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ぼくらの100日モラトリアム(21/100)


86日前(8月1日・火)

病院で妊娠糖尿病の再検査。
再検査の説明用紙には「2回採血をする」と書いてあったのに、検査をはじめる前の空腹時の採血を含めて「3回採血をする」と説明され、思わず「3回も取るんですね…?」と口に出してしまう。しかし看護師さんに「3回は少ない方なんですよ~」となだめられる。

それにしても検査時にのむ甘いサイダーみたいな水が美味しい。これを美味しい美味しいと飲んでいる時点で何か問題があるんじゃないか、そんなことを思いながら美味しいなあとまた思う。
検査の内容はサイダーを飲んで一時間後に一回、二時間後に一回の採血をするのみなので、待合室でツムツムをしたり名付け本を読み進めたりする。
結果は後日出ると言われ、てっきり今日出ると思っていたのでとしょぼくれた。検査が陰性だったら帰り道にあるケーキ屋でケーキを買おうと思っていたのになあ。控えなきゃと思えば思うほど、甘いものが食べたくなる。

残念な気持ちで病院から出ると、雨の匂いと強い風が吹いている。
それでもメルカリで決済できなかった謎を解くべく銀行に寄り、しばらくサボっていた記帳を行う。クレカがおかしくないなら元の口座に何かあったのかと思ったけど、残高はちゃんとあった。ひと安心、していいのか?
家に着く二十歩前に豪雨が降り始めた。小走りで家に駆け込む。ケーキ屋に寄ったらアウトだったな……。

メルカリはその後、16時頃に試してみたらアッサリ買えた。いいねに入れていた金額が小さめのカーディガンだったのだが、そもそもそれを合わせるメインのワンピを、昨日まで使えるクーポンで買いたかったんだよな。
まあお金のトラブルがなかったならいいんだけどさ。

そういえば、エアリズムのマタニティレギンスを3本買ったのに、なぜか一本しか見当たらない。以前、夫のジム用スパッツと混ざっていたことがあったので、見てもらうも見つからない。
出勤時はパンツスタイルで休みの日しかレギンスを履かないので、買い足すか迷ってしまう。


85日前(8月2日・水)

仕事の引継ぎに関して、産休1ヶ月前までに出せばいいはずの書類を早々に出さない限り引継ぎをさせない、というわけのわからないことを組織から言われ、慌ただしく書類の作成を行う。組織って一体。
書類の提出を経て、改めて自社(だけなのかな?)の「一歳の誕生日前日までが育休」というしくみにイラッとする。 誕生日まで休ませてくれても良くない? そんなめでたい日に出勤開始とか、ヘイトしか発生しないと思うんだけどどうなの。

夫に妊婦特典の歯医者に行っていないのがバレる。どうせ近々引っ越すので、もし何かあってもその歯医者に通うようにはならないだろうし、行かなくても良いかな~と思っていたのだ。
しかし叱られてしまったので、明日口コミ調べて予約入れるか。

そして明日から、その引っ越し先である実家のリフォームが始まる。 いよいよ戻れない。戻る気は別に無くても、準備を急がないといけない。
ずっと覚悟はできていたつもりだったが、そろそろ私にも焦りが出てきた。


84日前(8月3日・木)

出社。地味に仕事が重たくて、コーヒーが飲みたい。自分でも粉末のカフェインレスコーヒーは準備しているけれども、店で買ったコーヒーじゃないと癒せない疲れもある。
そんなわけで、ランチの後、少し足を延ばして以前よく買っていたコーヒー店へ行く。メニューにデカフェのアイスコーヒーがあることは確認していたが、聞いてみたらラテにもできるということで、デカフェでアイスハニーラテを注文した。
デカフェに変更すると+150円の810円という価格になってしまったが、家庭用デカフェやカフェインレスコーヒーはいかにもな味すぎるから、たまにはいいよね。

会社に戻り、しぶしぶながら歯医者の予約をした。嫌なので早く終わってほしいから、明日の予約がとれる歯医者に決めた。前述の理由以外にも思うところがあり、本当に歯医者に行きたくない。

仕事帰りに新宿伊勢丹で期間限定開催中のソーシャルゲーム「A3!」コラボ展に行くか、上野駅で期間限定出店のブレッツェル専門店「Brezeria」に行くか迷って、ブレッツェルに軍配があがる。食欲の勝ち。
今日はランチも良い店に行ってしまったし、食欲に振り回された一日だった。


83日前(8月4日・金)

自治体のパパママ学級の予約をする。今まで何度も行こうとして、夫の出張の日程が二転三転していたので予約できていなかったのだ。
予約要綱に「予約は一か月前の一日から。先着順」と書いてあったため、そんな一か月前から申し込まなきゃいけないなら、もう空いてないかも……と思ったものの、ようやく出張の日程が確定したため、駄目元で問い合わせたのだが、9月分どころか、なんと8月分もまだ空きがあるという。そんなものだったのかと拍子抜け。

