見出し画像

王さまとたね 4/8

  そのころ、たねは、こんどは門石のあいだにひっかかって、動けなくなっていました。
「ぼくはよわくない。みんなより、ちょっとちいさいだけじゃないか。」
と、たねはしばらくのあいだは、まだおこっていました。ですが、おこった気持ちがおさまってくるにつれて、だんだん、さびしくなってきてしまいました。
「けんかのさいちゅうに、とばされてしまった。みんなもおこって、ぼくのことなんか知らないと思っていたら……。」
  たねは、どうにか、石のかげから出ようとしましたが、力が足りません。
「こんな日かげで育たなければならないなんて……。」
  くやしい、かなしい気持ちでいっぱいになって、たねはしくしく、泣きはじめました。
「どうして、ぼくはこんなにちいさいんだろう。自分で自分のことも守れないなんて、なさけない。ぼくはやっぱり、たねのままじゃいけないのかしら。どうして、ぼくは、このままではいられないのだろう。どうして、ぼくはひとりぼっちなんだろう。」
  たねは、ひなたにそよぐ草をながめました。まるで、たねのことなんて気にしていません。だって、たねは、ほかのみんなとは話せるのに、草花とは、話せないのです。
「みんな、だまっている。ぼくも、成長してしまったら、あんなふうに、動けもしないでだんまり、風に吹かれるままになるのかな。」
  たねは、そんなすがたを思いえがいて、ぞっとしました。
「ひからびて死ぬのと、どっちがいいかなんて、わかりゃしないさ……。」
  そうやってかなしい気持ちで泣きながら、どれくらいたったでしょうか。
「泣かないで。」
  上のほうから、声がして、たねは見上げました。さかながいちばんに、たねをみつけたのです。
「さっきはごめんよ。きみ、泣いてるんだもの、おどろいた。そんなにかなしそうに泣いているなんて! 泣き声といっしょに、幸せまで出て行ってしまうよ。」
  たねは、さかなにみつけてもらってうれしかったのに、さっきまでおこっていた自分がきまずくて、すなおによろこべません。それに、さかなのざっくばらんな話しかたが、たねには苦手におもわれました。
「ねえ。きみはまだ、かなしいんだね。」
  さかなは、ふわり、ふわりと、たねのほうにおりてきました。たねは、うつむいて、なにもこたえません。泣きたい気持ちをこらえているつもりなのに、あとからあとからかなしくなって、さかなにみつかったのが、いまでははずかしいくらいです。
「……。」
「しょうがないなあ。ぼくがとっておきの場所につれていってあげる。きっと、元気になるよ。ほら、乗って。」
  さかなは、たねを鼻先にちょこんと乗せると、ぐんぐん空のほうへ、あがりました。

今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。