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新製品情報&アイテムレビュー(2020 3/16)

折からの西風が窓に叩きつけ、窓枠のせわしない軋みが室内の空気をかき乱していた。本陣にしている空き家の柱が悲鳴を上げている。燭台の蝋燭が、隙間風に煽られて右へ左へと踊るのを、グルッソはただ見つめていた。

襲撃の準備は万端だった。北側の細い吊り橋を除き、四方の橋は全て落としてある。今や、メーゾルの町は丸裸だ。メーゾルはその高い防壁で外敵の襲撃を堪えてきたが、それも今日で終わる。この季節になると吹くこの風を待っていたのだ。町壁はしょせん木造りでしかない。空気が乾燥している中、大量の火矢と油で攻めれば、破ることなど容易いことだ。壁なくしては、町の守備隊ごとき、我が襲撃部隊の相手にはなるまい。グルッソは新品の胸甲に指を這わせた。名のある鎧鍛冶に作らせた、新たな甲冑である。

母を殺し、自分を森に捨てた連中への報復。この日のために苦しい日々を乗り越えてきた。自分と同じ境遇にある連中を集め、その頭へとのし上がった。地元のゴブリンを滅ぼし、ノールを追い出し、オーク部族は配下につけた。グルッソは今や、はなれ森の王なのだ。だが、今宵の戦にあって、グルッソは自分の胸につかえるものを感じていた。人間たちへの憎しみこそあれ、いざ襲撃の晩に、こんな気分になるとは考えてもみなかった。

「おれの親父も、こうしてメーゾルを攻めて、お袋を犯したんだ」

グルッソは思わずひとりごちた。結局自分は、自分の親父と同じことしかできないのか。その時、扉の向こうで鎧の擦れる音がした。扉が開かれ、側近のビートが顔を出す。

「おかしら、そろそろ時間です。黒牙の大将が、イノシシどもを早くけしかけたがってやすぜ」
「わかった。ビート、黒牙の野郎にはちゃんと伝えてあるな?」
「へい。お頭の仰せのままに。でも、わしらはともかく、黒牙の兵隊はオークですよ。我慢ができますかね」
「我慢させろ。もし犯ったやつがいたら、次の相手はオークになるぞ」
「わかりやした。お頭のことだ。どちらにしろ次の戦はオークと思ってやしたから。今回の戦で黒牙も数を減らしやしょう。ともあれ時間でさ。兵が待ってやす」

グルッソは立ち上がって盾を背負い、剣を腰に吊ると、本陣を出て兵たちの集う野営地へと歩き始めた。ビートはその後ろをひょこひょこと付いてくる。無数のかがり火と焚き火が、森の窪地にひしめきあっていた。そこかしこでハーフオーク特有のがなり声が入り乱れ、酒を酌み交わす光景が見て取れる。兵たちが出陣前の景気づけをしているのだ。グルッソの姿を見るや、兵たちは一様に杯を掲げる。彼らの目を見る限り、これから戦であることを忘れてはいないようだ。少し離れたところでは、オーク面の巨人があぐらをかき、兵たちに囃されながら大きな牛を頭から食っていた。先日の山狩りで仲間に引き入れた新顔だが、よく働いてくれそうだ。

「ビート、出陣太鼓を鳴らせ。街を取るぞ」
「ようがす。お頭の仰せのままに」

ビートは戦太鼓を担ぎあげ、独特の拍で打ち鳴らし始めた。手慣れたばち捌きで出陣の合図が響き渡る。焚き火が踏み消され、兵たちが隊列を組み始めた。流石の練度だ。そこには、精鋭のみがなしうる規律と統制があった。人間より強く、オークより賢いからこそ、ハーフオークは優れた兵たりうる。グルッソ配下のハーフオークたちは平民への略奪と女子供への暴行を堅く禁じられてきたが、その厳命が破られたことはほとんどない。違反者には、怖気を振るうような拷問と処刑が待っていたからである。今回の襲撃においても、この命令は守られるだろう。少なくとも、グルッソの兵隊は守るはずだ。ビートは自ら打ち鳴らす太鼓の音に紛れ、隣のグルッソに聞こえるはずもない言葉を口にのぼせた。

「でもお頭。おれらがいくらやっても、この世界から半オークは減りゃあしません。実際、お頭の下についてる兵隊はほとんど半オークで、こんなに数が増えちまってる。でもね。おれ、そういうお頭だから、下に付いてるんでやんすよ」

けたたましく鳴らされる太鼓を聴きながら、グルッソが空を見上げた。二つの月が雲に隠れつつある。夜襲にはちょうどいい。あと半刻もすれば、進撃が始められよう。

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今月2回目のリリースは、マーク・コペルストーンの手がけた、珍しいハーフオークのレンジと、ジョン・デネットの手による古の傑作、オーキッシュ・ジャイアントミルリトン(伊)で復刻された、今は亡きグレナディア・モデルズ(米)の遺産だ。復刻とはいえ、型は全てマスターモールドから作り直されているから、抜きの精度は抜群。

また、ミルリトンのオーナーであるステファノ・グラジーニのヘヴィメタルなアティチュードにより、ミルリトンのミニチュアは、全て鉛を含むホワイトメタル製だ。今日紹介するアイテムは以下の通り。商店でのリリースは明日の21時だ。それじゃあ、レビューと行こう!

ハーフオークの長と指揮部隊(4体)

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