夕方、歯医者に行く。 虫歯があるかないかをひととおりぐるりと見られただけで、ものの数分で終わった。プリントには歯磨き指導だのなんだのとあったが、それは妊婦検診の範疇外らしい。「歯ブラシ持参」とあったから、わざわざ少し手前の薬局で新品の歯ブラシ買ってきたのに。

しかし解せないのは検査結果である。正直、シンガポールでコロナに斃れていたタイミングから、キンキンに冷たいものや、甘いものを思い切りかんだりすると沁みる場所があったので、絶対虫歯と言われると思っていた。
だから歯医者に行きたくなかったのに。でも、虫歯じゃないんだ?
以前別のところで受けた歯科検診で「君の歯はギリギリ虫歯になりそうでならない歯だね。気を付けてね」と言われたことがあるのだが、これもそういうこと? 虫歯じゃないってことは、むしろ治らないってこと……?

夜、夫と散歩に行く。こうして2人で夜に都心を歩けるのはあと何回くらいなんだろう。今しかできないのにと思っても、心身が付いていかなくなるくらいには腹が大きくなってきている。

腹ごなしの散歩のつもりだったのに、なぜか焼き鳥に寄ることに。
そこでは何となく、何か話題を見つけなきゃ、と思うタイプの沈黙が発生してしまう。気にならない時は全く気にならないその沈黙は、きっと何かの違和感を表しているんだろう。何の違和感なんだろう。

焼き鳥が到着し、食べている間はしゃべらなくていいことにほっとしながら、ただのカップルだったら別れ話の心配をするような空気だな、と思う。
お酒の入った夫が、引っ越し後の生活など、いくつかの心配ごとについてぽつぽつと話し始めた。変な空気はそのせいか。理由がわかればなんてことはない。この人、よくパンク寸前になるからな。

私はその心配に寄り添い、受け止め、時折茶々を入れるように自分の思ったことを言うだけだ。それは断じて建設的な意見でもアドバイスでも何でもない、無邪気な感想だ。それが私の役割で、私にはそれができて、逆に言えばそれしかできない。夫は私の意見を採用しないことも多いしね。
夫は「自分の行動こそが自分を体現している」という考えの持ち主だが、私は「行動に至るまでの過程こそが自分を体現している」という考えの持ち主だ。だから表向き、意見を変えるのは私になるけれど、必ずしもそれは私が意見を「曲げた」ことにはならないし、決して悪いことだとも思わない。

自分ひとりでは考えもしないようなことが起こる(たまに、それは本気の衝突になりうるけれども)、それは私が「誰かと共に人生を歩む」ということに対して、ずっと前から抱いている期待だからだ。


82日前(8月5日・土)

夫が「夏バテかもー」と言ってくるので、少しイラっとしてしまう。こちとら毎日体調が悪いんだが。
今日は定期検診。私は毎日体調が悪くとも、胎の中は異常なしのようでありがたい。ようやく頭が下になってきたとのこと。
恐れていた妊娠糖尿病の再検査は、陰性の結果が出てほっとする。

病院からの帰りのバスで、おばあさんとおじいさんに同時に席を譲られそうになる。慌てて二人を制し、見逃していた空席に座った。
おばあさんは「私は次で降りるのよ」と言って気兼ねなく私を座らせようとしていたが、私と同じく数個先の停留所で降りていた。おじいさんは次の停留所で乗ってきた、さらに高齢のおばあさんに席を譲っていた。ここは昔話のいいおばあさんといいおじいさんしかいない街か…?
自分が譲れる立場になったら、ためらいなく譲れる人になりたい、と強く思うが、席を譲ったり困ってる人に声をかけるのってそれなりのリスクもあるので、やはり生きるのは難しい。

バスを降りて、糖尿病検査の陰性祝いにアイスを2個買った。その日のうちに二個食べるつもりではなかったのだけれど、ついつい二つとも腹の中に収めてしまった。

最近続いている手の痛みはむくみなのかも、とようやく思いつき、改善を試みたいと考える。むくみが出るなら足しかないと思っていたので、完全にノーマークだった。単純に、体重が増えたせいかもとも思ったし。
今のところ足は大丈夫、と思って足を注視してみると、いつもより太い、ような気もする。けど、もともと足首がキュっとしまっていない大根足だし、やはり太ったせいでもあるような気がするし、判断がつかない。


81日前(8月6日・日)

