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イッキューパイセン 晩夏の嵐編

 ピカッ! ゴロゴロゴロ…!!
 激しい雷鳴が轟き、雷光が荒ぶる龍のごとく夜天を駆け巡る。
 雨粒が屋根を打つ音は絶え間なく、風は幾度となく建物を軋ませている。

 山腹に佇む古い山寺、その本堂中央で禅を組むのは屈強な一人の僧侶。
 名をイッキュー。親しいものも親しくないものも初見も古参も民も王も皆彼を「イッキューパイセン」と呼ぶ。
 年齢経歴不詳。しつこく聞くと負傷。トラックはふそう。

 彼は日中「原価85円なのに200円でから揚げ売るとかぼったくりじゃね?自炊でよくね?」と触れ回った乱痴気者を高温の油で揚げたため高まったままとなっていた闘気(1981000パワー)を鎮めるために禅を組み精神を整えていたのだ。

 ピカッ! 
 稲光が本堂に差し込み、刹那。
 
 ガラゴロガシャーン!!
 落雷!

 近いな、とパイセンは目を開け、違和感に気づく。
 目を閉じたときと同じ闇が眼前に広がっている。
 
 ──停電か。

 パイセンはすくっと立ち上がったが、特にできることもないのでまた横になって眠りに落ちた。


 ───翌朝。
 パイセンは日課の「朝の時代劇 星雲仮面マシンマン」を観ようとリモコンのボタンを押すがTV画面には自身の顔が映るのみだ。
 まだ停電は続いているようだ。

 麓の町に赴くと、多くの作業員や関係者が復旧作業にあたっていた。
 挨拶をしてくる彼らを手で制しパイセンが散歩を続けていると、進行方向から二頭の馬が走ってきた。
 先頭の馬上の身なりを見るに、それなりに立場のある武士だろう。
 その供回りらしき下級武士が後ろに控える。
 すれ違った直後、パイセンの背後から罵声!

 「まだこれだけしか復旧しておらんのか!何をしておる!不眠不休で作業に勤しまぬか!」
 先ほどの上級武士の声だ!

 「いやしかしこの暑さと人数ではなんとも...それに規定時間外の労働分はお給金をいただいておりませぬ」
 人足頭が答えると上級武士激昂!
 「貴様今なんと申したか!」
 やおら抜刀!

 「ひぃぃぃぃぃ!!!」
 人足たちの悲鳴!

 「仕事に対するプロ意識が足りない!」
 上級武士の意識高い系説教だ!
 「さようにございます!」
 下級武士がすかさず同意!

 「給金分だけ働けばよいというのではなく、給金以上の仕事をするのがプロであろう!」
 根拠ゼロの謎理論だ!
 「さようにございます!」
 下級武士がすかさず同意!

 「困っている者たちのために働くという崇高な精神があれば、2日や3日寝なくても大丈夫なはず!」
 根拠ゼロの精神論だ!
 「いやさすがにないわ」
 下級武士ごく小さな声でつぶやく!

 「いやそんなこと言われましても...」
 人足頭は食い下がる!部下思い!

 「口答えするか貴様ーッ!」
 刀が振り下ろされる!
 人足頭を斬ってしまえば作業はますます遅滞するのがわからないのか!
 
 「グワーーーーッ!」
 悲鳴!
 人足頭のものではない! 武士の悲鳴だ!

 刀が人足頭を袈裟斬りにする寸前、割って入ったパイセンは鋼鉄化させた拳で武士の拳を痛打、刀を弾き飛ばしていたのだ!

 上級武士は痛みの残る拳を気にしながら問うた。
 「無礼な!何奴だ腐れ坊主が!」

 「俺はイッキューというものだ」
 パイセンの即答。

 「あっ」
 下級武士が短く声を発し上級武士へ囁く。
 「やめたほうがいいっすよ 死ぬ案件ですよこれ」

 「貴様怖気づくか!それでも武士か!侍か!臆病風に吹かれるのであれば今すぐ帰るがよい!」
 よくある帰れ系説教だ!
 「じゃ、そうします」
 下級武士帰宅!

 小さくなっていく馬の背に上級武士は叫ぶ。
 「本当に帰るやつがあるか!」
 
 「おのれ...明日にでも殿にチクってくれる」
 そう毒づくと上級武士はパイセンを睨みつけた。
 「公共工事を邪魔立てすると死罪ぞ!」
 
 とりあえず死をちらつかせとけばいいという安易な脅しに屈するパイセンではない。
 この男にとって死は与えるものであって与えられるものではないからだ。

 「いいか、人足頭を斬ってしまってはそれこそ作業が進むまい」
 パイセンの正論! 略すとパイ正論!

 「ぐぬぬ...確かにそうだ。では今の無礼は見過ごしてやるとしよう。」
 馬上から偉そうな態度継続! 

 「それに、もうひとつ俺に考えがある」
 「何?」
 パイセンの言葉に眉をひそめる上級武士。

 
 「不眠不休で作業しているかどうかを見張る監督官を置くというのはどうだ?」
 パイセンの唐突な提案!
 「えっ」
 「そんな」
 「パイセンあんまりっすよ」
 人足たちも狼狽!

 「ほう、なかなかに良い考えだ。さっそく殿に進言するとしよう」
 上級武士が邪悪な笑みを浮かべる。

 「いや、城に戻る必要はない」
 パイセンが静かに語る。
 その顔を直視した武士の乗馬が恐怖に慄く!

 「ヒヒーーン!!」

 大きく嘶き武士を振り落とし走り去る!
 「こ、こらメイショウパワハラ!どこへ行く!」
 聞く耳持たず!明日への疾走!失踪!

 パイセンは尻餅をついた武士に歩み寄り見下ろすと、地獄の閻魔のような声で告げた。
 「監視役はお前だ」

 「なっ...」
 武士驚愕!
 「たった一人で何日も不眠不休の監視などできるわけがなかろう!」
 豪州的投擲狩猟武器だ!

 「もう許さんぞ!無礼討ちにしてくれる!」
 地面に転がった刀を手にし斬りかかる!

 「破威矢ーーーッ!」

 刃が届くよりはるかに早くワンインチ・パンチが武士の胸板を直撃!
 「グボーーーーッ!」
 真後ろに5m41㎝ほど吹っ飛び後頭部痛打! 失神!


 武士が目を覚ますと、作業現場を見下ろす櫓の上、正座した状態で柱にくくりつけられていた。
 「こっ...これは! 何をする離さぬか! 拙者にこのような...」
 すぐ真横に腕組みをして仁王立ちするパイセンに文句を並べたてる!

 「ちゃんと作業を監視しろ!イヤーッ!」 殴打!
 「グワーッ!!」

  ~2時間後。
 「あまりに暑すぎる。水をくれぬか」
 「ちゃんと作業を監視しろ!イヤーッ!」 殴打!
 「グワーッ!」

 ~6時間後。
 「zzzzzzzz」
 「寝ずに作業を監視しろ!イヤーッ!」 殴打!
 「グワーッ!」
 
 ~20時間後。
 「......」
 「死なずに作業を監視しろ!イヤーッ!」 殴打!
 「グワーッ!!」

 作業は三交代制でおこなわれ、40時間後に無事全地域が停電から復旧した。
 
 「最後に作業員を労え!イヤーッ!」 殴打!
 「グワーッ!」

 
 【おわり】 
 
 

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