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エッセイ 山に登れ、そしてすべり降りろ(富士山すべり台をすべりに行った話)

 常々街の歴史というか、通りがかりの気になるものについて調べるのが趣味で、「趣味」とすら公言することもなく、細々こっそりとやっていました。調べている間は楽しいんですが、なんでこんなことをしているのか、自分でもよくわからないからです。調べてどうするんだろう、自分。

 最近、noteや公募を書くようになり、「あ。これ、『取材』ってことにしよう」という大義名分が思いついて、結構どうどうといろんなものを見に行き始めています。何を書くつもりだかわかりません。でも、楽しいんです。

 『富士山すべり台』をご存知でしょうか。富士山のすべり台です。名古屋には富士山のすべり台があるんです。郷土の本などでたまに見かけるので存在を認識してはいたものの、わざわざ見には行っていない。そこで、見に行ってきました。

これです。

「大ナゴヤツアーズ」さんの富士山すべり台ツアーです。その名のとおり、市内の富士山すべり台をめぐるツアーです。「気になるけど行っていなかった」じぶんにはうってつけです。

 案内人は富士山すべり台の第一人者、牛田吉幸さんです。

 許可を得てお写真を撮らせていただきました。素敵な旗をお持ちです。
 牛田さんは20年ほど公園遊具を追っていて、富士山すべり台に関する本も出版なさっています。

 格好がアクティブなのにお気づきでしょうか。そうです。私はよく理解しないまま申し込んでしまいましたが、このツアー、「富士山すべり台を見学する」ツアーではなく、「富士山すべり台をすべりまくる」ツアーでありました。

 ごらんください。これが、「富士山すべり台」。名古屋の柳公園にあるものです。牛田さんはこのタイプのすべり台を「プレイマウント」と呼んでいました。

 こうした、鉄でできた汎用品の遊具じゃない遊具って、どこの街にもあるんでしょうか。今度ちゃんと調べてみようかと思うんですが、この富士山すべり台に関しては、名古屋市役所の職員の方が考案して作ったものだそうです。なので名古屋市内にたくさんある。大名古屋ツアーズの紹介文を少し引用させていただきましょう。

公園で見かける「富士山すべり台」。名古屋市役所の職員さんが考案したコンクリート遊具で、名古屋の公園から東海三県へと拡がっていったことはご存知でしょうか?現在でも名古屋市92ヵ所、市外31ヵ所で計123ヵ所の富士山すべり台が残っています。

大名古屋ツアーズHPより

 そんなに…。「市役所のひとが考えた」から、著作権がゆるく、複製をつくってもいいんだとか。
 逆に、「プロの人が作った」遊具も存在するとのこと。これは万町公園のタコさんすべり台(「タコの山」というそうです)

 足がちゃんと8本あります。彫刻家の方が設計をしたらしい。子供達に人気で、ツアーでは子供達がご飯を食べに家に帰るお昼頃を狙ってすべりにいきました。

 興味深かったのは、先ほどのプレイマウントのあった柳公園の近くにある柳小学校で、小学校の中にカエルの形をした遊具があります。

 カエルの形はわかりませんね…。でも、すべり台を包むようにできているのはなんとなくわかるでしょうか。資料によると昭和37年のものだそう。ちょうどこの日は選挙があって、投票にきた親子連れのかたが、すべり台を見て歓声をあげる怪しい一団に話しかけてくださいました。
 お話を伺うと、ここの小学校のご出身で、親子二代でこのすべり台で遊んでいるそうです。昔はくぐりぬけるための穴があったけれど、塞がれてしまったとか、貴重なお話を伺うことができました。

 牛田さんによると、昭和30年代頃に、小学校で教育の一環として自作の遊具を作るムーブメントがあり、このすべり台はその生き残りだということでした。そこらじゅうにこうした手作りの遊具があった時代があるのか、と思うとなんだかほっこりします。

 現在の遊具についても、面白いお話をうかがうことができたのでちょっとご紹介しましょう。

 これは、なんの変哲もないブランコ……。
 注目すべきは、ここです!

濃いピンク色のところ。「ウチダ」って書いてありますね。

これは、遊具メーカーの名前です。正式名称は内田工業株式会社さん。名古屋市内の公園遊具は大部分はここのメーカーのものだそうです。市内のメーカーで、愛知県の選定する県内の優れたものづくり企業、「愛知ブランド」にも選ばれています。

 他の遊具も見てみましょう。

 「ウチダ」です!

 市内の公園遊具を見る機会があったら、是非「ウチダ」の文字を探してみてください。なんかすごく興奮します。

 さて、ツアーでは、6つの公園で富士山すべり台やたこの山、石の山などを滑りまくりました。富士山すべり台のいいところは、大人でも窮屈にならないところだと思います。元来こどもたちのための遊具なので、邪魔をしてはいけないけれど、枠やせまい階段のないおおらかな形は、体の大きい大人でも快適にのぼったりすべったりができます。

 最後に、柳森公園のプレイマウントの山頂でポーズをする牛田さんの写真をのせましょう。

 見事な登山感!

 この日は本当にいい天気で、八重桜なんかも咲いていて、絶好の登山日和でした。走り回って滑りまくった私は、うっかり手の甲をすりむいてしまい、次の日会社で「そのけが、どうしたの?」と聞かれ
「富士山すべり台を……むにゃむにゃ」
と、結局こそこそするはめになりました。

 ああ、でも、楽しかったなあ。

エッセイ No.047 

大ナゴヤツアーズは、名古屋を中心とした街の魅力を、ガイドさんと一緒にめぐるツアーを行っている団体です。主に週末、市内などで現地集合の形式でいろいろな企画をなさっています。

牛田吉幸さんについては、この記事が詳しいです。