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自壊予告

 窓の外から子供の声が聞こえる。
 楽しそうだ。
 窓の外から花火の音が聞こえる。
 見に行きたい。
 窓の外からバイクの音が聞こえる。
 うるさい。
 
 広川祐樹は自身が受験生であることを理解している。
 雨戸を閉め、扇風機の風量を1段階上げ、問題集に目を落とす。
 
 雨戸の外から子供の声が聞こえる。
 うるさい。
 雨戸の外から花火の音が聞こえる。
 うるさい。
 雨戸の外からバイクの音が聞こえる。
 うるさい。うるさいうるさい。

 救急と警察に通報があったのは翌日の午後。
 広川祐樹は机に突っ伏した状態で事切れているのを家族に発見された。
 だらりと下げた手に握られていたのは、血と肉、そして毛髪がこびりついた卸し金。
 頭部の上半分が滅失していた。

 
 城京線黒坂学園駅2番ホーム。
 堂島絵里はスマホ画面を睨みつけている。
 ウザい臨時全校集会の帰り。
 既読がついてから既に10分経過。
 返信があった。

 ごめん、いけない
 は?なんで?
 親戚の集まり
 なにそれ
 出ろって言われて
 あたししってるんだけど
 なに
 2年のヒトミでしょ
 もういい
 もういいってなに
 
 それきりだった。
 は?何?アタシは何なの?何なの何なの??
 
 構内アナウンスが流れる。
 《2番ホーム、特急列車が通過します。白線の内側──》
 ごう、という爆音と共に、目の前を特急「出逢」が駆け抜けていく。
 彼女はスマホを持った手を下ろし、無表情で前を見つめると、静かに白線の内側へと歩みだし、まるで窓の外の景色を眺めるかのように、躊躇いなくその顔面を電車の側面へと押し付けた。


 2日連続の全校集会にならなくてよかったなーと思いつつ、『アタシ』はグループLINEを眺める。
 受験のストレス、違う。
 恋愛関係、違う。
 校長の言うことは的外れ、みんなが知ってる。
 でもみんなが知らないことがたったひとつだけある。
 実はアタシだけ、まだ”アレ”を見ていない。

 <自壊へ続く>

 
 
 
 
 
 
 
 

 

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