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#2 スイッチブラストの話

今更これを取り上げるのも野暮ではありますが…

様々なジャンルのドラマーがtwitter等で話題に挙げ、去年あたりに少し盛り上がっていた記憶があります。
数あるルーディメンツのうち、フラム(装飾音符)を織り交ぜた手順をエクストリームドラミングに応用したものが広義のスイッチブラストです。
この名称は、両手を使い分けてブラストするのでその切り替え(=switch)に由来します。


例:フラムタップ、スイスアーミートリプレット

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本来フラム部は弱打で、かつ主拍に対しあえてズラすことでタイムラグを生じさせますが※、
スイッチブラストはフラム部を主拍と同時にヒットさせ、更には音量を揃えます
(※厳密にはフラム部を拍の頭とみなすか、主打を拍の頭とみなすかの2通りの表記が存在します)

つまり手順は類似していますがコンセプトは全く異なり、
当該ルーディメンツに含まれるダブルストロークを利用し、無駄な腕の動きを省き、反対の手の自由な時間を少しでも長く保つことによってブラスト部に金物等を加える(これが本来のフラム部)という、いわば効率に主眼が置かれています
大きな音で、はっきりと、速く叩くことが求められるジャンルでは他テクニック及びセッティングにおいてもこのような”効率化”を重んじる傾向がしばしば見られます。
というより肉体の限界との兼ね合いでなるべくしてそうなった、という説明がふさわしいかもしれません。

具体例をいくつか挙げます。

1つ目はLuke Hollandによる16分の3つ割りパターンのスイッチブラスト解説、
2つ目はChris Turnerによる16分の4つ割りパターンのスイッチブラストが使われた曲のライブカムです。

なおLuke Hollandはドラムコー(Drum Corps、マーチングバンド)出身とのことでルーディメンツに長けています。これに基づく圧倒的な基礎により独創的なフレーズを生み出せるという訳なんですね。
またChris Turnerに関しては難解かつ正確無比な演奏という点では右に出るものはおらず、練習への意識は最早ミュージシャンというよりもアスリートに近いストイックさを矜持とするドラマーです。

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見栄えを一切度外視し、叩きやすさに特化した太鼓類・シンバルの角度にはある種の機能美を覚えます。



さて、上記の動画におけるスイッチブラストを譜面に起こすと以下のようになります。
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ポイントはどちらも片手3打が含まれている点です。
これは従来のダブルストロークでは不可能で、リバウンドコントロールによって永遠にダブルを打ち続けるような”プッシュプル”というテクニックが肝となっています。
一度ダブルを打った後手を閉じきってしまうのではなく、同時に手を再び開くことで次のダブルへの待機状態へ手の形を持っていく、というもので、各指の脱力と独立が必要になります。
言わずもがな、基本のダブルストロークの習熟が欠かせません。


個人的にプッシュプルを世に広めた第一人者であると考える、Jojo Mayerの若かりし頃の映像です。
彼はトラディショナルグリップでもプッシュプルを使いこなす上、モーラー的な腕の旋回運動によりアクセントまで付けています。まさに努力の賜物です。

これから分かる通り、
プッシュプルはライドシンバルのレガートなどにも応用でき、
2打(ダブル)や3打(3打目を拾うだけのトリプルストローク)を超えた4打以上の刻みも可能となります。
要するに両手じゃないとできないことが片手でできるようになる、これ以上無い便利なテクニックなのです。



ちなみに、スイッチブラストのバリエーションとしてプッシュプルを応用して6つ割りというものも出来ます。
これは右手の負荷が増えるため、スタミナ的に難易度が上がります。

00:50~からのフレーズを、ギターリフの音の高低差をアクセントとみなしハイハットで強調する手法を取ると、
以下のようにアレンジできます。

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・初めの4打→先述の4つ割りスイッチブラスト
・以降→右手4打(プッシュプル)+左手1打&右手1打(折り返し)による計6打×2回

この2点を組み合わせることで右手が実質5連打になります。
実はこのアレンジで以前バンドカバーしたのですが(IGNITION fest 2019にて)、残念ながら映像は現存しません…

なお、このハイハットを頭一つのみに残すとパラディドルディドル的な手順(Rlrrll)にも派生できます。その場合は右手5連打の必要がないので、遥かに楽で汎用性が高いと思います。
しかも通常のパラディドルディドルとの差は頭1打をシンバル+スネアにするかシンバルのみにするかだけなので、よほどの拘りがなければプッシュプルを使う必要はないでしょう。
ただ、それではブラストビートではなくなります。

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(パラディドルディドルを右スタートにするために手順を変更)

詳細な公式のドラムカムが公開されていないのであくまで想像の域を出ませんが、このバンドのドラマーAlex Pelletierは筋肉でゴリ押すタイプなので、
恐らく片手のみで指でリバウンドを1打ずつ拾って高速で打つことにより対処していると思います。もしくは遅めのグラビティブラストで。(こっちかも)
このように、エクストリームドラミングはダブルなどの小手先の技術に頼らず、パワーを信じる愚直なメンタリティこそが必要、などという厳格な思想もありますが…不毛な論争なのでここでは言及しません。



最後に、手前味噌で恐縮ですが僕による16分3つ割りスイッチブラストを使用したフレーズの映像および譜面を掲載します。

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スイッチブラスト以外にも6連コンビネーションフィルからのスタックシンバルなど、2年前自分がLuke Hollandに影響を受けまくっていたことが見て取れる作譜です😂
彼のCinemaのカバーとTendinitisのフレーズをパクったこと、この場を借りて懺悔致します。ごめんね。







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