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種族解説:リッチー

🔰序章&項目一覧

この世に生を受けし者に等しく訪れるもの。それが逃れえぬ死の宿命である。人間はむろん、彼らより遥かに長い寿命を持つドワーフやエルフでさえ、いずれは訪れる死から逃れる術はない。

不死への憧憬。それはこと人間たちの間で根強い。他の種族でも葬儀や供養の習慣はあるが、人間たちの編み出した葬祭文化たるや、他種族とは全く別次元の込み入りようだ。宗教や時代、地域ごとの差異こそ大きいが、多くの人々はいずれも死後の安寧のみならず、魂の転生や死からの帰還さえ信じている。

この暗き時代にあって、人の命は短く、また儚い。地域や文化を問わず、埋葬や様々な供養の祭礼が人の社会で発達してきたのは、死者を送り出し偲ぶ儀式の中で、やがて迎える自身の死をも見つめ、畏れ、恐れてきた側面があると言えよう。程度の差こそあれ、知的種族にはいずれも葬送や供養の文化があるが、野人を含む人間ほど、微に入り細を穿つ葬送儀礼を発展させた種族はない。

近年、文化文明の発展は著しく、さまざまな技術の発明や魔術の再発見も続いてはいる。それでもなお、ひとたび喪われた命は決して戻ってはこない。ただ一つの例外……禁忌の魔法体系「死霊術」の行使を除いては。

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宗派によって幾許かの解釈の違いこそあるが、人の信ずるところでは、命ある者が死ぬと、魂は肉体を離れ、此岸しがん彼岸ひがんを分かつ川を渡って〈冥界〉へと赴き、永遠に憩うとされる。一方、罪深き者は冥府の渡し船に乗ることができない。罪人らの霊魂は冥界の審問官によって川の流れへと投げ込まれ、最下流にあたる大瀑布目がけて流される。悪しき者らは死後の安息を得ることなく、深き淵の底たる〈奈落〉…すなわち地獄へ落とされるのだ。

多くの者が誤解していることだが、死霊術師や不死者らは、〈冥王〉とその御使、および〈奈落〉を治める〈禍つ神々〉と明白な対立関係にある。本来であれば〈冥王〉に仕えるか、〈奈落〉に堕すはずの亡者の魂を横領・・し、現世に繋ぎ止めるのだから、それも当然と言えるだろう。暗き記録を紐解けば、〈冥界〉や〈深淵〉から送り込まれた刺客と、死霊術師や不死なる君主らが暗闘を繰り返しているのだ。

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