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王さまとたね 2/8

  きょうは、ねんにいちどのおおそうじの日です。ふだんのそうじにくわえて、まどふき、たんすのせいりや、ひきだしのせいりに、もようがえ……王さまも、空とぶさかなも、ものしりランプも、おおいそがしです。
「おや、王さまがいないぞ。」
ランプがきょろきょろしていると、
「王さまはさっき、じぶんのへやをかたづけていたよ。」
と、さかながこたえました。
「でも、王さまはなんでもだいじにして、なんにも捨てられないから、きっととても時間がかかるだろうね!」
  さかなはくるりと、宙返りをして、わらいました。
「それに、王さまは、なんでもゆっくり! ぼくはすぐにかたづけおわったけど、王さまは、夜までかかるかもしれないよ!」
「ふむ。ちょっとようすを、みにいこう。」
  ふたりが王さまのへやをのぞくと、王さまはほうきをもったまま、ぼんやりしています。
「ほらね、言ったとおりだ!」
  さかなは、王さまのほうへ、すいすいとんでいきました。
「王さま、なにしてるの。はやくかたづけて、野原へあそびに行こうよ!」
王さまは、はっとして、ふりむくと、さかなにたずねました。
「さっきから、だれかの声がきこえるんだよ。ちいさいちいさい声が。けれど、まどのほうからじゃないんだ。聞こえないかい。」
  さかなとランプはきょとんとして、顔をみあわせると、耳をすましました。するとどうでしょう。
「……て。……よ。」
  たしかにだれかの声がします。でも、あんまりちっちゃな声なので、よく聞きとれません。
「王さまのあしもとから、聞こえるようだ。」
  ランプが近づきました。みんな、目をこらして、ゆかをさがしました。
「……ここだよ。ぼくは、ここ。」
  かすかな声が、みんなの耳に入ってきました。
「ほうきにからまってしまったんだ。ぼくをたすけて。」
  そうです、王さまのほうきには、ほこりにまみれて、ちいさなたねがひっかかっていたのです。
  王さまは、たねをとってあげました。ひらべったい、ぺらぺらのちっちゃなたねは、風がふいたら、とばされてしまいそうです。
「ああ、たすかった。」
と、たねはほっとしました。みんなは、たねのちかくに顔をよせて、ちゅういぶかく、たねの話をきいてあげました。

今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。