拒否拳
202X年12月20日──。
クリスマスに浮かれるニューアークの街とは対照的に、国際連立機関、国連の議事場は重苦しい沈黙と緊張感に満ち満ちていた。
「全ては西側諸国が我が国を貶めるために仕組んだ陰謀に過ぎない!このふざけた茶番劇を直ちに中止し、真の悪党がどこのどいつなのか明らかにすべきだ!我々の正義の鉾は誰であっても折ることはできない!いいか!誰であってもだ!」
喚き立てたのは短く刈り上げた短髪と逞しい体つきが印象的な中年男性。
その胸には『SEEVELIA』と書かれたプレート。
そう、彼はシーベリア社会主義共和国連邦、通称シーベリアの国連大使、トニー・カーク・ボコスノスキーだ。
ボコスノスキーは発言後すぐに周囲を見渡し聞き耳を立てる。
拍手の音はまばらで、各国の大使はその多くが眉を顰めている。
彼は不満を隠そうともせず、どっかと椅子に座り腕を組み、天井を見上げて大きくひとつ息を吐くと議長席を睨みつけた。
「では決を採ります」
議長であるアステカ生贄最高帝国大使が口を開いた。
「今回のシーベリア連邦の軍事的侵攻に対しての制裁決議について……」
「拒否拳だ」
議長が言い終えぬうちにボコスノスキーが口を挟んだ。
議場全体が大きなどよめきに包まれる。
「本気ですかあなた?」
腰を浮かしてボコスノスキーに詰め寄ったのはトップモデルのようなスタイルを誇る金髪の女性。
常任理事国のひとつであるオーフ・ランス共和国大使、ジェンヌ・パリ・オッサーレ。
「あなたたちのやり方を支持しない国がどれだけあるかわかってるの?この人数を相手に勝てるとでも?」
オッサーレが続けてまくしたてるが、ボコスノスキーは腕組みを崩さず、彼女に向き直りもせずに答えた。
「無論、本気だ」
両者のやりとりに気圧されていた議長はようやく我に返る。
「きょ、拒否拳発動につき、棄拳国を除く両陣営は直ちに代表の選出に入ってください!」
ボコスノスキーの背後の一席からドラゴンの仮面を被った拳法着姿の男が跳躍し、音もなく彼の真後ろに着地する。
「先鋒を頼めるか、中原功夫人民共和国の猛者よ」
「元よりそのつもりだ、同盟者よ」
男は仮面の奥で静かに答えた。
【続く】 (891文字にもなってしまった)
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