見出し画像

89.地域包括ケアシステムはどうなるの?

2024年度の介護報酬改定が、結構、話題になりました。

特に訪問介護の基本報酬引き下げについてです。

今後はもっと人手不足が深刻化して、家族の介護や看護の為に仕事を辞めざるを得なくなる介護離職やビジネスケアラーが増えるということは目に見えています。

そして、ヤングケアラーの問題も拡大するでしょう。

先陣を切ったような形で、北海道の後志地方にある倶知安町の訪問介護事業所の閉鎖が話題になっています。

昨日、妻がこの話題をニュースで観たと教えてくれて、急遽、お勉強してみました。

私も2017年から2021年までこの地で生活していて、移動販売車の仕事をしていたこともあり、羊蹄山麓や日本海沿岸の町の状況を見ていたので、遂に…という感じです。

俱知安町内にあるニセコひらふの賃金高騰の煽りを受けて、倶知安町内の介護事業者が人材確保に苦しんでいます。

リゾート地区ではパートの時給が2000円ぐらいが普通で、重労働のわりに低賃金の介護職は敬遠されています。

その中で、訪問介護を行う事業所が求人を出しても人が集まらないで閉鎖しました。

今後も別の2事業所も閉鎖や統合を予定されていて、町内の利用を必要としている方々に動揺や不安が広がっています。

閉鎖したのは、後志地方で手広くやっている社会福祉法人が運営していた訪問介護などを行う事業所です。

同事業所では求人を出しても過去5年間、応募は0だったようです。

働くヘルパー(僅か5人)の高齢化も進んでいました。

更に追い打ちをかけたのが、ニセコ地域の賃金の高さです。

ニセコ地域ではコロナ禍で減少していた外国人客の集客が昨年から回復して、観光業を中心に人材獲得競争が激化しました。

コンビニや飲食店の求人は時給1500円前後が多く、リゾート地周辺では時給2000円近い仕事も珍しくない状況です。

ニセコバブルとも言われていますが、ニセコひらふでは、カツカレーが3200円、 屋台の天ぷらそばが3500円、味噌ラーメンが2500円など、外食の物価が異常な程に高騰していました。

1番、外国人客が増加する冬季のホテルなどの清掃スタッフの時給が2200円ですから凄いです。

コンビニや牛丼店でも2000円に近い時給です。

先述の社会福祉法人でも4年前にパートの時給を40円上げて1000円にしましたが太刀打ちできるわけがなく、賃金の高い他の職種に人材が流れていきました。

閉鎖した訪問介護事業所の利用者約20人は、既に町内の事業所2カ所に引き継がれました。

ただ受け入れた事業所でも人手不足の状況は変わらない状況です。

倶知安町の社会福祉協議会が運営する訪問介護事業所では、引き継ぎで利用者が8人増えましたが、ヘルパー人員は4人のまま変わっていません。

慢性的な人手不足で2年前に求人の時給を900円から1500円に上げても、1人も採用できていません。

その結果、影響は介護を受ける高齢者にも及びます。

ヘルパー不足から、訪問介護の利用が週3回の計3時間から週1回の1時間半に減りました。

先述の社会福祉法人は倶知安町では訪問介護の閉鎖に続き、就労支援事業所をグループの施設に統合する形で閉めたり、秋には認知症グループホームを閉鎖する予定です。

人手不足が理由です。

倶知安町内にあるもう1つのグループホームは既に満床で新たな受け入れは難しく、閉鎖する施設の入居者16人の受け入れ先は未定になっています。

そこにきて、訪問介護の基本報酬引き下げです。

訪問介護員(ホームヘルパー)の人手不足は、地方の人口流出の加速に繋がる可能性があります。

広範囲に点在する利用者宅をカバーしなければいけない地方の小規模の訪問介護事業者には経営体力が弱いところが多く、基本報酬引き下げの影響を受けやすくなります。

こうした事業所が倒産や休廃業に追い込まれれば訪問介護サービスの空白地帯が生まれます。

空白地帯にならなくとも、利用したいタイミングでサービスを受けられない困難地帯になれば結局同じことです。

こうした地区の住民は在宅介護の可能性が消滅します。

一人暮らしの高齢者は増加傾向にあり、頼れる家族や親族がいないという人が増えていくのは随分前から言われてきたことです。

空白地帯や困難地帯で訪問介護サービスを不可欠とする人は大都市に引っ越ししないと生きていけなくなります。

働いている人も高齢だし、面倒を見てもらう人も高齢…という状況です。

今の時代は人手不足は介護職だけではありません。

俱知安町では観光業に関係する時給が上がったことで、 倶知安町全体で人手不足が加速しているようです。

また、リゾート開発によって地価が急激に高騰した結果、家賃も上昇しました。

それも、人口流出による人手不足の要因になっています。

今回は極端な状況の倶知安町の話題を挙げながら訪問介護について見てきましたが、全国の訪問介護事業所の4割弱が赤字経営だということです。

その中で、厚生労働省は4月から訪問介護の基本報酬を引き下げました。

その為、今後はますます閉鎖する事業者が増えると予想されています。

場所によっては、介護保険料を支払っているので、本来、いろいろなことを選択できるべきのところを、現状では選択できないで希望のサービスを受けることもできない状況になってきています。

