私の王子様
──6月11日午後2時10分。
閉め切ったはずの雨戸の隙間からは、僅かな陽光が大路姫子(おおじ-ひめこ)の部屋に差し込んでいた。
見もしないのにつけっぱなしのTVからは、ワイドショーの司会が政府の失態を批判する声が聞こえていた。
布団から身を起こし、部屋の照明をつけ、母親が置いて行ったコンビニのレジ袋に手を伸ばす。
鮭…ツナマヨ…あー、明太子はやめてって言ったのに。
器用に包装を剥がし、かぶりつく。
枕元にあるスポドリのペットボトルを手にし、流し込む。
ゴミ袋に入りきらなくなってきたぶんがモアイみたいに一列に並んでいる。
高校に行かなくなったのはいつからだろう。
確か1年の...…いや、思い出さないようにしよう。
姫子はボサボサの髪を無造作に後ろでまとめ眼鏡をかけると、TVの方へと向き直る。
話題は国会議員の汚職問題から、閑静な住宅街での殺人事件に移っていた。
彼女は画面をじっと見て「え?」と一言発し、もう一度じっくり見て、今度は言葉を出すことができなかった。
番組はレポーターからの中継に変わる。
「はい、こちら▼▼市◆◆です。こちらのすぐ近くの路上で被害者の遺体が発見されたということで、ただいま警察による現場検証がおこなわれている最中となって...…」
「嘘...…マジ!?」
やっとのことで絞り出したような声が出た。
「遺体には数十か所の.......があり....…ですが周辺の....…脱走などの情報はなく...…」
本当なんだろうか。
チャンネルを変えてみる。
同じ事件のニュースが流れている。
本当に本当なんだろうか。
SNSをチェックしてみる。
事件のことがトレンドになっている。
夢じゃないんだろうか。
洗面台で顔を洗う。
ニキビだらけの顔が鏡に映る。
きっと夢の中で願ったことが現実になるあれだ。
予知夢ってやつだ。
ネトゲ三昧の徹夜明けでろくに考えがまとまらない。
姫子は残りのおにぎりを平らげると、毛布を被ってすぐに寝息を立てる。
どこからか嘶きが聞こえてきた。
【続く】
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