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-ラージアンサンブルジャズの波に驚嘆した夜- 挾間美帆 m_unit公演2023/12/7@ブルーノート東京

挾間美帆によるm_unit公演を観に、ブルーノート東京へ足を運びました。

ジャズの楽しさ、熱さ、奥深さに惹かれてジャズを聴き始めて半年が経ったばかりの私が、
挾間美帆が擁する13人編成のm_unitによるラージアンサンブルジャズのどこまでを咀嚼し、堪能することが出来るかなんて、たかが知れているかもしれません。

でも、それでも、実際に目の当たりにして感じたことを、自分なりの解像度で書いてみたいと思います。

挟間美帆が奏でる独自のアンサンブルについて

挾間美帆さんの存在は、ジャズの入門書を読んでいる中で目にしていました。
それから今年2023年9月に発売された新作「BEYOND ORBITS」を何気なく耳にし、
冒頭1曲目の「Abeam」を聴き終えたとき、言いようのない衝撃を覚えました。
そのときは外を歩いている最中だったのですが、
「かっけぇ・・」

と小さく呟いている自分がいました。
ライブを見て思わず声を上げることは何度もありますが、
音源を聴いている最中に「かっけぇ・・」と呟くことは、あまり無いことでした。

なぜ私は「かっけぇ・・」と呟いたのか、なぜそれほどの衝撃を受けたのか。もう少し自分なりに振り返ってみると、
今までビッグバンドやラージアンサンブルと呼ばれる大編成のジャズをどことなく敬遠していた私の価値観が、一気に塗り替えられてしまったからです。

ビッグバンドジャズと言うとデューク・エリントン楽団、ベニー・グッドマン楽団などのオーセンティックなイメージが強く、それはそれで大編成のエネルギッシュな魅力があるものの、今までハードバップやモードジャズを好んで聴いてきた私としては大編成のジャズに足を踏み込むのには躊躇いがありました。

でも、挾間美帆さんが擁するm_unitは、従来のビッグバンドに加えて弦楽セクションが加わった編成で、クラシックの要素も兼ね備えたアンサンブルであることが特徴的です。
そして挟間さん自身が幼少期からクラシックを素養としつつ、大学在学中にジャズに転向したという経歴を持っている点も非常にユニークです。
だからこそ、クラシックの持つ優雅な規律性とジャズの持つ自由な即興性がバランスよく融合され、独自のラージアンサンブルを構築されているのだと思いました。

「これはどこかの機会で実際に目の当たりにしてみたい」
という衝動が芽生えた矢先に、12月にブルーノート東京で公演されることを知ったのでした。
そして、様々な協力と支援と幸運が重なったおかげで、私は12/7初日公演の1stセットに足を運ぶことが出来たのでした。
(本当に感謝、感謝です)

座席から見えた光景

ブルーノート東京に到着し、会場に入ります。
私が案内された座席は、ステージ上手側、サイドエリアの一番端っこの席です。ステージが見切れる席ですね。

サイドエリア一番端からの眺め

実はこの席、公演当日の時点で一人用の座席はソールドアウトしていたのですが、
ダメ元で電話してみたところ、一番端っこの席だったら案内できるとのことで取れた席です。電話してみるものですね~。
おそらくネット予約では取り扱っていない席だと思われます。
だって、「ネットで空いているからポチっと予約したけど実際行ってみたらステージが見切れてた・・」なんて、相当ショックを受けますからね。
きっとブルーノート側の配慮なんだろうなぁ、などと推察します。

ドリンクと軽食を注文して、その端っこの座席からステージを眺めている内に定刻となり、m_unitのメンバーがステージに集まって調律が始まりました。そして大きな拍手に包まれながら、主役である挟間さんが登場しました。

メンバー全員がステージに揃ったところで気づいたのですが、サイドエリア一番端っこの座席から見える視界は想像以上に良好でした。
というのも、ステージを斜め後ろから見る角度なので、ステージ上で指揮を取る挟間さんの表情や身振り手振りがはっきりと見えるのです。

一般的なステージでは演奏者が正面の客席に向かって演奏することが多いので端っこの席だと残念な視点になりがちですが、ラージアンサンブルの主役である挟間さんの公演においては、実は希少で面白い座席なのでは?と思いました。

いよいよ開演

そんなことを感じながら、
「あぁ、これから始まるんだなぁ・・来れてよかったなぁホントに・・」
などとうつつを抜かしている間に、
1曲目でいきなり始まったのは「Abeam」
私が外出中に思わず「かっけぇ・・」と呟いた、あの曲です。
ラージアンサンブルの生音の波が一気に押し寄せ、その熱量の高さが
私の身体の芯にまで呼応してきたようでした。
思わず身に着けていた羽織りを脱ぎ、長袖を腕捲りしてステージ上に視線を集中させます。

