75年ぶりの挑戦者《チャレンジャー》
エドモンド・ハンクマンは時間通りにやってこないスクールバスが大嫌いだった。
待ち合わせに遅れるガールフレンドが大嫌いだった。
指定日に届けないネット通販はアカウントを削除した。
規則的なものが好きだった。
水飲み鳥の動きを何時間も眺めていられた。
仕組みを知ろうと父親の時計を分解したこともある。
やがて彼は、求めるものが空にあることを知る。
太陽、月、そして無数の星々。
天文学、航空力学にのめり込み、大学で共同研究者に選ばれ、NASAへの推薦を受けた。
『世界で一番エアコン効かせてる土地』ヒューストンの夏はクソくらえだったが、クリスマスの夜は暖かい。
でも、一緒に祝うはずだった妻は「パスタ茹でる時間なんてどうでもいい」と怒鳴ったきりオハイオの実家から帰ってこない。
電話から37分してようやく届いたサラミのピザを、この日のために買ったシャンパンで流し込む。
暖炉の上に飾られた1枚の写真に目をやる。
尾を引き夜空を駆ける彗星が収められたものだ。
75.32年。目印など何もない宇宙の闇を飛び続け、またこの星にやってくる。
まさに浪漫だ。こんな素晴らしいものがあるだろうか。
空になったグラスにシャンパンを注ごうとしたとき、電話が鳴った。
「メリークリスマス、こちらハンクマン」
「メリークリスマスミスターハンクマン、緊急招集です」
招集?どういうことだ。
センター長の家に腐った七面鳥を贈ろうと言ったのはジョスのはずだ。
テキサス州ジョンソン宇宙センター。
「サプライズには派手すぎやしませんかね」
彼が知らされた事実は2つ。
正体不明天体の異常接近予測、並びに同天体が発信先と予測される信号の受信。
解読結果にはこうあった。
「This is 1P/Halley, I won't miss it this time.」
<続く>
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