福祉サービスが少ないことで、地方から大都市に転出する人も増えます。

介護や障がい者の福祉サービスは、地域生活の為に不可欠なものになりました。

倶知安町と同じような現象は全国的に起き得る大きな問題です。

厚生労働省は、2025年には介護職が32万人不足し、2040年には69万人が不足すると予想しています。

一方で2022年からは、新規就労者よりも退職者が多く減少に転じました。

その大きな原因となっているのが、やはり、介護職の賃金の安さです。

全産業平均と比べると月7万円近く少ない状況です。

国や自治体の財源が限られているのはわかりますし、簡単に解決できる課題ではないのもわかります。

でも、介護保険料を払っているわけで、受けたいサービスを受けられないという事態は避けたいものです。

そして、訪問介護の空白のしわ寄せは家族にいきます。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などは利用料の高いところが多いので、誰でも入居できるわけではありません。

現在、介護者629万人のうち有業者は365万人で、介護者の過半数が仕事と介護を両立させているビジネスケアラーです。

介護や看護の為に離職した人は、2022年は10万6000人(男性2万6000人と女性8万人)です。

2017年の前回調査の9万9000人と比較して7000人も増加しました。

経済産業省は、2030年に介護者が833万人、ビジネスケアラーが318万人になると予想しています。

基本報酬の引き下げによってホームヘルパーの不足が加速すればビジネスケアラーのうち介護離職に転じる人が増えると考えられます。

就業構造基本調査ではビジネスケアラーが介護者に占める割合を年齢階級別でまとめており、男女ともに50~54歳(男性88.5%、女性71.8%)が最も高くなっています。

50代前半と言えば管理職や責任ある立場に就いている人が多い年頃です。

その年代が介護離職に追い込まれたら、職場はもとより社会全体にとってもかなりの痛手になります。

経産省は介護離職の増加やビジネスケアラーになることで労働総量や生産性が低下して、2030年には約9兆1800億円の経済損失が発生すると試算しています。

そこに基本報酬の引き下げによる訪問介護の弱体化という要素を加えると、経済損失額は更に膨らみます。

厚生労働省の介護政策の軸が定まっていないということがわかります。

厚労省は当初、高齢社会の到来に備えて特別養護老人ホームなどの施設の整備を進めましたが、利用者の急増に追い付かないことで入所待機者の激増を招くと、施設介護から在宅介護へのシフトという方針転換を図りました。

そこで打ち出されたのが地域包括ケアシステムです。

老後も住み慣れた地域で暮らし続けられるように医療や介護のみならず、自治体や地域住民などの協力で24時間体制のケアを行うという構想です。

しかし、理想と現実の乖離は大きく、充分に普及しているとは言えない状況です。

それどころか、人口減少で地域社会の維持自体が危ぶまれる場所が多くなり、担い手不足で将来の展望が描きづらくなってきました。

地域包括ケアシステムの建て直しを図らなければいけない局面にある中で、中心的役割を担ってきた訪問介護サービスの基本報酬を下げですから…厚労省が地域包括ケアシステムを否定したような形です。

間もなく、団塊の世代の全員が75歳以上になります。

そんな中で厚労省がブレブレの状態ですから、このままでは日本は機能不全になるかもしれません。

すべての人がいずれは要介護状態になり得ます。

空白地帯や困難地帯では、元気なうちに親族がいる都市部などに移り住む予防的な動きも多くなると思います。

これからの地方創生にとっては、在宅介護の態勢がどれだけ充実しているかが大きな要素になります。

国がそれを諦めると言うのであれば、医療と介護の大都市集約型しか方法がないのかもしれないと考えたところで、本日の ふくしのおべんきょう を終了にします。

中途半端なことを続けていると、おそらくダメージばかりが大きく残り、悪循環しか生まないのかなと思います。

写真はいつの日か…、倶知安町の ニセコひらふ から撮影した羊蹄山です。

この記事が参加している募集

SDGsへの向き合い方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?