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バトルショートショート      ――『百足憑き』VS『望みの血』――

目次 


下は地平線まで広がる白いタイル張りの床。
上は異様なまでに高く広い、同様に白色の天井。

10数mの距離にて対峙するのは白い貫頭衣を着た2人の少女。
片方は短髪、片方は長髪の、未だ名無しの2人だ。
短髪の少女は手に大ぶりのナイフを、長髪の少女は手に小さな本を持っていた。

2人の容姿は髪の長さと持ち物以外、瓜二つであった。

「先に言っておくけど」

長髪の少女が口を開き、

「余裕なんてない。私が勝ったらあなたを殺すから」

能面のような表情で小さく端的に、だがしっかりと言葉を発した。

「…………」

対する短髪の少女は無言のまま。
片手に持ったナイフを、胸元でゆっくりと具合を確かめるように揺らし、構え……駆け出した。
仕合は既に始まっている。

初めに能力を発動したのは長髪の少女。

自身に向かってくる少女に向けて大仰な動作で、払うように手を振る。

すると驚くべきことに、振った手から肩口までの少女の肉体が、慣性のままに腕からすっぽ抜けた。
否、それはもはや手ではなく。

「――キシャアアアアア!!」

人間の腕ほどの大きさのムカデであった。
短髪少女の前に、放物線を描いて飛んでくる黒々とした節足動物。

「ッ!?」

ナイフを持った少女は思わず目を見開くも、咄嗟の判断でナイフを振るう。
意表を突かれたにしては上々の一閃。切るというよりは叩きつけるような動作で大ムカデを払いのけ――その先にスナップを効かせて放られていたもう一匹の大ムカデと激突した。
小さく悲鳴を上げて転倒。

床に転がった短髪の少女が反応するより先にその身体をグルリと首回りに絡みつかせる大ムカデ。そのまま容赦なく噛みつく。
少女の首筋に艶やかな大顎が埋まった。
顔を苦痛と嫌悪に歪めながら、少女は空いている手で大ムカデを掴み、胴を引きちぎり、立ち上がる。

見ると、長髪少女の両肩から先が無い。
彼女の足元には本が落ちている。開いたページには毒々しい黒と赤の光沢に輝くムカデの写真が載っていた。

半ばから千切れてもまだ顎の力を緩めない大ムカデ。短髪少女はそれを切除するより先に、相手に近づく事を選択。
彼女の能力的に、戦闘は近距離が望ましかった。
前傾姿勢を取り、駆け出そうとして、足首の激痛に再度身体を硬直させる。

最初に払った一匹が、少女の裸足に絡みついていた。無論その牙は足首の皮膚を突き破っており、同時に毒も流し込んでいる。

短髪少女が足元のムカデに気を取られた瞬間。

長髪少女は一気に距離を詰めていた。
タイミングを合わせて首元のムカデが短髪少女の腕を這いナイフを持つ手首に噛み付く。再びコンマ数秒の硬直。
その隙を見計らったように繰り出された長髪少女の蹴りは、相手の持つ凶器を弾き飛ばした。

そしてこの瞬間、長髪少女が両腕をムカデに変じてから丁度5秒が経過。
2匹のムカデが消失し、両腕が戻る。

長髪少女は相手に掴み掛かる。

ムカデの毒のせいか、短髪少女の動きは鈍い。

数秒に渡る無言の攻防の後、長髪少女がマウントを取った。
そのまま、両手で相手の両手を封じるようにして密着状態で覆いかぶさり、

――Body-Mutation『虫憑き』――
自身の肉体を任意の虫に変化させる。時間経過で元に戻る。

その姿が人間大の巨大ムカデと変じた。

この姿を維持できるのは1秒のみ。
しかし、1秒だけでも十分過ぎる。

白の貫頭衣を着た禍々しいフォルムの巨大ムカデが大顎が、短髪少女の胸部を挟み込み、抵抗もなく両断。
巨大ムカデは得物の心臓を上下に分けた瞬間、長髪少女へと戻る。その顔に、吹き上がった血液が大量にかかる。

(――勝った)

最後の時、両名の思考は一致していた。

――Blood-Mutation『ブラッドデザイア』――
自身の流血を望むように変形する。強度は経験に比例する。

分断された短髪少女の肉体から溢れ出す血溜りより、歪な造形の大ムカデが飛び出すように出現。
刹那、長髪少女の首を刎ね飛ばした。
信じられない、という表情のまま空中でくるくると回る少女の頭部が、更に2つに別たれる。
切断面の延長線上の空中には、真っ赤な色彩の大ムカデ。その形は一拍を置いて液体と化し崩れる。

地面で仰向けになったまま、上から降る己の血液を浴びつつ、短髪の少女はゆっくりと目を閉じた。

決着。
短髪の少女……一意《イチイ》の勝利。

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