イッキューパイセン 平成最後SP
「強盗だ!金を出せ!レジ開けろ!!」
―――2019年4月30日23時55分。
都内某所のコンビニに野太い男性の声が響き渡る。
男は黒のフルフェイスヘルメットで頭部を覆い隠し、午前1時過ぎに子連れでドン・キホーテに行く父親が着るような、趣味の悪い刺繍の入った上下の黒ジャージ姿。
しかし何よりも目立つのはその手に握られた黒光りする拳銃、ベレッタ社のM9だ。
銃口はしっかりとホールドアップした店員に向けられている。
恐怖に震えながら店員はレジを操作、カウンターに数十枚の紙幣を置くと強盗はそれを空いた手で鷲掴みにしてジャージのポケットに放り込む。
だが、まだ逃走しようとはしない。
「店にあるgoogle playカードも全部レジで決算しろ!くそったれ、何がピックアップだ!ふざけんな畜生!」
馬鹿な!盗難されたカードで課金などしようものなら瞬く間に端末が特定されアカウントが破壊される!
もはや正常な精神状態ではない!店員は恐怖に怯えながらもカードを回収すべく移動する。
しかし、プリカ売り場にはしゃがみ込んで何かを唸っている一人のスキンヘッド男性がいた。
いや、スキンヘッド男性ではない、この男は僧侶だ。
店員は即座に気づいた。
【情けは人のためならず】【一宿ワンパンの恩】【きちんとピックアップが機能していないので★1です】【このレビューは参考になりましたか?】などの禍々しい経文が紫の袈裟に刺繍されていたからである。
(お、お客様...)
か細い声で店員は僧侶に呼びかけ、事態を把握してもらうことに努めようとする。
しかし僧侶は、どのプリカを購入しようか悩んでいるようで「どーれーにしーよーうかな」と呑気に歌っているありさまだ。
「うぉいゴルァ坊主!邪魔だコラとっとと出ていきやがれ!」
状況を認めた強盗が怒鳴り散らす。
「やれやれ、うるさい店だな」
僧侶は男のほうを振り返ることなく立ち上がる。
「おいテメェ聞いてんのかこっち見ろ!」
再度強盗の罵声。だが僧侶に全く動揺は見られない。
ゆっくりと振り向くと、静かに呼びかけに答える。
その声に含まれた、静かだが激しい怒気に強盗が気づくことは無かった。
「おいヘルメット野郎、もうすぐ令和になるな」
バイザーを貫くような視線。
強盗は一瞬たじろいだ様子を見せるが、すぐに銃口を僧侶に向け怒鳴り散らす。
「それがどうしたってんだ!これが見えねぇのかクソ坊z」
強盗が言い終える前に僧侶は素早く右腕を振った。
「おわっ!なんだこれ!」
バイザーに何かが付着し、強盗は狼狽!
僧侶の手にあるのはコーヒーコーナーのクリープ容器だ。
これを砂かけ婆めいて投擲、視線を遮ったのだ。
「令和になるってことはな、”平静”でいられなくなるということだ!」
僧侶は一声吠えて突進、強盗の顔面に残影拳めいた肘打ちを叩き込む!
「グワーッ!」
ヘルメット粉砕!顔面陥没!失禁!失神!
僧侶は拳銃を拾い上げると店内のゴミ箱へ無造作に投げ捨て、もはや言葉も届かないであろう強盗に対し、背を向けたまま語り掛けた。
「今は銃連休の真っ最中だろ」
【おわり】
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