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奈良クラブを100倍楽しむ方法#001〜第1節 開幕戦〜

開幕戦である。ホームでの開幕とあって、嫌がおうにも高まる期待。ついにやってきた2024シーズン。緊張感のなかキックオフのホイッスルは鳴らされた。

奈良クラブの昨年度との変更点は両エースの浅川選手と酒井選手を移籍と怪我で欠いていることである。彼ら二人の役割は非常に大きなものがあった。そこをどのように埋め合わせるのか、あるいは別のロジックを組み込むのかが最大の見どころである。


第一節のスタメン

停滞する前半

注目のFWには百田選手を中央に、右に西田選手、左に新加入の岡田選手という布陣である。中盤は昨年とほぼ同様のメンバー、ディフェンスラインもそこまで変更なし。GKは今年から背番号1をつける岡田選手がラインナップ。ちなみに、岡田選手は非常にフレンドリーな人格者で私は大ファンだ。

立ち上がりはどちらも静かにお互いの出方を見るような印象。しかし、奈良クラブはボールが回らない。特に堀内と桑島に全くボールが入らない。3トップは3人ともスペースでボールを欲しがるせいか動き出しは良いが、そこにボールが収まらないのですぐに相手ボールとなり、攻撃の時間が極めて短い。特に岡田選手の特徴をチームは掴みきれていないように見える。そして、シュートが打てない。打てないというか、そういうシーンまで持っていくことができない。やや相手をリスペクトしすぎたような印象で、しかも2失点を献上してしまった。厳しい印象で前半が終了。

振り返ってみると、FC琉球はかなり奈良クラブのやり方を研究し、アジャストしてきたという印象である。まずはバックラインを3枚、ウィングバックも入れると5枚で構成。こうすることで、奈良クラブの攻撃の生命線である両サイドでの数的優位を確保する。中央の14番のセンターバックの鈴木選手から右サイド上原選手へのロングフィードは常に正確で、プレッシャーがない場合はきっちりとここから攻撃を組み立てていた。百田選手がプレッシャーに行った時は良脇のセンターバックがヘルプに入り、ボールを保持する。攻撃に出た時は右サイドから大きく逆に振るような展開を多用しマークのズレを誘う。前半の2失点はいずれもこういう展開からの失点だった。FC琉球の狙い通りの前半と言える。

このあたりは、フォーメーションの噛み合わせという要因もあり、布陣した時点での相性が悪い。昨年のチャンピオンズリーズ決勝のマンチェスター・シティ対インテルの試合も似たような展開だった。インテルは現代の3バックのひとつの完成形のようなチームで、局面での数的優位からのボールの逃し方、決定力、どれもトップレベルだ。個々の力量ならシティの方が高いのだが、この噛み合わせを剥がすのはなかなかに難しい。言うなれば、奈良クラブは寝技に持ち込まれて泥試合にされてしまうと、結構辛いのだ。

逆にいうと、攻撃に出てきてくれる方が奈良クラブは戦いやすい。アウェーでの成績が良いのはそのためである。こちらの出方を見極められて嵌められると、そこを剥がす実力は、今のところない(今のところ、というのは、後半にはその可能性は見えた)。

開き直る後半

後半である。いまいちコンディションの悪そうだった生駒選手を交代。そして嫁坂選手も順次投入。特に嫁阪選手の投入はポイントになった。彼は利き足と逆サイドの右サイドで起用されたが、そのおかげで彼のところで一回ボールが収まるようになる。すると、周囲の選手はそこから動き直しができるので、相手にとってはポジションの修正をなん度も強いられる。結局のところ、相手に嵌められたディフェンスを剥がすにはこれしかない。フリアン監督は選手交代に関してはかなり的を得ていたと思う。

琉球も流石に疲れが見え始め、反転するほどの推進力がなくなり、中盤でのプレスは諦めてゴール前を固める作戦に。これでやっと奈良の中盤も機能しはじめて、ボールが動くようになる。本当はこうなるまで失点してはいけないのだが、終わったことは仕方がない。ここにきて前半完全に消えていた岡田選手にもボールが回るようになり、ドリブルで仕掛ける場面も増えた。そそして待望の今期初ゴールは百田選手。寺島選手のクロスに打点高くヘッドで流し込む。ここから俄然奈良のペースで押し込み続ける。嫁阪選手のヘディングは惜しくもバーを叩き、同点ゴール目前まで持ち込むがここでタイムアップ。惜しくも1−2での敗戦となった。

試合後にスピーチをする百田選手。すでに風格がある。

この試合の総括

良い面と悪い面の両方が見えたこの試合だが、後半の良い時間帯は相手が引いてくれたことも大きく影響しているので、奈良の自力でこういう展開にできたわけではない。また、奈良のやり方は丁寧にパスをつなぐサッカーである。後半の大味な展開は、もちろんそれが有効だったとはいえ、本来のスタイルではない。しかし、昨年はこうやっても点はあまり取れなかった。今期とりあえず、自分たちの形ではないにしても一点もぎとれたこと、それが百田選手のプロ初ゴールであったことは、今シーズン大きなレガシーになる可能性は十分にある。

J3は群雄割拠なので、ひとつの敗戦が致命傷にはならない。ただし、だからこそ連敗は絶対にしてはならない。次節はホームでの長野バルセイロ戦。しっかりと自分たちの形で勝利を掴み取りたい。

あるいは、「自分たちの形」を見直して試合に臨む可能性もある。後半の良い時間は、本来の丁寧さを開き直って捨てたことで、ボールの動きにダイナミズムが生まれたという面もある。今年のラインナップでいくと、丁寧なつなぐフットボールではなく、ある程度フィジカル面に寄せたスピーディーなフットボールを志向する方が合っているかもしれない。フリアン監督をはじめ、チーム全体がこの試合でどのような教訓を得たのかを確認する上でも、次節は非常に注目の一戦である。

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