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『劇場版 春を謳う鯨』 / 千住 光太郎 presents 北原麗

【合わせて読みたい:これは大村鈴香という複雑なひとの心の奥に悠々と横たわる、訪れる者のない美しい湖、の水面を、みんなでひっそりと覗き込む連載小説、『春を謳う鯨』の、特別企画!劇場版の完成披露試写会で公開の特別映像、キャストインタビュー⑤千住光太郎さん(北原麗役)編です。←長すぎて全部タイトルに入らなかった!! ※わぁい、華やか〜♡なキャスト紹介はこちら、次は伊月陣さん(中山奏太役)&成田穂乃さん(倉沢役)編です】


(ハンディカム、普段着、古民家カフェで撮影されていて、チャプターでふわっと字幕が入ります→)

サスペンス
どうも、心に傷を負った麗し男子です(笑)。傷っていうか…廃墟ですかね…? 心に廃墟があって、そこで暮らしてる人ですよね。街に出ると、同じ風景を探しちゃうんだろうな。同じ風景なんてあるわけないのに。麗にはそういう危なっかしさがあって、はらはらしますよね。
はらはらといえば…麗のパートはとても人気があったとお聞きしてます。この作品、原作も映画版も、サスペンス仕立てなんですよね、前半は、恋人それぞれの立ち位置がはっきりしなくて、みんな「帯に短し襷に長し」というか、誰を選んでもなぁ、でも誰かを選ぶこともできる、みたいなゆらゆらした気持ちが鈴香にあるし、恋人たちは恋人たちで、鈴香を引き止めるかどうか決心できてない、ゆらゆらがあって。
劇場版では更に、一方で、選びつつ選ばないというか、順位付けがきっちりあって、「ゆらゆら」は駆け引きのために見せるもの、心は決まってるっていう、倉沢さんの世界も提示されます。観てるほうは人間を選んだり、比べたり、翻弄したりすることの残酷さみたいなものを感じて、状況的にかなり近い鈴香はどうなんだろうって、不安になりますよね。
それが一服して、鈴香に感情移入できたタイミングで麗みたいな、火を見るより明らかに誘惑的な人物が…。
これ、観た人にしか見せないビデオですよね?ネタバレいいの? ねー…映画に期待してた方には、残念でしたね。僕も、残念です(笑)
いえ、冗談です。キスシーン以降のなんやかやには、僕はまだ役者としての経歴が浅いと思うし…なくて、ほっとしたかな。今回、僕には映画に出演すること自体がひとつの挑戦でしたから、そこで俳優が本業のかたがたでさえ「挑戦」と言われるようなことに、更に挑戦する余力はないですよ。とはいえ、僕が観るほうだったら、ちょっと残念かなとは思いますね。謎だった奏太のパートが明らかになっているだけに、期待しちゃいそう。
僕はというと、やっぱりそこは原作のライン出ないんだなって思って、逆に、お話の流れを確信したかな…。
心理的に遠い、恋愛とよぶにはあまりにもお粗末な奏太との「間違い」から始まるこの話が、麗のところに来て、気持ちいいほど逆転する。奏太と麗の外側はもちろんですけど、「興味ない、知る意味がない」から「興味津々、奥の奥まで知りたい」に、「したくないのにしちゃう」から「したいけどしない」に…で、鈴香の目がキラキラしだすんですよね。僕は自分が演じてるから贔屓目はあるだろうけれど、麗のパートは、潮の満ち引きで言うと満潮っていうか、ずっと高まってきた水位が、やっときちんと「高い」に入ったような、そういう高揚感がすごく、好きですね。

不安
麗のパートっておまけみたいに始まるので、初めは、最後にもう一押し的な年下の男の子役かなって思ってたんですね。でも、早いうちに伊月さんとお話しする機会があって、そこで、俺ら超重要な役だべみたいなことを伊月さんが仰ったんです。そこで、奏太と麗が見事に対照的だってことにはたと気づいて。
遅すぎるかな? 実は、監督からはあんまり…そういう、外堀から攻めるような大きな視点について、お話がなかったんですね。ただ、思いっきり攻防戦を繰り広げるのと(笑)、あとは内面的なところのイメージを教えてもらって…麗が抱えてる陰の部分を出しすぎないようにしつつ、その陰の部分がもう、たぶん一生明るくならないっていう絶望感を、表現してほしいって…ね、そんなこと言われたって、ですよね(笑)。
僕、ちゃんとできてたかな…みんな、かっこよかったね、って言ってくれるんですけど(笑)それはそれで嬉しいんですけど、ちゃんと麗っぽかったのかな。あ。…ありがとうございます。言わせちゃったな(笑)。

挑戦
実は僕、もちろん努力はしてるつもりなんですけど、演技って根本的に向いてないと思ってて。オーディションのお誘いが来た時は、余り乗り気じゃなかったんですよね。せっかく期待かけてもらってるのにね、思えばほんと、失礼ですよね。僕もなんで乗り気じゃないのかなって、断る自分を右に置いて、受ける自分を左に置いて、どっちが自分らしいか考えたんですよ。で、自分の、なんていうか、否定されるのが怖い気持ちみたいなものを見つけて、だよな、じゃあどうしよっか、って。
僕は、挑戦のチャンスは挑戦すべき時に向こうから来たりするって、考えてるようにはしてるんです。ここで行かないことはできるけど、行っても行かなくても結果一緒なら、じゃあ行っとこうって思った。
オーディションはすぐに終わって、感触はよかったけど瀧仲監督ってほら、柔らかい感じの人だから、むしろやんわり断られたんだろうなってしょげて帰った。がっかりさせちゃったかもと思うと、悲しくて。で、その日に、やっぱりお願いしますって電話が来たんです。
「やっぱり」ってなんなのって思うじゃないですか。
他の人にしようと思ったんだなってちょっと、拗ねたような気持ちにもなったし。その時は、ありがとうございます!よろしくお願いします!って電話切ったんですが、わだかまりというか(笑)
あとで、少し親しくなれてから恐る恐る訊いてみたんです。あのときの「やっぱり」ってなんだったんですかって。そしたら、「期待通りすぎてちょっと、つまんないかなぁと思って」って言われた。
えー…。ね。でも、そのあとの瀧仲監督の言葉もよく覚えてます。「ていうのは建前だな。怖いくらいにピンと来たんだ。だから抵抗した。人に魅力を感じる時ってそういうものでしょ。凄まじく魅力的って、irresistible、抗うことができないって意味でしょ。俺、なにかとレジスタントなんだよね」って。その時は期待に応えたいと思ったし、いままさに応えられてたら、嬉しいです。

鈴香と麗ってお互い、すごく性的にアピールがあるんですよね。気分的にも身体的にも、たぶん準備万端で、なのに、手も触れずに見つめ合って満足げに微笑んでる、これ、すごい構図だなって。そういう、びしょびしょバッキバキの(笑)寸止め感、楽しんでいただけたらと思います。

『劇場版 春を謳う鯨』、よろしくお願いします。


次回、伊月陣さん(奏太)&成田穂乃さん(倉沢)
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①小松悠莉さん(鈴香)
②西村ちなつさん(ミナガワ)
③柳居桔平さん(楢崎)
④崔真央人さん(佐竹)
⑦瀧仲安嗣さん(監督)

今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。