夜寝るとき、試しにポケモンスリープでポケモンを引き寄せるおこうを使ってみる。引き寄せされたポケモンをサービスサブレでゲットしようと思うも、見当たらない……。
どうやら、昨日の昼寝が8月5日の初回眠り扱いとなっており、夜のは8月5日の二回目の眠り扱いとなるようだ。昼寝から起きた際、私はサービスサブレを使った。つまり、私はひと眠りにつき一枚のサービスサブレがもらえると思ったのだが、一日一枚しかサービスサブレはもらえないようだった。なるほど。

リフォームはもうはじまっているのだけれど、本日が本契約。
まず1時間ほどかけて実家に移動しなければいけないのだが、夫がギリギリまで起きてこなくてやきもきする。ご丁寧に朝ごはんの食器まで洗ってたけど、早く出た方がいいんじゃないかな。と思いつつ、口を出さない。なのに実家の近くまできて、やはり時間に遅れそうになったので「ああ〜これじゃ間に合わないかな、朝起きれなかったもんね〜」と、結局嫌味を言ってしまい、自己嫌悪する。ちなみにギリギリ2分前に着いた。
口を出さないと決めたのなら、最後まで出さないでいたい。

契約といいつつ、業者の人が到着してすぐにリフォーム作業中に出てきた疑問点や工事のポイントの変更点などを現場を見ながら確認することに。
その最中で私は久々に貧血のような感じでくらっと来てしまい、途中離脱して横になる。そのせいで、一番のキモである契約時にも立ち会えず、近くのソファーで寝ていた。

その後お昼ご飯を食べて少し回復、通っている産院の母親学級Zoomを夫と受講する。二人して「人体の神秘……」とことあるごとに口に出す。
また次週にもZoom受講するものがある。無痛分娩についての講座だが、これが予定が合わず一人で見ることになるかもしれない。夫はそもそも「無痛をやるかやらないかは私が決めることだし、なんならやればいいと思うし、俺はZoom講座を受けなくてよくない?」というスタンス。
言い分はよくわかるんだが、私はTwitterでよく炎上しているこの話題にひとりで向き合うのが嫌なのだった。

もちろん痛いのは嫌だ。産む立場じゃない人が、そんなの甘えだ痛みを感じて一人前だとか言い放つ意味も分からない。リスクはもちろんあるけれど、海外で主流なのも知ってる。でも、海外で主流だから!派のひとたちは、一度たりとも「何故、海外ではそれが主流なのか」までは教えてくれなかった。文化や慣習にはその場所場所に応じた理由が根付いているだろうに。ここはそことは違う場所だろうに。
そして、そんなの甘え派と同じく、今産む立場でないひとが騒ぐのも私には意味がわからない。なぜ君たちなら騒いでいいと思った?

以上の事柄から、私の無痛分娩への心証はめちゃくちゃ悪いのである。怪しい場所や人にむやみに近寄りたくない心情に近い。
それに加えて、こういう趣味を持った私である、「折角ならMAXを経験しておいた方が、のちのちネタになる……?」と思ってしまうのは悪い癖。

帰ると、瀕死の私に代わって夫がごはんの準備をしてくれる。大体そういう時、もう一方が片付けをするパターンが多いので、体に鞭打って動こうかと思っていると、なんと片付けもしてくれるという。
Zoom講座を受けていた時『産後は60%くらいの、まあいっかの精神が大切ですよ!』というくだりがあり、私がそれにうんうん頷いていると、夫が「あなたは普段が60%なんだから、もう少し頑張れば」と言った。それに端を発して「あなたの家事のここが雑だ・これが何回言っても治らないよね」などと軽く不満暴露大会が開催されて微妙な空気になったので、申し訳ないけど心づかいに驚いた。

夜ご飯のあと、義母に買ってもらったメロンを食べる。甘くて美味しい。 食べ終わると、お腹の張りを抑える薬を飲む。昨夜、腹の張りで何度か目覚めたような気がしたから。

羽生結弦の結婚相手、常々どんな人になるだろう、と想像していたけれど、まさかこんなに何も教えて貰えないとは予想だにしていなかった。ネットの悪ふざけでは、相手はプーさんだのスケートだの概念などと言われていたが「入籍」というからには生物学的に女、なんだろうな。
この流れが主流になれば、大谷翔平も藤井聡太も結婚相手を教えてくれないかもなあ、と思った。


80日前(8月7日・月)

前回の検診で「お腹がよく張るようになってきた」ということで薬が処方され、それを飲んでいるのにお腹が張りやすいのが心配。
出社しているとき、普段ならしない雑談や立ち話をすることが増えた。
単に育児情報が欲しいのか、もうすぐ社会から切り離されるのを恐れているのか、ライフステージのチェンジを新鮮に楽しんでいるのか。
ここのところ、急に「お腹が大きくなってきたね」と声を掛けられることが増えてきた。


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