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ショパンのバラード1番に見られるスカート構造を全部挙げる

スカート構造については次の記事を御覧ください。




m.36からスカート構造の連鎖が始まる(音源)。

mm.36–43は4+4小節のスカート構造。このように細かくフレーズが分かれているものは終結力の乏しいスカートであり、まだ終わりが近い感じはしない。


mm.44–47(音源)は2+2小節のスカート構造。m.44とm.46の中に小さいスカート構造が入れ子になっている。


mm.48–51(音源)は2+2小節のスカート構造だが、それぞれの2小節は小さいスカート構造とみなせる。


m.52–53(音源)はバスを見ると分かりやすい。G-D-G-D-Gと動いている。1+1小節のスカート構造になった。


mm.54–55(音源)は、さらに小さくなって半小節+半小節のスカート構造が連続している。


一般的には上のm.54–55のような細かいスカート構造は、スカート連鎖の最後となることが多い。しかしここでは、その後余韻のような感じでm.56からゆったりとしたスカート構造を出している(音源)。これは最後が転調し、次の主題の準備となる。


第2主題の終わりにもスカート構造がある。mm.82–89のスカート構造(音源)はしかし、メロディーが遅れて始まるように聞こえるタイプなので、むしろm.90が終わりの小節のように感じてしまう。しかしショパンの場合は、スカート構造がm.89までの4+4小節であると断言できる。なぜならば、ショパンは4小節単位の構造を乱すことを極端に嫌うためだ。m.90から後がやはり4小節単位の構造を維持しているので、ここで乱すことを望んだはずがない。


mm.138–145(音源)のスカート構造はまとまり終わりというより開始に使われている例。mm.36–43と同じように終結力が弱い。終結力の弱さの原因の1つは、それぞれの4小節構造の4小節目の辺りに終わった感じが生じていることにあるだろう。終結力の強いスカート構造は、次の4小節構造の1小節目に入って終わるような勢いを持つものである。


m.150からのパッセージ(音源)はよく見るとスカート構造の終わりで転調し、またスカート構造を出して終わりで移調する、ということを繰り返すスカート構造を使ったゼクエンツであることが分かる。テンポを落とした音源も参考として置いておく(音源)。

詳しく見てみよう。m.150はE♭メジャーの和音を軸とするスカート構造となっている。6/4拍子の最初の2つの4分音符はE♭メジャーの和音であり、3つ目にドミナントの減七和音を出して4つ目で元の和音に戻っている。そして4つ目と5つ目の4分音符の後、6つ目の四分音符では今度は別の和音を出して別の調に移っている。6つ目がドミナントであれば普通のスカート構造と全く同じものになる。

m.151も長2度上のFメジャーの和音で全く同じ動きをする。

m.152はGメジャーである。m.153の最初はAメジャーの和音だがこれはスカート構造の前半にもならずにBメジャーの和音に進む。


mm.158–161(音源)は小刻みなスカート構造。


mm.180–187(音源)のスカート構造はmm.82–89に出た形とだいたい同じ。メロディーだけ聴くとスカート構造の開始に気づきにくい。



mm.208–215(音源)のスカート構造はコーダのはじまり。mm.82–89やmm.180–187のスカート構造でメロディーが遅れて感じられるという話をしたが、ここではもっと極端な形でメロディーのズレを利用している。つまりメロディーだけで考えると、m.208の2つ目の4分音符が強拍のように感じられるだろう。繰り返しであるm.212ではバスにG音が出ているのでそのことが分かりやすい。その結果、m.212やm.216の最初の4分音符は、メロディーだけを基準にすると弱拍に当たることになる。


m.216から始まる次のスカート構造は途中で変化してしまうので、ここでは8+6小節だけを示す。

m.216からm.237までをまとめた音源


次のスカート構造はmm.234–237だが、下の譜例では間に挿入されたmm.230–233の4小節も示している。mm.234–237のスカート構造はバスが3度音から3→4→5→4と動くもので大変よく見られるパターンである。

m.238のバスが3度音になっているので、十分な終わりの感覚を得られない。もちろんショパンは意図的に、まだ終わらないようにしている。


mm.240–241も小さなスカート構造だ。バスがG-D-G-Dと動くので、m.242にはGが期待されるが、ここではDを出して主和音の第2転回形を出す準備をする。(mm.238–241の音源)

この後は、このバスのD音の上で、ドッペルドミナントの性質を持つ減七和音を出してからD⁷ sus4 → D⁷ → Gm と進んで非常に強い終止を行う(音源)。

この後に続く部分は、一種の余韻、あるいはダメ押しのようなものだといえる。


mm.250–257(音源)は、4+4小節のスカート構造によく似ている。しかしほとんどGmの和音のままで動いているので、リズム的なスカート構造であると言える。すでにm.250に入る際に強い終止感を得ているので、特に制約なく自由なものを出しているのだろう。

m.258でD音を出すことによって不満足感を生み出し、最後のGmへと至る大雪崩を導く。

カテゴリー:音楽理論、フレージング

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