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お掃除おばちゃんでこバンダナ

 はじめましての人も、
 前から知ってる方も、
 ごきげんよう。

 偏光です。

 Pixivで公開してきた小説以外の文章を、
 noteに移して行きます。

(文字数:約1700文字)


 ついに、
 この日がやって参りました。

 年末の特別大掃除の中でも、
 絶大に気が滅入るイベント。

   空き部屋入室。

 内見に来られる方々が、
 入った途端ドン引いてしまわないように、
 窓を開けて空気を入れ替えて、
 玄関にベランダのゴミを取り除くのでございますが、

 「中より外観に手を入れた方が良いと思うー」
 「築三十年建ってるからねぇ」

 ついついボヤキが出てしまって、
 止まらないくらいに気が滅入る。
 何がそんなに気が滅入るのかと訊かれれば、

 なんかイヤなのよ。
 それに尽きるのよ。

 そんな感覚で言われても伝わらんと思うから、
 どうにか説明を試みると、

 強いアウェイ感。
 他所様のお宅に勝手に上がり込む感じ。
 もう住んでいる人はいないし、
 空き部屋になって長いお宅もあるんだけども、

 「お邪魔しまーす……」

 残っているのよ前の住民の気配が。
 空気が全く歓迎してくれないのよ。
 何か知らんけど「お前ら誰やねん」感を受けるのよ。

 更に言えばお掃除仲間は、
 ちょっとばっかし「見える」方でして、
 私は見えた事は無いんで、
 存在を信じるかも微妙なんですけれど、

 「あー。あそこ嫌だ。入りたくない」
 「○○号室?」
 「そうです!」
 「4畳半押し入れ」
 「そうですそうです!
  なるべくなら見たくないですあそこ!」
 「私も目をやらないようにしてる」

 何で一致するねん(汗)。

 ちなみに築三十年ともなると、
 普通に事故物件や、
 それに近い案件の一つくらいはあるものと思いますが、

 はっきりそれと分かっている部屋は、
 案外平気なんですよ。

 「知らなきゃ普通に暮らせますね」
 「きちんと手入れしてもらえたんだろうね」

 確か普通に一家が暮らしていたはずだが、
 って部屋がむしろ怖い。
 様々な日常の悲喜こもごもが、
 皆無ではなかっただろう喧嘩に対立が、
 憎悪に怨念といったネガティブ波動が、
 ちょっとしたとこに溜まって渦を巻いている、

 気がする。
 そう。あくまで気の問題だけれども。

 「ベランダの掃除の方が気が楽ですー」
 「まだ外の空気吸えるからねー」

 このイベント、
 かつては恐ろしい事に、
 毎月(真夏も!)やってほしいと頼まれていたのだが、

 あまりに二人とも気持ち的なダメージが大きいので、
 家中の排水口に虫除けのフィルムを貼る事で、
 年末一回だけに減らしてもらえた。

 そのフィルムを貼りに行く際、

 「ここもついこないだ空き部屋になったんだよねー」
 「どんな人が暮らしていたんですか」
 「んー。おじいちゃんの一人暮らしだったんだけどー」

 話しながら鍵を開けて、中へ、

 入れずに後ずさって扉を閉める。

 「無理です!」
 「でもフィルム貼らなきゃ……」

 「無理です! ここは、絶対に、無理です!
  業者さん呼んで床と壁張り替えてからにさせて下さい!
  私達はここに入れるほどの、
  装備一式を揃えていません!
  無理に入って病気にでもなったら、
  いや私達だけならともかく、
  放っておいたら近隣住民のご迷惑になります!
  結果大家さんの不利益になりますよ、
  とそこのところをぜひ強調しましょう!」

 「えー。
  だけど、業者さん呼んでくれるかなぁ。
  掃除だってなるべく予算抑えるために、
  私達素人のおばちゃんに頼んでるのに……」

 お掃除仲間は私の後ろにいたため、
 よく見えていなかったようで、
 自分でも戸を開けて中を覗いてみて納得。

 同様に後ずさって扉を閉めました。
 「これは無理」
 「ですよねっ」

 業者さんって素晴らしい!
 然るべき装備に技術もお持ちでしょうけれども、
 それはそれはキレイに清掃して、
 すっかり張り替えて下さいました!
 頭が下がるわ敬服に値しましてよ。

 私達の日々の生活は、
 名前も存じ上げない方々お一人お一人の
 真摯な仕事ぶりによって、
 支えられている事を痛感致します。

何かしら心に残りましたらお願いします。頂いたサポートは切実に、私と配偶者の生活費の足しになります!