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『甲斐荘楠音の全貌』展

 偶然、
 それも時間が空いたので暇潰しに手に取ったフライヤーで、
 どこのどなたかも存じ上げないばかりか、
 名前すら初めて見たのだが、

 私の中のマニアセンサーが、
 「コイツは絶対面白い!」と激反応したので、
 即予定に入れて観に行く事にした。
 関西に住んでいるとは言え、
 ドアtoドアで二時間以上かかるんだが。

 京都国立近代美術館にて。
 4月9日まで。

 東京でも7月1日から開催されるみたいですよ。


そもそも「楠」の字面が好き

  「そこかよ!」って思われそうだけれど、
  私の小説にはなぜだか妙に縁があるので、
  「甲斐荘(かいのしょう) 楠音(ただおと)
   って読みがあるのか(しかも本名か)」
  と知った時点で興味津々。

  フライヤーも面白い造りだったけど、
  やはりこれは実物を観るべきだろう。
  内に秘めた情念が匂い立つような、
  女性画に鳥肌立ちまくり。

  代表作として「春」屏風が選ばれているが、
  私は「歌妓」屏風が大好き。
  凛とした佇まいと空間演出から滲み出る、
  生活苦ももちろん透けて見えながらの矜恃がたまらん。

  「穢い絵」だと酷評されていたらしい。
  無礼千万だがさもありなん。
  楠音本人も分析出来ていたけど、
  男性画家に男性評論家が好む、
  象徴としての女性画ではない。

  敬意がある。

  役割、や、目的、を与えて良しとしない、
  女性という存在そのものを描こうという、
  生半可では済ませない気概が感じられる。

  私が小説において目指すところでもある。

  それをセクシャルマイノリティの感性だの、
  歪なエロティシズムだのとしゃらくせぇな。
  当時の画壇ときたらよぉ。

みうらじゅん先生もかくやと思しき

  とにかく舞台が大好きで、
  文楽に歌舞伎が大好きで、
  観る度スケッチしまくっている。

  好きなもの感性に響いたものは、
  何であれスクラップしまくっている。

  そのスケッチブックにスクラップ帳を、
  現物開き並べて見せてくれるんだよ?
  他人の脳内が、思考の道筋が、
  狂気に至る道まで覗けるよ垣間見えるよ?

  そのコーナーだけでも貴重。超貴重。
  張りついて隅々まで見まくったった。

  当時のどこから情報を仕入れたんだか、
  工房の徒弟時代のダ・ヴィンチが描いた、
  天使図とかスクラップしてるし、

  加賀まりことオリビア・ハッセーの並びに、
  また別の新聞誌面から切り抜いてきた、
  「妖精」のひと言だけ貼り付けてるし、

  マニア的な執着心がビンビン伝わるぜ。


じゃりン子チエの小鉄

  おそらく多くの方にたまらないのは、
  東映映画の大人気シリーズ『旗本退屈男』の、
  衣装が並べられた空間、でしょうが、

  何分昭和二十年代との事で、
  私はどれ一つとして観た事が無い。。。
  主人公「早乙女主水之介」の字面と額の三日月傷に、

  「ああチエちゃんが拾った猫に名付けようとしたけど、
   ”古い〜“って破り捨てられてブチ切れた奴」
  ってえらい端っこの情報が浮かんできたくらいの、
  知らなさ加減だったけども、

  何せ当時のポスターやら新聞広告の雰囲気自体が、
  新鮮に感じられて面白いのでじっくり観倒します。
  着物のデザインも奇抜だしなぁ。
  アイヌ文様とかミュシャとかも取材してるよな絶対。


二種類の遺作

  楠音本人の女装姿や、
  女形を演じた写真なんかも展示されていて、
  異様に感じる人もいるかも分からないが、

  女性という存在に自ら少しでも近付こうとしたもの、
  とひと口にまとめてしまえば、
  その通りなのだが薄っぺらく感じられる。

  生前の本人には分析など出来もしない、
  ドロドロと渦巻く情念を、
  ただ表現したくて演じたくてやってきた結果だろうからな。

  繰り返すが敬意がある事は確かだ。
  「七妍」は「七賢」になぞらえたものだろう。

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