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【制作者向け】謎解きの想定プレイ時間はどうやって設定すべきか問題についてのメモ

持ち帰り謎クリアツイート界隈では、「設定時間2時間って書いてあるのに30分でクリアした!」という、喜びか怒りか自慢のいずれかに該当する、プレイ時間とのズレを題材としたツイートが1日に1度は散見されます。

そのツイートの内容如何はまあお好きにしていただいてというところなのですが、「なぜその想定プレイ時間で行けると思った…?」という商品があることも事実。特に謎解きというのは購入前に中身を把握することはできません。数行のあらすじとビジュアル、プレイ時間や難易度で商品の購入を決めなければならない特異なコンテンツです。今回は制作側には時間の設定につながるTipsと、プレイヤー側には「こういう理由で設定されてるんだぜ」というところを共有してミスマッチを防ごうというのがこの記事の趣旨です。ささっと思い付きだけ書いていきます。まじめ!

■ホール型謎解きイベントでの時間設定

…という流れなので持ち帰り謎だけ書こうと思ったんですが、あとでいくつも記事も書くのは面倒なのでイベントの時間設定についても書いておこう。これからイベントをやる人は参考にしていただければと思います。イベントの中身の時間配分難易度設定については各自がんばってください。

こちらはいわゆるホール型謎解きイベント、今回は「映像や舞台を使い、役者や司会の寸劇等がゲーム時間外で行われる制限時間付きの謎解きゲームで、1回100〜200人が参加」のイベントと定義します。制限時間が60分のものは通常1日に3回〜5回行われるのが一般的で、映画のように決まった時間から公演がスタートします。

つまり制作側の目線だと「決まったスタート時間から遅れることは許されない」ので、事前の公演時間の設定がとても重要です。公演を構成する要素から時間を計算していきましょう。

■前説/後説時間
前説はオープニングや導入説明などの時間です。オープニング映像の長さや、コラボイベントであればそのコラボ元の説明などをどれぐらい入れるかで長さが変動しますが、お客さんは25分を超えると飽き始めるので注意。参考までに「オープニングが長すぎる」と評判だった弊社の過去のイベントのオープニング最長は27分ぐらいでした。だいたい20分ぐらいかと思います。

後説は謎解きの解説やエンディング映像が流れます。こちらも映像の長さで変動しますが、解説は「大謎手前以前の小謎はすっ飛ばす」というショートカットが使えますので、こちらも20分ぐらいかと思います。

イベント時間
イベント時間(制限時間)は予め設定していると思うので60分のイベントなら60分ですが、クリアチームが出ていない場合「残り3分のアナウンスから10分ぐらい経っても終わらない」という時の神様の気まぐれで時空の歪みが発生する可能性がありますので、制限時間+10分ぐらいを設定しておくのが理想です。

・復旧時間(転換時間)
設定する時に忘れがちな時間。イベント終了時にプレイヤーが解き尽くしたしっちゃかめっちゃかな状態から初期状態に戻す時間です。だいたい1テーブル2分ぐらいと換算して、それを復旧スタッフ数で割ると大体の所要時間がわかります。例えば20テーブルを4人で復旧する場合は「20×2分÷4人=10」で10分ぐらいが目安。慣れてくると「とにかく全部捨てる人」「とにかく小道具を回収する人」「新しく小道具を置く人」「最後に出来てるか見る人」で係を分担していくと早く終わります。鉛筆やセットするのに時間がかかる小道具などは2セットぶん用意しておいて、回収したものを次の回の公演中に裏でセットしておけるようにできるとなお良いです。

客入れ/客出し時間
設定する時に忘れがちな時間。客出し時間というのは、イベントが終わった後にお客さんが退場する時間のこと。この時間で物販を行うこともあります。最後のお客さんが出ていくまで最低20分程度は見たほうがいいでしょう。その後の客入れ時間はすなわち開場時間でもありますので、開演の30分前が目安です。客出し時間に復旧作業を行う事も可能ではありますが、どうしてもお客さんがいる場でがちゃがちゃ復旧するわけにもいかないので、ある程度までしか進められないというジレンマがあります。

…というのを計算していくと、例えば14時開演の場合のタイムスケジュールが分かってきます。

13:30〜14:00:開場
14:00〜14:20:開演・オープニング
14:20〜15:30:ゲーム終了
15:30〜15:50:解説・エンディング
15:50〜16:10:客出し
(15:50〜16:15):復旧

