なら……行かなきゃ」決断的に立ち上がり、アンナが建物内に入って行く。慌ててシズカとカナが続く。最後にシホが飛来した笑い猫をチョップで撃退し、扉を閉めた。

 建物内にも怪物は点在していた。だが外に比べればその数は実際少ない。アイドル達は安堵した。彼女らが侵入した建物はレッスン棟であり、裏口に回れば事務所のあるビルへの近道となる。宙を泳ぐ熱帯魚の群れを避けながら一行は前進する。敵意を感じることはない。「…あれ」ふと、カナが足を止めた。

「どうしたのカナ=サン」シホが尋ねる。先頭のシズカ、そしてアンナも立ち止まる。「今、鏡にユリコ=サンが映ってたような……」カナはダンススタジオの強化防弾ガラス越しに見える鏡を指差した。「……何もないよ?」スタジオ内に入り全員が見渡す。「おっかしいなー。確かに……なにこれ?」

 カナの手に触れたモノ、それは白い花のようであった。「キレイ」「危ないッ!」ギャリン! 花に見惚れたカナをシズカが突き飛ばす。その0コンマ2秒後、鋭い爪を備えた歪な腕が床を削った! 「アイエエエ!」アンナが叫ぶ。鏡の中から暗褐色の鱗を纏った腕が生えている。鏡面が波打つ。

やがてもう一本の腕が生えると、ナ、ナムサン!窮屈そうに巨大なトカゲめいた怪物が上半身を露わにしたではないか!「GYAAAAA」醜い怪物は吼えると赤い瞳をアイドル達に向けた。再び爪が伸びる!「イヤーッ!」シホが右腕を蹴りつける!「イヤーッ!」シズカが左腕を蹴りつける!「「イヤーッ!」」 

シホとシズカが怪物の長い首を蹴り上げる!「GYAAAAA」怪物は呻いて鏡の中に引っ込んだ。「今のうちに!」少女達はスタジオを飛び出し、裏口へ走った。「い、今のなに!?」「あれは多分童話の怪物……」「そうじゃなくて! なんで私達が狙われてるの!?」「ブッダに訊いたら?」裏口を飛び出す!

 タタミ5枚程の距離を駆け抜け扉の鍵を閉める。追手の気配はない。アイドル達は肩で息をしてへたり込んだ。「ハァー……ハァー……助かった……」「カナ=サン、油断するにはハヤイ過ぎるわ。気を抜かないで」「そうよ。まだ何も解決してない」シホとシズカに窘められ、カナはよろめきながら立ち上がった。

「アイエエ……アンナ=サンはダイジョブ?」カナは手を繋いだ友人を見た。アンナは白目を剥いて頽れていた。「アイエエエ!? アンナ=サン!?」「ちょ、アンナ=サン!?」「まずい、何かない!?」「あっ、アメ! アメあった!」カナが口に飴玉を含ませると、アンナはうっすらと目を開けた。


「スミマセン……息切れしちゃって」
「仕方ないわ。少し休憩しましょう」
「そうね。事務所のソファで休んでて」
「もう! ナンデ!」

 明かりの点いていない事務所は無人のようだった。普段は事務員が仕事に追われている筈である。「コトリ=サンいないのかな……」「気を付けて。嫌な匂いがする」 シズカが注意深く探る。その足先に何かが触れた。カナが明かりを点ける。「アイエッ!?」ぴちゃり。シズカの靴先で真紅が跳ねる。床には血だまりが広がり、その中に事務員が倒れ伏していた。「コトリ=サン!?」シズカが抱き起す。コトリの顔は幸せそうに血に染まっていた。「……?」 シズカが訝しむ。その背後でシホがカラテ警戒する。室内に鏡はない。ソファで休むアンナも身を起こし、

「かっかー」
「……エ?」

 背もたれの上に不可思議な生物がいた。赤いリボンをつけた小さな生き物がちょこんと座っている。「・・・・・・カワイイ」思わずアンナの頬が緩む。だが。

「ヴぁいっ!」

 謎の生き物がアンナに飛び掛かった!「アイエエエ!?」がっぷりとアンナの頭に喰らつく! ナムサン、このまま丸飲みか! 「イヤーッ!」シホの腕が鞭めいてしなり謎生物を打つ! 雲散霧消! 「気を付けて!」シホはザンシンし周囲を見渡す。「うっうー」「ちー」「とかー」どこからともなく謎生物!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イ、イヤーッ!」たちまち事務所は戦闘空間に変わった! カナもカラテを奮い謎生物に立ち向かう。アンナはソファに蹲り頭を抱えていた。暫くして、謎生物の殲滅を終えてアイドル達は息を吐いた。「なんなの一体……」シズカがぼやく。「考えても無駄よ。それより」

