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敦という人(の、素描)

【あわせて読みたい:これは短篇『大人の領分③薫』の付録です。なにやら複雑な事情を感じさせるこの人に、さまざまな角度から光をあてるこころみ。魔法使いたち、お酒と裏話はほどほどがいいのです、そんな愛情ありなんですか、秘すれば花、簡単な語彙でできる難しい話、大人な敦の、こどもの国。ほか】

もうあんまり、書くべきことはない気がするので、適当に流して行こうかな。

敦はフロントエンド系のエンジニア。案件を複数同時に抱えながら自分の責任とペースで仕事を進めるタイプの職場で、まあまあ気に入ってたんですが、最近は仕事をただ回してる感が出てきてますので、35を目前に一度、もっと大きな会社に転職と考えてます。え、意外にまとも。

敦:ね。俺だけ会社員。

たしかに。あかりちゃんに至っては占い師ですからね。西洋占星。普通、こう、安定的な印象がある職業の人を選びそうな気がするんですが、仕事と恋をするわけではないんです。といっても、槙野くんチャレンジャーだなあ。あなたの曲はなかなか売れないでしょうとか言われちゃったりするの、怖い気がしますが…。

ところで敦くん、眼鏡とって、髪、ぜんぶまとめてみて。

敦:はい。

おおー。もはや変装ですね。あれ詢、なんか若いけど…?くらいな感じです。上手にキャラ守ってるねぇ。

敦:そっくりだと、スタイルの住み分けが難しいんだよね、ほら、似合う服や髪型が同じになっちゃうから。でも同じじゃ、紛らわしいでしょ。趣味というより、配慮。

助かりますどうも。

さて。この人はねー…叩くと無限に埃が出そうなので、あんまり触れたくない気持ちがあるんですが…頑張ってみましょうか。

敦:うーん、俺を叩くと、埃しか出ないかもしれないけどね。俺以外の人のことでは色々、答えてないことあるんじゃない…?

たとえば?

敦:薫さんが槙野くんに懐いてるから、詢が陰ながらものすごく嫉妬してるとか? 詢が選べないっていうから俺が選んであげたマフラーを、薫さんがすごく嬉しそうに、家の中でまでしてて、それを詢が嬉しそうに話すことに対して、溢れんばかりに湧く俺の愛情とか? あ、二人ともあんな純粋そうに見えて、詢の店の担保には薫さんの持ってるおひとりさまマンションが入ってるみたいな、ちゃんと切ないお金の匂いもするとか?

あぁぁぁ。あったねそんなの。私も息切れしてますから、敦さんに頼もうかな。

敦:話して欲しくないミステリーな部分、先に言ってもらわないと。

隠すことなんて、なにもないですが、下ネタは避けていただきたいですね。

敦:上ならいいの? 俺、こないだ、詢が吐くまで…

ストップ?! …ストップ! ストップ! ちょ、しかもそれ真実じゃないし、そういうのはいけません。正直に。神に誓って。真実を。真摯に。語ってください。

敦:(笑)…吐くまで飲みたがるから、困った。お酒をね…? 一升あけてたもん。どうしたんだろうね。

あー…わかんないな。どうしたんでしょうね。

敦:薫さんの締め切り前って結構そうなるんだよねー。何か、他のことに打ち込めばいいのにね。俺とか…?

