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Windows2016

我々女子社員の間で「Windows2016」と言えば、「2016年現在に於ける窓際族」を示す。そしてそのWindowsにも、良いWindowsと悪いWindowsがいる。

一から説明します。そもそも、「窓際」という言葉自体がもう前時代的過ぎ、今は能力主義の時代でしょ、という突っ込みはごもっともなのだが、日本古来の企業には未だに、定年間際のWindows が数多く生息していることは事実。人事異動のシーズンごとに、「あの人の処遇、来年どうするかね?」と今や年下となった上司の頭を悩ませ、本人にWindows 感を自覚させつつも、ギリギリのところで組織としての体面を保てるようなポジションにあてがわれるという爺さんたちだ。

誰だってWindowsになんてなりたくない。数十年前、20代で入社した頃には一流のビジネスマンになろうと、彼らも本気で目を輝かせていたに違いない。それが、本人の能力不足はもちろんのこと、配属部署や、ついた上司の運・不運、為替や経済の動き等々の様々な要因によって、彼らの目は徐々に死んでいき、結果としてWindows となってしまったわけだ。一日中、パソコンの前で、メール画面やネット画面、果ては、作る必要のないExcelなんかを開いて、目の前で飛び回る忙しい社員たちを横に、気まずそうにしているWindows 。

「何もしないのに給料をもらっている」という事実は確かに腹が立つが、「何もしないで定年待ちをしている」と全ての人間に思われながら暮らす毎日は、普通の神経の持ち主であれば、さぞ辛かろうと思う。ただ、こちらも、Windows にはWindows の苦しみがあるだろうと分かるから、「俺は自分がWindows なことを認めているし、君だってどうせ俺がWindows だと思ってるんだろう」という風情の謙虚なWindows に対しては、年長者として尊重しようと思うもの(実際に教えてもらうことも多いし)。しかし問題は、「Windows としての自覚0=無神経なWindows 」なのである。

例えば、我々の中で最も評判が悪いWindows は「偉い人と仲良し自慢」をするWindows だ。なにせ年齢だけは行っているWindows 、「同期が専務」なんてこともザラ。「どうしよう、早く専務の決裁をもらわなければ、間に合わない!」などと焦っている若者の会話を背中越しに盗み聞き、「なーに、佐藤の決裁が要るって?俺が紙、持って行ってやろうか?なーに、あいつとは同期な上に、独身寮でも隣の部屋でさ、よく一緒にバカやった仲なんだよ。だから、俺が持って行けば、一瞬でポーンとハンコ押すぜ、あいつ」などと、頼みもしないのに無責任なことを言って来る。これが、まだ右も左も分からぬ新人レベルだと、「え?佐藤専務とそんなにお親しいんですか?すごいですね!では、是非お願いします!」などと言い出す可能性があるが、まともな若者であれば、アハハハ……と困った顔をしてスルーし、然るべき正式なルートを通して佐藤専務の決裁を得ることだろう。

「偉い人と親しく口を聞ける仲だ」とか「偉い人に寵愛されている」ということって、確かに人に自慢したくなるものだが、聞いている方が「すごいなあ」と思う確率はほぼ0、「そんなこと、なんの自慢にもならない」と鼻白まれるのがオチだ。それどころか、Windows が「俺の同期、役員」と発言してしまうことは、自慢になるどころか、むしろ、「え?佐藤専務と同期なんですか?びっくりです。随分、差がついちゃったんですね!一体、この数十年の間に二人の身に何が起きたんでしょうね!」と爆弾返しをされても文句は言えない危険性をはらんでいる。そんなことも分からずに、「佐藤とは、昔バカやったぜ」と得意になってしまうWindows は、無神経過ぎて哀しい。悪いWindows だ。

一方、「俺もまだまだ、あちらの方、現役です」とアピールしてくるWindows も最悪だ(同一人物だったりしますが)。「Windows のあちらの方」というのは、我々にとって、最も考えたくないことの一つ。それなのに、「昔から、これ(今どき、平気で小指を立てる)関係では色々やってきたからなあ、俺。ま、今でもいるにはいるんだけどさ……」なんて言って来る。皆がぞっとする中、極めて稀な人間の出来た若い男子が、「えぇ?Windows さんも隅に置けませんね。で、お相手は?」なんて突っ込もうものなら、喋る喋る。よく聞けば、それは「専務である佐藤が連れて行ってくれたクラブで、佐藤が気に入っている女の子が、佐藤を差し置いて俺に気があるっぽくて参った」というような、うすらぼんやりとした、事実かどうか確かめようもないようなことだったりするのだが。もし本当に、クラブの女の子が、上客である佐藤を差し置いてWindowsをチヤホヤしていたとしたら、水商売女子としてのセンス0……。

そういえば、佐藤専務本人に、余計なことを言った子がいた。「Windowsさんて、佐藤専務と仲がいいってことだけが自慢なんですよ」と。Windowsのような爺さんとの関係を持ち出されて、さぞかし迷惑そうな顔をするかと想像した私たちに対し、佐藤専務は目を細めてこう言った。「ほんとに?そんな風に、同期が僕のことを自慢に思ってくれるなんて、嬉しいなあ。仕事頑張ってきて良かったよ。そうか、あいつ、そんなこと言ってたか」と……。

さすが偉くなる方は一味違う。Windowsになる方も一味違う。

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