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王さまとたね 8/8

  たねは、ずんずん育ちました。芽から葉、葉から茎がでて、いちにんまえの植物になりました。あたたかなひなたで、きいろい花を咲かせました。そう、みなさん、あのたねは、たんぽぽのたねだったのです。わた毛がとれてしまっていたので、ものしりなランプにも、なんのたねだか、わからなかったのですね。
  王さまたちは、まいあさ、中庭へあいさつしに行きました。
  ある朝、きいろい花は、まっしろなわた毛に変わっていました。わいわい、がやがや、ちいさな、ちいさな、ちいさな声が、たくさん聞こえてきました。
「王さま!」
「王さま! はじめまして!」
「はじめまして!」
  たねのたねが、たくさん生まれていました。王さまも、ランプも、もちろんさかなも、おおはしゃぎ。みんなは生まれてまもないたねたちと、すっかり友だちになりました。
  ふと、
「お願いがあります。」
と、たねたちが声をそろえました。
「ぼくたちを、とおく、とおくに、とばしてください。」
「お城のやねから。」
「たかいところから。」
「ぼくは海のほうへ。」
「ぼくは森のほうへ。」
「ぼくは野原のまんなかに。」
「ぼくは、まだ決めていないけれど、とおくへ!」
  王さまたちも、声をそろえてこたえました。
「もちろん!」
  王さまたちは、たねたちのねがいをかなえるために、そうっと、わた毛を取って、そうっと、かいだんを上りました。かいだんをのぼっているときも、たねたちはくちぐちに話をするのでした。
「きょうはとても晴れているね。」
「風もつよい。」
「ねているあいだに、だれかの声がしなかった?」
「したよ! 『とおくへ! とおくへ!』って。」
「中庭のそとには、いろんなところがあるんだろ。」
「それもその声が言っていた。」
「ぼくはねていてよく知らないな。」
「大人の声だったよ。」
「海があるって、きれいな海が!」
「どきどきするなあ。」
「わくわくするなあ。」
  屋上へつきました。王さまたちは、手わけをして、たねたちがそれぞれのぞんだ方角へ、ふうっとわた毛をとばしました。
「ありがとう!」
「ありがとう、お元気で!」
  最後のひとりを見送ると、お城の屋上は、まったく静かになりました。
「静かじゃなあ。」
と、ランプがつぶやきます。
「静かだね。」
と、王さまがこたえます。
「もうちょっと、話していたかったのにな。」
と、さかなはゆらゆら、王さまの頭のうえをただよっています。
  みんなは日が暮れるまで、お城の屋上から島のようすをながめました。

  お城はゆたかな緑に囲まれていて、森のほうからは、風に吹かれる木々の音が、海のほうからは、おりかさなって打つ波の音が、してきます。このちいさな島で、王さまと、空とぶさかなと、ものしりランプは、静かに暮らしています。でも、まいにち、いろんなできごとがあるので、ぜんぜん、たいくつしないのです。

今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。