見出し画像

#縦走演劇 田宮虎彦×宮沢賢治 2days

埼玉西部では比企丘陵が南北に伸び、低山ながら変化に富んだ山道が細々と続きます。今回は飯能の吾野を起点に、ひと山越えて鎌北湖、翌朝もうふた山越えて越生、というルートをたどりつつ、3ポイントでそれぞれ1作品を上演して、物語世界と低山の風景を重ねていこうという試みです。2ルートはともに3-4時間のハイキングと、距離はそこそこありますが危険な地点はすべて回避しておりますので、ぜひ「山歩きまで観劇のうち」という雰囲気でおいでくださいませ!


プログラム


3/20(日)12:00@ゲストハウス吾野宿
※西武池袋線急行、池袋発10:20-飯能着11:12-同ホーム乗換1分-吾野駅着11:36。吾野駅より徒歩500メートル。
演目「卯の花くたし」(田宮虎彦貧学生シリーズ第1篇)
出演 角智恵子

◎吾野は秩父から飯能への養蚕経路としてかつて栄えたところで、上演会場である古民家吾野宿は長谷川伸「一本刀土俵入」一幕に出て来る安孫子屋のデザインモデルになった宿です。予約で泊まれます。お蔦姐さんが話しかけてきた2階は現存し、その奥の部屋で今回は上演します。また、町興しに熱心なご主人の大河原さんから、江戸時代から現代に至る当宿場の歴史についてのレクチャーがたっぷりいただけるという見逃せぬ豪華なセットが。
◎「卯の花くたし」は昨年から継続して上演してきています黒菅シリーズと並行して書かれた「貧学生シリーズ(仮)」の初篇です。京都の鹿ヶ谷にあります琵琶湖疎水近辺が舞台。軍国化が進む戦前の日本で学業を続けられる可能性を次第に失っていく学生たちの群像です。両シリーズは最終話においてひとつの連作として連結する仕組みになっています。料金投げ銭です。
   ↓↓↓

3/20(日)14:20@東吾野駅
※西武池袋線、吾野発14:09-東吾野駅着14:14
◎高麗川のほとりにあります吾野宿から北の尾根近くにあります「ユガテ」(埼玉最小の集落)に登り、さらに北の鎌北湖まで下るハイキングです。登りはやや急な山道、下りはおもにゆるやかな舗装路となります。戊辰戦争で敗北した振武軍の残党が逃走に使った地方で随所に遺構や説話が残ってもおり、田宮虎彦「霧の中」のラストシーンで壮絶に描かれた秩父事件の舞台のすぐそばでもあります。
   ↓↓↓

3/20(日)17:00@鎌北湖レイクビューホステル
※日曜日は公共バスが運休です。東武越生線東毛呂駅より5キロ。
演目「槍澤市左衞門の最期」(田宮虎彦黒菅シリーズ第6篇)
出演 高野竜

◎鎌北湖レイクビューホステルは、1980年代で日本中からほぼ消滅した謎の宿群のまれな生き残りです。現在では四国の遍路宿や西成のドヤにかすかに残るばかりですが、かつて置き薬などの行商者が豊富にいた頃には裏っぽい宿屋はそこらじゅうにありました。昨年上演しました井伏鱒二「へんろう宿」もそうですし、今年上演します田宮虎彦「足摺岬」には黒澤明が扱ったオイチニの薬売りが登場しますね。
◎さて、電話でホステルのオーナー氏から「普通に泊まれるよ」との言質はいただいております。食事と温泉コミで1泊7000円程度とのことですが、連絡がなかなか取れず、普通の観光客はここを廃墟だと思っており、最後の宿泊者が1年前という、きわどいことになっております。泊まれなかったらすみません(めちゃくちゃ泊りたいです)。館内のスペースでの上演を願っておりますが、かなわぬ場合は前庭でやります。お帰りに成る場合の足については当日現地で考えましょう。クルマはいちおうございます。
◎「槍澤市左衞門の最期」は黒菅城陥落の次の作品です。槍澤は前々回「菊の寿命」にて藩主山中重治より丹誠こめた日輪という大摑菊を褒められた小十人組頭で、決戦においては薩長軍の本隊と向き合う一番西の仙人沼峠(現実においては遠野から花巻にくだる峠道)に配備されていたが、二十倍近い人数の敵兵と無尽蔵な近代兵器に押されて退却を余儀なくされる。だがシリーズの随所に見られる藩士たちからの下戸や笙吹きへの嘲弄と同じく、菊作りという技巧は武士の恥とすら考えられていて、余儀なき退却は逃亡と見出され二度と前線に出されぬ羽目になる。というお話。登場する上司は横澤祐之進で、これは江戸から恭順討議のために帰藩する藩老鈴木鼎を東の赤石峠で暗殺しようとしていた山崎剛太郎ら過激派の先回りをして無事に随伴し藩の和議評定を成立させた、というエピソードが「物語の中」にある勇ましい男です。料金投げ銭。
   ↓↓↓