うわーギリギリ。やめて。

敦:ざっくりとしたラインは分かりました。一人で話してるみたいでさみしいな。柏木くんをお願いします。
柏:柏木です。よろしくお願いします。
敦:よろしくお願いします。そうそう、普通こうでしょ。
柏:普通。
敦:うん。普通。
柏:ええと…。では早速ですが、お二人について補足をお願いします。
敦:この舞台裏のやつさ、お互い外見が好きみたいな書きぶりで、気に食わなかったんだよね。薫さんはさ、詢のどこが好きって、大事にしたいものをちゃんと大事にできる性格が好きなんだし、詢は薫さんの、色々ちゃんとできなくて、でも必死に生きてるとこが好きなんだよね。外見もたしかに、唯一無二の組み合わせな感じはあるけどね。それに外見が好きっていうのは多分にあるだろうけどね。けどさ、それだけじゃないんだよってこと、ちゃんと書いとくべきなんじゃないの。ちなみに俺は、俺が好きな二人それぞれの特別なところを、二人が好きだって思い合ってくれてるのが、心底、愛おしい。
柏:複雑ですね。
敦:複雑かもね。
柏:敦さんにも、詢さんだけでは足りないところがあったということですか?
敦:うん…詢が足りないって思ったことはあるけど、詢だけじゃ足りないなんて、思わなかったんだ、薫さんが来るまではね。そうだなぁ…可愛い子どもが…女の子がいいかな、綺麗な花が風に当たらないように、そっと手をかざして守って、愛おしそうに見つめてる絵を想像してみて。
柏:はあ。
敦:それさ、女の子も花も素敵なんだけど、単品じゃ、想像した今の気持ち、湧かないでしょ。
柏:まあ。
敦:そういう感じ。その気持ちを知っちゃうともう、片方だけいても寂しいだけなんだよ。
柏:なんとなくわかってきましたが、わざわざ割って入らなくてもという気持ちは否めませんね。
敦:割ってない割ってない。その子が元気ないなら肩を貸してあげて、一緒に水をやってあげる人が必要でしょ。花は花で、その子にお礼を言いたいけど言えないんだから、俺はその思いをそっと伝えてあげる。
柏:花は薫さん? 詢さん?
敦:どっちがどっちっていうのはないよ。もののたとえだから。
柏:…。その中で、自分だけを見てほしいというような独占欲はないんですか。
敦:ない。俺は、あの二人がお互いのことしか見えてないのが、好きなんだよね。
柏:だったら今回、秘密を秘密でなくしてしまったのは…。
敦:あ。言っちゃったね…? そこは、ミステリーのまま置いといたほうが面白いと思ってたのにな。俺が5年計画で、二人を別れさせる狙いで、すごい嘘ついてるかもしれないじゃない。そこはなんとなく、オブラートに包んでおきたいな。
柏:あ…すみません。
敦:や、別にいいけどね。うーん…俺ね、…このまま薫さんが黙ってて、詢が黙ってて、俺が黙ってて、ずっとみんな黙ってて、それでいいんだなって思ったらね…なんか、あーつまんないなぁって、思っちゃったんだ。承認欲求とはまた違うんだけど…なんだろうねこれ。
柏:破壊衝動?
敦:近いけど、そんな恐ろしいものじゃないよ。思いつきとか、気分転換とか、そういう感じ。
柏:迷惑ですね。
敦:迷惑だろうね。
柏:あまり立ち入ってお聞きする話題ではないんですが…。
敦:あ、男が好きなの女が好きなのどっちも好きなの? でしょう。みんな、こだわり持ちすぎだよね。俺という人間を理解しようとするにあたって、どうしてそれ、一番にわかんないといけなくて、わかんないともう、先に進めないの?
柏:そういう部分ですね。
敦:付き合った人は…女女…男…男…女、男男男男男。これ、「おおおおお」みたいだね。おおおおお(笑)
柏:どっちも好きという結論になるんでしょうか。
敦:なるんだろうね。
柏:他人事みたいです。
敦:俺はほら、その人に合った愛し方ができる人だから。それで行くと正直、詢があんなに悩んでるの、わかんないんだよね。俺にはその性「じゃないと」っていう感覚がわかんないから。薫さんがしてほしいことをしてあげて、自分がしたいことをするだけだと思うんだけどね。


簡単に言ってくれますねぇ。

敦:簡単なことだよ。求められているように与えて、与えてほしいように、求めればいい。

簡単に、言ってくれますねぇ。


大人な敦の、こどもの国。たまに買ってしまう、うまい棒。有給休暇を使って徹夜で楽しむ、大型ゲームタイトル発売日。ついに買いましたドローン。フランス発、18m積めるほど高精度に加工された、比率が1(厚さ):3(幅):15(長さ)の「魔法の板」。で、お寺を建造し終えて陶然としたあと、一気に崩して陶然とし、これ以上ないほど整然と箱に詰めて、また陶然とすること。MacBook Proを持ってキレイなオフィスをウロウロしてる自分がふとガラスに映ってて、あれ? これ昔、こんな風になりたいなって思ってた気がするなぁ、と思うこと。米びつに手を突っ込む感触が好きすぎること。ごもごも、取ってつけたような言い訳で外出を逃れようとする薫をなだめすかして車で出る、よく晴れた日の、みんなとのお出かけ。で、道の駅に着いた時、後部座席で詢と薫が手を繋いで寝ていて、あかりちゃんと、助手席の槙野くんと目を合わせて、静かに微笑み合うとき。


本篇は、こちら:

薫はここ:

詢はここ:

テーマソングがあります:


今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。