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まくら文庫『磁場』

 はい。
 はい。来ました。
 前回の感想文よりも、
 更に感想を表出するのが難しい作品が。

(文字数:約2000文字)



まくら文庫さんと書籍情報

  まくら文庫、
  ってレーベル名が既にそそるじゃないですか。

  あとはブースに立ち寄っての雰囲気と、
  たくさん並んでいた文庫本の中でなぜこれを選んだかって、
  純粋に装丁買い。

カバーの手触りもやわらかい

  『磁場』
    著者      まくら文庫
    発行日     令和五年三月三十一日
    A6版 46ページ



分からんの沼

  まず「私」が誰かが分からない。
  作品の中核になる「彼女」とは、
  一体どういった関係なのか。

  「彼女」の別人格?
  と思いきや「彼女」のいない所で、
  求職中の美大生と話したりしている。
  それも込みで別人格の可能性も捨て切れないが。

  そして作品の中盤から、
  「私」の存在も見当たらなくなり、
  「彼女」を印象付けていた、
  しゃべらない、という特徴もなくなる。

  舞台も外国に変わるのだが、
  現実と地続きかどうか分からない。
  「20%だけ欠けた円グラフ」のようだという、
  現実には有り得ない月が出ている時点で、

  満月までの日数も、
  満月になってからの日数も、
  鵜呑みに出来ない。

  そもそも固有名詞が一切出て来ない。
  と思いきや福岡から来たらしい橋本だけが、
  ずっと(橋本くん)を残し続けている。

  最後あたりに「私」が復活、
  すると共に作品世界は循環して終了。

  作品全体のイメージを細かく寸断して、
  破片を丁寧に再構成した印象。

  作中に一切出てこないタイトルの一語、
  「磁場」だけがかろうじて、
  「なるほど」と思わせてくれる。
  砂鉄がU字状に集まってる感覚。

  総じて、分からん。

  それが本を閉じての遜色無い感想になる。

  18p:紙からシャンプーの香りがしている点だけが、
  ほとんど誤植が無い中でかなり惜しい。


文学的NK(現代美術)

  おそらく村上春樹さんを筆頭とする、
  こういった、
  「分からないを良しとした」作品群に出会うと、
  私はいつも悩み込んでしまう。

  どうにか否定はしない形で、
  なるべく内容を把握したい。

  否定する理由も筋合いも存在しない。
  私は読了、してしまっているのだから。
  読み進め切れるだけの面白さは十分にあった。

  然るにその面白さを表現する、
  糸口すらも掴めないところが、
  小説家として文章マニアとして大変に悔しいわけだ。

  読み終えた後の心に残るものが何も無い。
  つまり私個人の人生に何ら影響しない。

  それは欠点とも言い切れない。
  つまりは私個人の余計な感覚に邪魔されず、
  純粋に作品世界を楽しめるとも言えるわけだ。

  これで良いのか? と考えたなら、
  これで良い、と私は間違い無く断言するのだが、

  これが良いのか? と考えた場合に、
  私は腕組みして弱り切ってしまう。

  これが良い、どころか、
  これこそが良い、といった論評が、
  もし目の前で展開された場合には、
  私は「否」と言ってみなければならない。

  なぜなら私には書けないからだ。
  ただ単純にそれだけであり、
  それ以上でも以下でもない。

  ってかホンマにどうやって書けるの?

  私も思考ほとんど無しの憑依型と自覚しているけど、
  元プログラマーなせいか文章構成は構築型なんだ。

  こんな環境に生まれてこう育てられたこの人物は、
  こういう思考になってこういう言動をするだろう、
  をある程度しっかり構築してようやく話が動く。

  「頭の中どうなってるの?」
  って聞かれた事も結構あるから、
  はたから見れば同類なのかもしれないが。


修善寺文学?

  ところでまくら文庫さんのブースでは、
  無料のZINEも受け取っていました。

2020年 A5版 16p

  しかしながら文庫として装丁された、
  『磁場』を読み終えるまでは、
  あえて執筆者に関する情報は、
  頭に入れないでおいたのです。

  理解したニュアンスだけ略記しようかと思ったけど、
  やはりここは前文を掲載。

 温泉をこよなく愛する者だけが見る湯けむりのむこう側の世界。
 それは、無秩序で、無軌道で、断片的。

 それらの幻想のかけらを集めて、文学に仕立てる。
 旅館の部屋や脱衣所の隅や帰国便の待合室で。

 さあ、旅の恥は書き捨てて、修善寺文学をはじめようじゃないか。

『修善寺文学』創刊号 前文

  なるほど。こういうスタンスで。
  と把握した上で改めて『磁場』を拾い上げてみたけど、
  「温泉」は一切感じ取れないじゃないか。
  (そこは別に是非とも必要な要素でもないが。)

  強いて言うならシャンプーか。
  お気持ちは分からんこともないが、
  水は入れてやるな。気の毒だから。

  そこだけが純粋に「彼女」の罪だと思った。

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