管楽器隊の力強い咆哮、軽やかなグルーヴを生み出すリズムセクション、そこに弦楽器隊が流麗なフレーズを乗せて渾然一体となった音像が迫ってきます。
私が大好きな終盤の伊吹文裕さんによるドラムソロは、音源とはまた異なるアプローチで魅せてくれて、私は再びこの一言を呟くのでした。
「かっけぇ・・」

曲を終えて、歓声が送られる中で挟間さんがご挨拶。
ずいぶんと声が枯れているなぁと思って聞いていたら、前日に音楽の師匠とも言える大事な人と25年ぶり?に再会して飲み過ぎたという話をされて、会場から笑いが漏れます。

「メジャーデビュー10周年ということで、新作だけではなく過去の作品からもいくつか披露していきます」
といったMCの後、
2曲目に演奏されたのはデビューアルバムから「Journey To Journey」
3曲目は、2作目の「Time River」から「月ヲ見テ君ヲ思フ」が演奏されました。

当の私は、新作の「BEYOND ORBITS」だけを聴きこんできたので新作以外の楽曲は未聴でした。なので大筋の印象を掴むことだけで精一杯でしたが、
個人的には「月ヲ見テ君ヲ思フ」の中盤、マレー飛鳥さんのバイオリンによるアドリブソロとドラムとの掛け合いは相当にスリリングで、
クラシックの主役の一つと言えるバイオリンが、アンサンブルジャズの中で先陣を切って大胆な即興演奏を響かせている様はちょっと衝撃的でした。

指揮を取る挟間さんは、13人の大編成による演奏を身振り手振り、そして表情で自在に取り仕切っていました。
特に感心して見ていたのは、各パートのアドリブソロを経てから再びテーマに戻していく場面と、そこからエンディングに向けて一気に高揚させていく場面です。
ステージ全体を終始目配せしながら、時折演者に鋭い視線を投げかけながら、一気に展開を変えていく様子は、何とも形容しがたい強烈な「支配感」のようなものを感じました。
一方で、アドリブソロの場面では指揮の手を止めて微笑みながらメンバーのプレイを眺め、時折驚くような表情を見せる場面も。
信頼のおける演奏家たちによってステージ上で繰り広げられる新たな発見を、ただ純粋に楽しんでいるように見えました。

4曲目は新作「BEYOND ORBITS」から「Planet Nine」
3曲から連なるExoplanet組曲の最後を飾る曲で、私はその組曲の中では最も好きな曲なのでこれは嬉しかった。
ライブで目の当たりにして改めて思ったのは、なんとまぁ複雑怪奇な楽曲なんだろうということです。特にトランペット、アルト、テナーサックスの高速運指と小刻みなブレス、それでいて切れ目の無いフレーズが怒涛のように繰り出される。ヴィブラフォンも相当に忙しい。。
と思っていたら、今度はバリトンサックス、コントラバス、ドラムの重低音メンバーによる即興の緊迫感も半端じゃない。
私はただ口をあんぐり開けるほか無かったです。

指揮を取る挟間さんは、そんな超絶な即興演奏を繰り広げる演奏者を楽しそうにニヤニヤしながら眺めたりしていて、あぁ、この方は相当にドSな人なのかもなぁとも思いました(汗)

メンバー全員を一人ずつ丁寧に紹介していくMCを挟んで、
あっという間に本編最後の曲、「Time River」へ。
この曲も未聴だったので楽曲の印象を朧気にしか掴むことが出来ませんでしたが、終盤の展開が凄まじくて、テナーサックス、ドラム、ピアノによる音の波状が美しくて。
何だか抑えきれないものを感じるなぁと思っているうちに泪が出ていました。
それは「自分で泣く」というよりも、
「抗えない巨大な何か」に泣かされてしまったような感覚でした。

そこでフッ・・と演奏が止まり、我に返ったときには大歓声が響き渡っていて、挟間さんがステージを下りて通路を渡っていく姿をただ呆然と眺めていたのでした。

アンコールで再び挟間さんが戻ってきて、演奏されたのは新作から「From Life Comes Beauty」。この曲も好きなので嬉しかったのですが、先の「Time River」で受けた情動が大きすぎて、あまり仔細が思い返せません。。
それでも、終盤のアルトサックスによる熱量の高いパフォーマンスには声を上げずにはいられませんでした。

大きな拍手と歓声が響き渡る会場で、私も半ば呆然とした状態で拍手を送り、再び誰も居なくなったステージを眺めながら、挾間美帆の擁するm_unitによる化学反応が確実に私の心に刻まれていることを確認しました。

機会があれば、またこの方の公演には足を運んでみたいし、
今度はアンサンブル全体が見える場所からも観れたらいいなぁと思います。

2023/12/7  1st set
セットリスト
1. Abeam
2. Journey To Journey
3. 月ヲ見テ君ヲ思フ
4. Exoplanet Suite - III) Planet Nine
5. Time River
EC. From Life Comes Beauty

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ご意見やご感想等ありましたら、お気軽にいただけますと嬉しいです。

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