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奈良クラブを100倍楽しむ方法#003 第3節 対カターレ富山 "Come rain(snow) or come shine"

J3第3節。奈良クラブの相手はカターレ富山である。
昨シーズン、富山は3位、奈良は5位でフィニッシュし、両チームとも昇格を現実的に見据えていること、今シーズン移籍や怪我で得点が課題であること、今期はまだ勝ちがないこと、ホームのユニホームが青基調であること、などなど、いろんな意味で似た境遇の両チーム。一番の違いはホームで強い富山、アウェーで強い奈良クラブ、という対比である。開幕からのアウェー2試合を負けなかった富山は、得意のホームで現実的なライバルである奈良を叩いておきたい。奈良も得意の(?)アウェーで富山を叩いておきたい。そういう意地の入り合いを予想したが、試合は予想以上の意地の張り合いの、かなり好ゲームとなった。


前半:高度な応酬と今シーズンベスト

 先発は第2節と変更なし。サブに入る選手も含めて、現状これがフリアン監督の考えるベストメンバーということだろう。長いシーズン、このメンバーだけでは戦えないので、これから全体の選手層の厚みも示していかねばならないが、2戦連続で同じ先発というところに、フリアン監督の思い入れを感じる。
 まず立ち上がりは奈良ペース。第2節から見られた傾向だが、守備時は國武が残り4-4-2の陣形、攻撃時は4-1-2-3の陣形で相手のボールの出所を潰していく作戦がはまる。西田選手、岡田選手の両ウイングは中に絞り気味でポジショニング。中央での数的優位を高めてサイドからのクロスはサイドバックに蹴らせる、みたいな意図を感じる作戦だ。この展開にやや富山は戸惑いを見せていた。ただし、奈良の両サイドバック、生駒選手と下川選手への負担はかなり多い。
 富山は中央が数的同数だが、サイドが気になるので中央の國武が空き気味。逆に奈良クラブも最終ラインは人を余らせない。その分高いラインの裏はGKマルク・ビト選手でケア。ラインはこの試合もかなり高い。この戦術だと、セービングが得意な岡田選手ではなく、ビト選手が合っている。アウェーとはいえ、あくまで自分達のやりたいフットボールを押し出す戦術だ。

 奈良ペースで試合が進むが富山もきちんと対応する。攻撃時は左サイドバックが残り3枚で百田選手、國武選手のプレスを回避。これに対して奈良クラブは西田選手の絞り傾向は残して右サイドバックのパスコースを切る岡田がサイドに張りサイドバックにはめる。左サイドはもう一つ工夫が見られ、下川選手ががややインナーラップ気味に中に絞るようなポジションに。これで右サイドの生駒選手が浮くので、ここから中にフリーで差し込む展開を狙う。つまり、富山から見て右サイド(奈良から見て左)へ選手を押し出すようなフォーメーションに対し、それに噛み合わせる形で奈良右サイドへ選手を押し出し、相手のはめ方を無効化しようという展開が見られた。ここの両チームの応酬はかなり見応えがあり、この試合はここの意地の張り合いを中心に試合が展開する。右サイドへの旋回をするときの堀内選手、中島選手のバランスの取り方は絶妙である。特に中島選手は生駒選手と西田選手へのサポートが絶妙にうまい。富山は選手目線でいくと、攻撃に出る時に國武選手を外しても次に中嶋選手が常に視界に入るような前半だったのではないか。翻って堀内選手はゴールキーパーからのパスコースを常に確保し、センターバックの二人への相手からのプレスはGKから堀内選手という回路で回避。これをされると相手のFWは自信を持ってプレッシャーにいくことができない。では、ということで堀内選手へのコースを消しにいくと前線に当てられ、それを堀内選手が悠々と回収し、前向きの展開を作り嫌なとこにバシバシと刺しこんでいた。これで完全に奈良ペースとなる。(前半30分まででこういう攻防があるJ3の試合の展開はあまり見たことがない。かなりハイレベルな戦術的な応酬をしている)
 富山の対応に対して奈良クラブがさらに上回った対応したので、富山としては混乱気味。こうすると富山から見て左サイド(生駒の裏)が手薄になるのでここを使いたいが、出所を抑えてられているので、なかなか展開できない。なぜなら、「すべてはお見通しなのだよ」とばかりに、ここに中島選手が常に立ちはだかるのだ。
 先制点はセットプレーの流れだが、そのセットプレーになるまでの奈良クラブのボール回しはやりたいことが形になった。まずはそこが良いポイントだ。この3試合の中でもっとも美しいシーンだった。前半30分から終了までの映像でご飯3杯はおかわりできそうだ。これだから奈良クラブはやめられないのである。