3/21(月祝)7:00@鎌北湖第二駐車場
※祝日は公共バスが運休です。
◎鎌北湖の上流側から獅子ヶ滝-曲鼻山径-滝ノ入-龍ヶ谷を伝います。曲鼻山径登り口から滝ノ入下山口までは東京電力の高圧鉄塔管理のために設けられた業務路が元になった山道という珍しいもので、2度の公演公演の経験を活かして、3度の現地下見の末に決定しました。散策路のようで安全ですが、本来の登山道であったはずの鼻曲山に向かう小径はいちじるしく危険でありまして、カモシカ以外が通れるはずのない急峻かつ脆く、垂直の崖にあるキャットウォークは15センチにも満たぬ激しいアップダウンのガレ径で、ザイルも取りつけられておらず掴まる立木さえないという、敢えて言ってみれば黒菅末期で現在728名の藩士のうちわずか13名の生き残りが逃げてるのですが、まさに「落人」主人公の山崎剛太郎がただひとり野獣のように逃げていったのはこういう径だろうと納得しました。お客様をご案内することはもちろんありませんが、遠目に眺めるだけならばできますのでお申し出ください。なお熊鈴はいくつかご用意します。滝の入以降は諏訪川・越辺川を渡ってさらに北の尾根に向かいますがすべて舗装路です。
   ↓↓↓

3/21(月祝)12:30@山猫軒裏山
※黒川行バス、越生駅西口10:20-麦原入口10:35。下車後徒歩2.2キロ。
演目「学者アラムハラッドの見た着物・増補版」(宮沢賢治原作、高野竜加筆)
出演 ひなた

◎ギャラリィ&カフェ山猫軒は今回の公演では利用しませんが、バス停下車後は店舗への道案内看板が適宜立てられていますので公演地まで直行できます。また店舗は11:00開店で、野菜カレー、ケーキ、アイスクリーム、コーヒーなどございます。調理に時間かかる場合が多いのでご注文はお早めになさることをお勧めいたします。
◎上演は、前半は2020年末のルートと同じ。後半は丸木橋渡り・急斜面登攀はやめまして、未舗装ながらずっと林道を歩きます。加筆したため上演尺は倍ほどに伸びております。全3幕ですが今回は1・2幕のみを上演します。全幕上演は今後の課題となります。料金投げ銭。
◎原作はインドか西域が舞台ではないかと思われがちですが欠損部分が多く証拠は見つかりません。植生や宗教観などからインド東部の先住民域が近代社会と出会っていく時代と考え、1917/08/19 Sun.におけるアナーチャルプラデシュ州インコンという谷川に沿った小さな町としました。当時はインド、ビルマともに未独立のため実質的には英…、チベットを領有しようとしている中華民国が攻め込まないための緩衝地帯として評価されてきたのが同州であり、現在世界が注目しているウクライナの立場と近いと考えられます。長老のおしえ以上のものは存在しなかった村に英国発の倫理や鉄道や鉱山が入り込んで来そうな時代。また、過去近隣地を舞台に繰り広げた「川」「はなうたのエレクトラ」「夢の光源」「夜郎別記」などと同じ課題を負うことになった地帯、とも考えうると思われます。
◎加筆に当たり、できるかぎり賢治の作品を引用しました。おもに「化物丁場」「イギリス海岸」(小説版の方)「種山が原」を参照していただけますと理解が深まるかと思います(もっとも種山が原を引用した3幕の上演は1年ほどお待ちください)。この3作はお互いに舞台が近いため気候や植生の描写に乱れが見られないという利点があります。化物丁場で崩落を頻発させている谷川はイギリス海岸の少し上流で北上川に合流する猿ヶ石川、被害を受けている鉄道は花巻発で当時釜石までは敷かれていなかった岩手軽便鉄道だと思われます。だとしますと、難工事が続くのは田宮虎彦の黒菅シリーズで天嶮の要塞と謳われていた急斜面、および荒くれた流れを続ける雪笹川、ということになります。そのこともありまして、インコン村を流れ抜けるジャムナ川、チベット語でいうところのヤルンツァンポー川の流れや方位は、姫神山に発し遠野でぐいと曲がって山脈を削り通して北上川に合している猿ヶ石川の流路や方位と揃えるために選び出した川であり、この一致を体感するために今回黒菅シリーズに頻発する雪笹川との連携上演としハイキングをハイキングを比企の高麗川、阿諏訪川、諏訪川、おっぺ川を頻繁に感じながら進みうるコースにしたことを、最後に付記いたします。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?