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私はどこにいたのだろう【私のこと好き?】

 はじめましての人も、
 前から知ってる方も、
 ごきげんよう。

 偏光です。

 こちらの企画に参加します。↓

 既に一記事書いてはいるのですが、
 こちらのToshi Inuzukaさんの味わい深い記事に、
 触発されました。↓

 内容まるっきり違いますけどもね。
 何ならToshiさんの記事だけでもどうぞ。

(文字数:約1100文字)


 どういうわけだか文化祭なんかで、自分のクラスは劇をやる事に決まると、そのヒロインに選ばれがちだ。
 一切望んでなどいないのに、くじ引きで引き当てたり、勝手に投票が行われてぶっち切りトップだったりする。
 実は容色が良いのではないか、しかも己の容貌を誇っていやがるのではないかと、思われた方はお生憎さま。配役名こそ「ヒロイン」ではあるが、ダッサダサの服を着せられ奇妙奇天烈な動きをして見せ、会場をドンびかせたり失笑させたり、とにかく賑やかすための配役である。
 しかも声は出さなくて良い。放送部のエースが最高に可愛らしくセリフを読み上げてくれて、私はそれに合わせて動くだけだから結構楽だ。練習時点から皆がニヤニヤクスクス果ては大爆笑してくれる。おい冷静に考えるとこの演出は、割と高度なお笑いをやっていやがるな?

 私の心が地味に傷つき続ける事だけが、誰にも気付かれやせず話題にもならない問題点なだけだ。

 さて文化祭当日である。私はなぜかその舞台を、客席に座り本番を眺めている形で記憶している。
「私のこと好き?」
 という見事な美声に合わせて、ほっぺを真っ赤に塗りたくってでっかいリボンを付けた私が、ビンゾコメガネをかけたブッサイクな笑顔を、主人公に向け首をななめ45度に傾ける。
 主人公は明らかに困っている。嫌がって後ずさり弱り切っているのだが、私が演じる「ヒロイン」は、それに気が付きもせず食い下がる。
「私のこと好きじゃないの!?」
 勢い良く迫られ両手を握られて、主人公は激しく首を振る。
「そうだ! この木に、二人の愛を刻みましょう!」
 そうほざいて私は、主人公の幼い頃からそばにあり、主人公の成長を見つめてきたその大木に、この世に対する怒りや憎しみを込めまくるかのように、荒々しく相合傘を刻んで見せるのであった。

 会場は大笑いだった気もするが覚えていない。
「素晴らしかった」
「工夫が凝らしてあってなかなか面白い演出だった」
 と親御さんたちや担任を含む教師たちが、賛辞を送るその中心には、主人公と放送部のエースがいて、
 私個人に声を掛け、感想を聞かせてくれる者も特にいない。
 誰一人私個人の人となりなど、覚えてもいないだろうが、私の方ではあの奇妙な記憶を忘れ切れやしない。 

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