 シホの指差す所にモニタが置いていある。監視カメラに対応しているものだ。アンナが頷きモニタに両手で触れる。「……ビビッドイマジネーション・ジツ……」ザ。ザザ。モニタの中にノイズが走る。それはやがて像を結び、事務所内の風景を映し出した。「ン……」続いて2階、3階と目まぐるしく移り変わる。

「……劇場……地下室……アリサ=サンの秘密の部屋……違う」次々と映る景色を飛ばしアンナはジツの網を広げていく。「……いた……!」全員がモニタを覗き込む。「ここは……庭園?」事務所の有する庭園。その中心には社長像が置かれている。それに背を預け、彼女は座り込んでいた。「……ユリコ=サン!」

アンナが呟く。ユリコの顔は抱えられた膝の中に隠れ、窺えない。「庭園ね。早く行きましょう」シズカが立ち上がりかける。「マッテ!」カナが画面を指す。シズカはモニタを見、ユリコと目が合った。正確には、カメラ越しのユリコの視線と。赤い眼差しが。ザ。ザザ。ザザザザザ。画面が乱れ、ブツリと暗転した。

「……ッ!」ざわりとシズカの首筋が泡立つ。こちらに向かう強い意思を感じたのだ。同様にシホも表情を険しくしていた。「行くわよ!」一行は出入り口を目指す。走る少女達を追うように、床から白百合の花が咲いていく。扉を開けると廊下の奥から黒い鳥の群れが飛来するのが見えた。「……シズカ=サン?」シホが振り向く。

「……先に行ってて」

 彼女の前には白い巨体。不格好な図体に長い首と異様なバランスの頭部。あれこそは聖なる獣、アルパカの現身! 「これは私の宿命だから」カン! 逆光がシズカの姿を黒く塗り潰す。一瞬の後、そこには濃紺のアイドル装束を纏った少女がいた。青いオーラが輝く。

「そんな……アブナイ過ぎるよ!」カナが引き留めようとするがシホは首を振った。彼女のイクサだ。「オタッシャデ」一言シズカの背に投げ掛けるとシホは走り出した。カナとアンナもそれに続く。「……行くわよ!」ニューロンをブーストし、超人的な動きでシズカが駆ける。「イヤーッ!」




「イヤーッ!」

 舞寄るイマジナリーコウモリをシホのチョップ突きが薙ぎ払う。先頭をアンナとカナが走り、シホがシンガリを務める。彼女達を追うファンシー生物を撃退する為だ。「……」シホは訝しんだ。もう随分と走り続けている。この廊下はこんなに長かっただろうか。シホは壁を見た。

 そこでは同じ顔をした少女が見つめ返していた。壁面を覆う長大な鏡だ。当然こんなものは事務所にはない。鏡の中を翼を持つ暗褐色の怪物が並泳している。「チィーッ!」シホは舌打ちし、カナとアンナを抱いて床を転がった。「GYAAAAA」怪物が飛び出し吼える! 

「「アイエエエ!」」

 鉤爪が廊下を削る!  シホは転がり起きてカラテを構えた。怪物は進路を塞いでいる。逃げ場はない。カラテあるのみ! 「GYAAA」前腕が叩きつけられる。シホはサイドフリップで躱しガラ空きの腹部に突きを叩き込んだ! 「GYAAA!」如何な怪物とて弱点をアイドル腕力の持ち主に打たれれば実際堪えるのだ!

 怒り狂った両腕が襲い掛かる! そこでカナは奇妙な歪みを見た。鱗に覆われた腕がシホを切り裂いたかに見えた。だが、無傷で死角から現れたシホは怪物の懐で低く身を沈めた。「イヤーッ!」そして爆発的に跳ね、怪物の顎を強かに蹴り上げた! ゴウランガ! これぞ暗黒カラテ奥義、サマーソルトキック!

「GYAAAAA!」怪物は暴れて壁を崩した。地震めいて揺るがされシホがよろめく。その隙を怪物は見逃さなかった! アイドルバランス力を発揮し即座にシホが立ち直る。そこへ飛来した巨大ガレキが迫る! 怪物が前腕で弾いたのだ! 側転回避! だがシホは直感した。(((私を狙ったんじゃない!)))

