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CULLEN THE TRANSPORTER EXTRA STAGE #5

前 回

 「ハイーッ!」
 「イヤーッ!」
 気合とともに振り下ろされたシミターを半身で避けると、A・Kはショートソードを握ったままの右拳をアサシンの顔面にぶち込んだ。

 「これも戦よ、許せ。ナム80000大暴落!」
 正面を睨みつけたまま謎の言葉を叫び他のアサシンを牽制し、足元に倒れこんだ敵の顔面をストンピングで踏みつぶす。
 ゴキッ。
 妙な音がしてアサシンAはそのまま動かなくなった。

 只者ではない雰囲気を察したか、A・Kに2人がかりで対峙する暗殺者。
 そりゃそうだろう。誰だってこんな奇妙奇天烈仮面とタイマンなんてまっぴらごめんだ。
 
 そんなことを考えているとこちらにもアサシンが1人! 
 シミターが振りかぶられる!
 丸テーブルをひっくり返し盾代わりにすると共に視界を塞ぐ!
 ダンッ!
 しかしアサシンは立てたテーブルの縁を足場に跳躍!
 ────私の狙い通りに。

 ドスッ! ドスドスッ!
 飛んできたショートボウの矢がアサシンの肩口、脇腹、太ももに突き刺さる。
 「ぐふっ!」
 短い嗚咽を漏らして体勢を崩すと、満足に受け身も取れぬまま別のテーブルに落下した。
 まだ息はあるようだが戦闘続行は不可能だろう。
 飛び道具持ちのいる状態で滞空時間の長い跳躍をするとこういう無様を晒すことになる。
 夫婦喧嘩の際、飛び蹴りを試みた父の被撃墜率は100%だった。 
 
 私は矢の飛んできた方向、王子を名乗る不審エルフの方を向いて親指を立てる。
 うわ、ウインクしてきた。顔が良くてもそういうのはダメ。

 店の反対側では一方的な暴力の嵐が吹き荒れていた。
 A・Kはすさまじい速さで突き出されたシミターの刃を脇に挟み込むと、上腕と胸部の筋肉に力を込める!引き抜けない!

 やはり今回の刺客は三流だ。とっとと得物を諦めればいいものを、必要以上に固執してしまう。
 「許せ。私に落ち度はないが許せ。」
 なんだかとんでもなく意味不明な物言いが聞こえたような気がした次の瞬間、赤い鼻長面の冒険者は大きく上体を反らし、暗殺者の鼻っ柱をめがけて強烈な頭突きを叩き込んだ!

  「グぼッ!」
 夥しい鼻血をまき散らしながら、もたれかかるように前方に倒れこむ。
 ──残り2人。

 が、戦闘はそこまでだった。
 その残り2人が顔を一瞬だけ見合わせるなり、脱兎のごとく店から逃げ出したからだ。
 「追わなくていいのかい?」
 カウンターに立った王子が私に問う。
 「どうせ下請けの下請けみたいな奴らよ。尋問したところで多分何もわからないわ」
 あっという間に小さくなっていく背中を見ながら答える。
 
 王子は口調こそ軽かったものの、私と同じように敵を見据えたままで、ショートボウの弦は限界まで引き絞られていた。
 やっぱりこの2人、今までのドッペルとはちょっと違ってる。

 一方A・Kは......どうやら活動限界を迎えたらしく、丸イスに腰掛け、両腕をだらんと下げたまま微動だにしない。
 これじゃあ剣闘士じゃなくて拳闘士じゃないか。
 赤い面はいつの間にか外れており、無造作に床に転がっていた。

 「終わったわよ」
 ぽんぽんと肩を叩くと、せわしなくまばたきをしたのちに顔を起こした。
 「あれ...?」
 何が起こっていたのかわからないようなリアクション。
 この手のアイテムのお約束か、装着時の記憶は失われているようだ。
 かえって幸運だと思う。
 王子のほうを振り返ってみると、両肩をすくめて手の平を上に向ける。
 うん、黙っておこう。

 店の外に出て周囲を再確認した後、目的地である王都ヴァレリアの方角を見やる。
 大きな日輪が山あいに沈んでいく。
 衛視への引き渡しや報告もある。
 おそらく今日はここに泊まることになるだろう。
 明日からの旅のことに思い至り、私は少しだけ口元をゆがめ、苦笑いを浮かべた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ───数時間前。
 王都ヴァレリアより北数キロの地点にある古城、その大広間。
 すっかり装飾の剥げ落ちた玉座に腰掛けるのは豪奢な礼服に身を包んだ浅黒い肌、痩身の男性。長い耳は彼がダークエルフであったことの証だ。
 顔立ちや年齢は判然としない。
 彼がまるで天日に晒された柿のように干からびていたからだ。

 外は真昼間だというのに、大広間は日の光一筋すら差さぬ完全な闇であった。
 その闇から若い女性の声が聞こえてくる。  
 「日中だけ活動して、陽が沈めば”ろぐあうと”すればいいというのは素敵な考えだったとは思うけど、ごめんなさぁい。そういうのはもう、対策済みなのよねぇ...ウフフフフフフ......」
 女性の笑い声に呼応するかのように、古城のありとあらゆる窓を外側から覆っていた黒い塊が蠢いた。
 数億、いや数百億かという蚊の大群であった。

 
 【続く】
 
 
 
 
 
 
     

 
     
   


 
   

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