この時点で次の回の客入れの時間を考えてみた場合、無理のないスケジュールは「16:30開場・17時開演」です。つまり、理想的なスケジュールは「各公演開始時間の間が3時間以上ある」ことになります。しかしこの場合でも、各公演の間の休憩時間はたった15分。昼食用の時間も取る必要があるので1日4回公演は多少厳しいかな…という印象です。開場時間を15分前にする、スタッフを増やす、復旧工程を最適化するなど、工夫すれば「公演間が2時間30分/1日4公演」でも可能なので、それぞれで工夫して縮めてタイムスケジュールを調整していきましょう。

プレイヤーの皆様は「遅刻しない」「終わったら長居しない」ということを心がけていただければありがたいです。

■周遊系謎解きでの時間設定

続いて周遊系謎解きでの時間設定。受付等でキットを受け取って謎解きをしながら街歩きをする種類のイベントです。

ここで最も考慮すべきは「人の体力」です。人は街歩き謎解きを4時間以上やらせると途中で飽きてやめる可能性が高まりますし、大体の人はお昼すぎから始めてちょっとお茶しながら夕食までに終わらせたいので、3時間程度に収めたいところです。

周遊で頭を悩ませるのが、移動と謎のバランス。移動だけになったらただのウォークラリーですし、謎だけになったらただの持ち帰り謎です。ここで意識しておくと良いのが「移動:謎=1:1」の法則。最終的なバランスはさておき、3時間のイベントだったら90分歩かせて90分謎を解かせるつもりで作るのがちょうどよい塩梅になります。

移動時間を90分とした場合、だいたい5kmほど歩くことになるため、その範囲内で大まかに周遊エリアを決めていきましょう。個人的なおすすめは半径1.5kmの範囲内。行って戻ってくるだけで3km歩くことになるので、残りの2kmで謎解きに必要な遊びの部分を追加することができます。

時間を伸ばす、謎を増やすのであれば「このSTEPは移動は必要ありません。30分以上かかるので近くのカフェで休憩しながら解き進めてください」のように明確な休憩ポイントを提示したり、最後の方は「ここからはどこでも解けます。近くのカフェやお家でゆっくりと解き進めてください」などで最後のやる気の低下をケアするなど、構成上のテクニックでプレイのストレスを減らすことをおすすめします。

■持ち帰り系謎解きでの時間設定

最後に持ち帰り系の謎解きです。持ち帰り謎では「時間に縛られない」ことや「移動がない」ため、制作側も無尽蔵に謎を増やせます。プレイヤー側も各々の経験値やひらめき力が異なるため、プレイ時間を一律で設定することはほぼ不可能です。ここではプレイ想定時間の設定において考える手がかりを書いていきたいと思います。

・「すべての問題をきちんと解いた」時間を設定する
持ち帰り系の謎では、最初から最後までの問題が封入されています。さらに自分ひとりで解き進められるため、いわゆる「すっ飛ばし」をしやすい性質があります。すっ飛ばしはペンを使わないで解く「目解き」などの特殊プレイに近いものなので、このあたりを考慮する必要はありません。

・人の手は2本しかない
いわゆる「工作」「塗る」系の作業を伴う謎に関しては、どれだけ謎を解くのが早い方でも同等の時間がかかります。一時期、界隈のホール型のイベントで作業系の謎が多く見られたのは、一般の方々と謎解きの方々の時間の差をなるべく縮めたいという意図が含まれていたはずです。

・「謎マニア:謎フリーク:一般の人=1:2:4の法則」
純粋な謎解き問題に関しては、謎解きコア層と謎解きユーザー、一般ユーザーの解読時間はおおむね4倍程度の開きが見られます。5年程度前までは2倍程度だったのですが、近年のユーザー層の拡大や競技系謎解きのコアユーザーの熟成により広がりは拡大傾向となっています。ちなみに、この1:2:4の法則は、2015年頃に自分が提唱したもので、当時は「謎クラスタは一般の人の2倍速く解ける、ただし南晃は一般の人の3倍速く解ける」というもので、唯一、3倍の速さで解けるプレイヤーの名前を取って「南晃係数」と(局地的に)呼ばれていました。

そのため、制作者の皆様においては、該当商品の工作工程の時間を加味しつつ、謎解きの内容については制作者のプレイ感覚に3倍〜4倍を掛け算したプレイ時間が一般の感覚に近いものと考えて設定していくのが良いと思います。

■おわりに

プレイ想定時間というのはやっぱり制作者たちが好き勝手につけているものですし、どちらかというと一般の方々向けの側面が強いのは否定できません。この文章が、みんなのなんとなくの基準づくりの役に立ちますように、というふわふわした終わり方でおわります。あざした!


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