「ンアーッ!」カナが悲鳴を上げる! ガレキはカナ達のすぐ傍で砕け散った。振り向いて無傷を確認したシホの足首に何かが絡みつく! 「シマッタ!」それは怪物の尻尾! 「ンアーッ!」そのまま花札タロットの札めいて吊り下げられた! ウカツ! 怪物は残忍に牙を剥きカチカチと鳴らした。万事休すか!

「くっ、カナ=サン!」シホが叫ぶ。カナはアンナを抱き、怯えながら逆さまの友人を見た。「私ごと! 貴女のワザで!」「そんな……出来ないよ!」「ダイジョブ、ンアーッ!」尾が床に叩きつけられシホが呻く。辛うじてウケミを取ったが長くは保たないだろう。カナは立ち上がった。「私、やる!」

「……カナ=サン。ガンバッテ……!」アンナが震えながら応援した。「……スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ……」カナが深呼吸を始める。それは平安時代より伝わる神秘的呼吸法、フクシキ! それを見てシホは怪物の注意を逸らすべく奮闘した。何度も殴り付けられるが怪物はシホを捕らえ切れない!

「……スゥーッ……ハァーッ……」足首を掴まれたまま振り回され、シホが宙を舞う。その途中でカナの目配せを受けた。(((いつでもいけるよ!)))「GYURRRR」痺れを切らせた怪物が宙吊りのシホを押し潰す様にサンドイッチプレス! 巨大な鉤爪が迫る! 「イヤーッ!」シホは腹筋回避! アイドル筋力!  「イヤーッ!」次いでチョップ! 尻尾切断! 「GYAAAAA!」拘束を逃れたシホは回転着地し、飛び込み前転で怪物から離れた。入れ替わりカナが前に出る。

「スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……イイイヤアアアアアアアア!」

 ゴウ! カナがシャウトを発する。それは凄まじい衝撃波となって放たれた! 足元から床を破砕しながらカラテ音波が驀進する! これこそボーカルタイプ・アイドルに伝わりしウタ・カラテ! 歌唱力とコエ・ジツの融合により成される伝説の奥義だ! 衝撃波が怪物に激突! 「GYAAAAAA!」断末魔を上げ怪物は爆発四散! ナムアミダブツ! 更に全方位壁粉砕!CRAAASH!

 見えざる鏡が砕け、本来の通路が現れた。アイドル達は幻影の廊下を走らされていたのだ。一部の壁が崩れ外が見える。目指すべき庭園が。崩落した跡に足を掛け、シホは流れてくる不吉な風を浴びた。「さあ……」「ゴメ、シホ=サン……チョット休ませて……」床にへたり込んだカナが訴えた。

 ウタ・カラテは絶大な威力を有するが、才能に恵まれたカナにもまだまだ使いこなせるものではない。故に使用後の血中カラテ激減によるダウンは不可避であった。「仕方ないわね」シホも床に腰掛けカナがアメ補給するのを見ていた。「……そういえば、あなた達はどうだったの?」「エ?」

「撮影。大変だったんでしょ」「……うん。でもタノシイだよ。実際」カナが言うと、アンナも頷いた。「……ユリコ=サンが、励ましてくれた」「うん。みんなでガンバロって……でも、私、ユリコ=サンに……」俯いたカナから涙声が零れる。アンナが呟く。「……アンナ達、あれから何か変われたかな」

「……」三者の間に奇妙な沈黙が下りる。考えていることは明白だ。憧れの輝かしいステージ。あの光景はバタフライ・ドリームめいて現実感に欠けた。舞台を踏むまでに乗り越えた苦難、そして為し得た成功は己を変革し得る出来事だったのか。何も得ることは出来なかったのか。偉大なセンパイの背中は。

「……確かに私は、あれからどれだけ変わることが出できたか分からない」シホが立ち上がる。カナとアンナが見上げた。「でも、ステージは私一人で背負うものじゃないって、教えてもらった。だから私はユリコ=サンを迎えに行く。カナ=サンは違うの?」カナの曇った眼にみるみる光が満ちていく。

「そうだよ! ユリコ=サンを迎えに行く! まずはそれ! サウザンド……えと、なんかだね!」勢いよく立ち上がったカナに釣られアンナも身を起こす。「……アンナも、ユリコ=サンに伝えなきゃ……」4人のアイドルは夕日が照らす庭園を観た。ただならぬアトモスフィアが風に乗って届く。「……行くわよ」



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