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『劇場版 春を謳う鯨』 / 伊月 陣 presents 中山奏太& 成田 穂乃 presents 倉沢

【合わせて読みたい:これは大村鈴香という複雑なひとの心の奥に悠々と横たわる、訪れる者のない美しい湖、の水面を、みんなでひっそりと覗き込む連載小説、『春を謳う鯨』の、特別企画!劇場版の完成披露試写会で公開の特別映像、キャストインタビュー⑥伊月陣さん(中山奏太役)&成田穂乃さん(倉沢役)編です。←長すぎて全部タイトルに入らなかった!! ※わぁい、華やか〜♡なキャスト紹介はこちら、次は瀧仲安嗣さん(監督)編です】

(ハンディカム、普段着、古民家カフェで撮影されていて、チャプターでふわっと字幕が入ります→)

伊月 陣 presents 中山奏太


解像度

瀧仲監督はね、結構、放任主義なんですよね。いわゆるoutside-in法というか、どういうイメージでこう演じてほしいっていうのはすごく細かくおっしゃるんですけど、こんな人だからこうする、作品の中でこんな役割だからこう動く、というところがゴソっと抜けてて。うん。わざとでしょうね。だって、むしろ、演じると役者はどう思うか、役者に訊いて、撮影中に脚本変えちゃうようなことさえあるし。
しかも、どうして変えたのか言ってくれないんです。質問すると、どう思う?って訊き返される。わかんないから、訊いたのに(笑)。
話しに行くと、役者が納得するまで付き合ってくれるんですよ。けど、その人がどんな人かっていうラベルみたいなものは、監督からは徹頭徹尾、貼りません。話、聞いてもらってると、ああそっか俺、こういう人間なんだなって、「今まで気づかなかったけどずっとそうだった自分」に出会うことがあるんですよね。不思議な人です。
瀧仲作品には肌理の細かさがあるとよく言われますよね。瀧仲さんがコミットすると、わかりにくいんじゃないけど単純でもない、味わい深い話になるし…細かいところまで見ないといけないんじゃなくて、ただ、画素が圧倒的に多い。そんな、解像度の高さが生む美しさがあって、今回もそうだと思います。僕は瀧仲作品は今回で5作目になりますが、毎回、深い学びがありますね。

奏太だけが持つもの
鈴香への接し方が、奏太だけちょっと違いますよね。奏太にはいつも、「鈴香が」「自分を」どう思ってるかっていうスタンスがある。他のみんなは「自分が」「鈴香を」どう思っているか、鈴香がどんな人か、という話はしますが、鈴香が自分のことをどう思っているかは、コントロールしようとしてこない。
奏太だけがそこを踏み越えて、鈴香がこう思ってるから自分はこうするよ、っていう、なんだか言い訳っぽい、他責的な部分があって、それが鈴香からなんだか見下されてるんだろうなと思いました。
自分からそこに気づいた時に、やっとスタートに立てたかな。
鈴香って、鎧わないでしょ。楢崎は鎧うっていうか…まあ…(笑)で、ミナガワも、攻め要素のほうが強いというか、自分が好きって気持ちの方が大事で、それを鈴香が受け止めてくれるのが鈴香の気持ちの表れだと思ってる。佐竹は鈴香を評価する側、称賛する側の人ですし、麗には自分の価値観があって、他人の価値観に対して、奏太のような存在論的な興味はないでしょうね。
奏太だけなんですよ。わかってるから言わないで、って、すぐ自分に線引きして、それ以上の攻撃を防ごうとする。
そういうみっともなく閉じた感じを出しつつも、演じてて、ひと筋縄ではいかないなって思ったのは、一方で奏太が、ただただダメでつまんない奴ってわけでもない、というところですね。女の子の踏み台というか…雨の日の泥落とし用のマットというか、寒い日の薄すぎるけどないよりマシな毛布というか、そういう立ち位置ではあれ、普通の人には高嶺の花と思われるような女子を部屋に呼び込んだり、気の迷いでも、ですよ、浮気させたりしてる。奇妙な男性性があるんですよね、男にしか埋められない何かを、中途半端にでもとにかく埋めるような何か。
そういう意味では、この作品らしく独特の性的な風味がある人物だと思います。