後半:富山の反撃、白熱の監督バトル

 さて、後半である。富山は松本選手を投入。前の枚数を増やしてシンプルに中へ、という狙いが見える。監督も身振り手振りで「早めに前線へボールを送り込め」というような指示を出していた。中央の相手の枚数が増えると、これには堀内選手ではなく、中島が対応することになる。すると中島選手が最終ラインに引っ張られることになり、奈良クラブの中盤のバランスが悪くなってしまう。ここから徐々に富山ペースで試合が進む。もっともそれが顕著になったのは堀内選手のボールの受け方が変わったことだ。とくに松本選手ははゴールキーパーとセンターバックを含めたラインと堀内を切るポジションを指示されていたみたいで、守備時には堀内選手の位置をしきりに気にしていた。奈良クラブの高い最終ラインをとにかく下げたい、という狙いが見える。
 もう一枚の交代は富山から見て右サイドにドリブラーの松岡選手を投入。彼は岡田選手の対応を捨て、サイドバックの下川選手と正対する。岡田は押し下げられたラインの間をケアするため、右サイドが守備時に数的不利な状況となる。ただし、これは富山もかなりギャンブルで後半の半ばからは岡田が常に浮いていることが多くなる(フリーの時間が長いということ)。「そっちがそうくるなら、こっちだってやらせてもらうぜ」という富山の監督の強烈なメッセージを感じる交代策だ。例えばここで、普通ならば岡田選手を下げてセンターバックの選手を追加し、5バックにすることで守備の安定を考えるという作戦が考えられる。が、フリアン監督はあくまで岡田選手を残す。お互い意地の張り合い試合が進むなかで、その熾烈さを増していく。めちゃくちゃ熱い展開だ。
 意地の張り合いで結果を出したのは富山である。待望の同点打が生まれる。右サイドのクロスからの得点だったが、以上の要因から富山がやりたかった形が実ったという流れだった。これは富山の監督の采配がまさに当たったということだし、それを結果に結びつけた富山の選手の気迫も凄まじいものがあった。敵ながら天晴である。
 同点打以降はよりお互い意地の張り合い。奈良も疲れが見えるが富山も同様である。富山は奈良クラブペースの前半に、かなり走らされているので、攻守の切り替えが遅くなる。そこへ雪も激しくなり両チームの選手の体力を削いでいく。お互いかなりキツい。
 奈良クラブ選手交代。西田選手から嫁阪選手、中島選手から神垣選手。中島選手はは本当にお疲れ様である。嫁阪選手は守備時から攻撃の切り替えのときにボールの出口を作れという意図ではないか。富山のシュートがポストを直撃する危ないシーンもあった。奈良クラブにはロングボールの出どころも抑えにかかるという意図は感じる。
 前節はパワープレーで同点打を献上した奈良クラブだが、この試合は比較的安定した守備を見ることができた。なにより、押し込まれてからひっくり返してのカウンターという形が何度か見られたことが修正されたポイントである。奈良クラブにも惜しいシーンも見られたが、コーナーキックがクリアされたところでタイムアップ。先発だけでなくベンチメンバーも総動員した死闘はドローという結果であった。

総括:MVPは中島選手

 個人的なMVPには中島選手を推したい。選手同士だけでなく、この試合はチーム全体での詰将棋のような攻防があった。その中で、変化する局面に対応しポジションを何度も何度も修正しつつ、チーム全体のバランスを取り続けた中島選手の貢献度には最敬礼である。
 前節からの流れでは、今節も得点を記録した百田選手、ゴールデンルーキーの國武選手も大変な活躍をしているが、あまりにも普通にプレーしているので彼らがデビューシーズンであることを忘れてしまうような立ち振る舞いだ。彼らの不安要素はこのレベルで1シーズン戦った経験がないことだ。それでなくても、夏場に90分走り切ることは厳しいだろう。山本選手や桑島選手がまだ控えているのは頼もしいかぎりである。
 岡田選手については、戦術的な部分でかなり悩んでいるような印象を受けている。彼の昨年のプレーを見ていないので今期のプレーでしか語ることができないが、彼はサイドアタッカーというよりもゴールゲッターなのではないか。タッチライン際でボールを受けた時はクロスがファーストチョイスだが、ペナルティエリアの角で受けた時のファーストチョイスはおそらくシュートなのだろう。そのとき、若干全体のスピードが緩まるような感じがある。後半に富山が攻勢に出るとき、彼にマークをつけなかったのは、この展開でいくと岡田がボールを持つときはシュートがファーストチョイスになるので、もしフリーでこられても純粋なサイドの選手よりも戻って対応しやすいと判断したからではと推測する。
 似たような例でいくと、バルセロナに移籍した当時のアンリである。何かのインタビューで、アンリはアーセナルでのセンターフォワードではなくバルセロナのウィングをする上で、かなり苦労したと語っていた。自分のプレースタイルをかなり変える必要があり、アジャストするまで時間がかかったというようなことを言っていた記憶がある。それぐらい、ウィングというポジションは難しい。特に、ポゼッションスタイルの奈良クラブにおいては、めちゃくちゃ難しい。
 彼には彼の良さがあるので、岡田選手には是非ともゴールが欲しいところ。今節はかなり戦術的な攻防であったが、こうした攻防は選手が自信をもってプレーできるかにかなり左右される。彼が覚醒すると、奈良クラブの攻撃を止める手段はかなり限定されるので、そこまで待ちたいと思う。まだまだ、伸び代十分である。

この試合の本当のMVP

 最後に、この試合最大の功労者はカターレ富山のチームスタッフの皆様である。試合開始前の様子では、昨晩からの雪でピッチは覆われ試合ができるような様子ではなかった。それが午後には、まるでそれが嘘だったかのようなピッチコンディションにまで回復された。ものすごく大変だったと思うが、この試合の開催に向けての情熱には頭がさがる。

 チームスタッフの皆様のおかげで、J3というレベル以上の白熱したフットボールを見ることができた。スタッフのフットボールへの情熱が、両チームの選手たちに乗り移ったかのような、熱い熱い試合を見ることができた。カターレ富山というチームの気概、歓待の精神には大いに見習うところである。素晴らしいチーム同士の、素晴らしい一戦であった。

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