倉沢さん
まあ、そんな具合に、男性性はあるっちゃあるわけですけど、女の子に本気になっちゃ、ダメなんですよねー…勝てる男性性ではないから。倉沢さんとも、奏太が踏み越えたり、しくじったりして、倉沢さんが不機嫌に黙るシーンがたくさんあって、いや、演技は演技ですけど、怒って黙ってる不機嫌な恋人って、しかも美人って、もう目の前にしたら頭が真っ白ですよね(笑)世の中にはこういう、いわゆる報われない恋愛してる男性が相当数いると僕は思ってるんですが、僕は対等に愛し合える人を好きになったほうが、人生が豊かになるだろうって、しみじみ思ったなぁ。おぉ、怖。

ありがとうございました。


成田 穂乃 presents 倉沢

ウォーリーを探せ
小説のほうではフォーカスされていなかった「倉沢さん」に、映画では脚本が入って、裏メロみたいに奏太との恋愛が走ってますよね。これは大役だなと、思いました。
演者の皆さんの中では、私がいちばん原作を読みこんだんじゃないかな。出てこないからこそかもしれません。まあ、倉沢さんだけを追っても、『ウォーリーを探せ』状態ですけどね(笑)初めは全然、ヒントがなくて。瀧仲監督とは陣さんと一緒に、とことん話し合いましたし、演技中は、鈴香の鏡という意識をずっと持ってました。なんといっても鈴香と対面しないじゃないですか。小松さんに付き合ってもらって、真似っこごっこしてみたりもしました。真面目な練習ですよ。
そういう試行錯誤の結果、表現としては、シチュエーションが同じでも、鈴香と倉沢さんで反応が全然違うことを意識するようになりました。
例えば、奏太が手を滑らせて、取り分けの食べ物を落とすシーンが鈴香にも倉沢さんにもあるんですが、興味なさそうにして次から自分で取る鈴香に対して、倉沢さんは奏太に怒って、上から目線で罵りながらも、取ってあげちゃう。

不倫沼
そんな倉沢さんには、わかりやすく不倫沼にハマってて、抜け出そうと足掻いてる一面もあるんですよね。いつも、堂島さんの「突然だけど今日、会えるかも」とか「年内には言い出すつもり」とかに振り回されて、てんやわんや。二番手の田中さんと良好な関係を保ちつつ、三番手の奏太を足蹴にしつつ(笑)、あと奏太との話の中にしか出てきませんが、玉の輿を狙いにいくと愛人枠を提示されることが多くて、コンプレックスになってるという裏話もあったり…なんでしょうね、この、なにかと迷走してる感(笑)。
性的なところでも、あ、私にはそういう印象があるという話なんですけど、ふわっとあげちゃってケロっとしてる鈴香に対して、倉沢さんのそういうのって、ご褒美とか、大好きだからとか、キープのためとか、理由がついてて、いちいち重いんですよね。鈴香と対置すると、私にはその重みが人間らしくて、あったかいですね。
身勝手なお姫様とか、計算高い女とか、高慢美人とかいう側面もありつつ、女の子的な必死さや優しさがあって、倉沢さんってすごく可愛らしい人だなって、思ってます。

好きな場面
好きな場面は、自分の出演では、人事部のシーン。私は会社会社したところで働いたことないので、ドキドキしました。あとはやっぱり、堂島さんが相変わらずの感じで急に来て、でもすごい荷物で、頬に痣があって、「ごめん、俺、何もかもなくなって、いま、この荷物と倉沢しか残ってないかも。俺さ、…ずるかったんじゃないんだよ。怖かったんだ、俺、本当は何にもない奴だから…。断ってもいい。けど…やっと、言える。俺と、一緒に来てくれる?」って言うあのシーンですね。ハッピーエンドなんだか…そこ、二人とも色んな人巻き込んじゃって、微妙ですけど…(笑)
作品では…まだ見てないんですが、普通に? 皆さんの絡みのシーンですね(笑)そう、結構私、俗っぽいところ、あって…お食事ご一緒させていただいたときに、倉沢さんのパートはそこまで攻めてないと思うなぁって、小松さんが苦笑なさってたんです。気になります。えー、みんなも、声を大にして言わないだけで、気になってますよね…? 

私も通しで見るのは試写会が初めてで、楽しみにしてます。どうだったかな…。

次回、瀧仲安嗣さん(監督)
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①小松悠莉さん(鈴香)
②西村ちなつさん(ミナガワ)
③柳居桔平さん(楢崎)
④崔真央人さん(佐竹)
⑤千住光太郎さん(麗)

今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。