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GloBEを踏まえたCFC税制抜本見直し私案 ー経産省研究会報告書を読んでー

昨日公表された経済産業省の研究会報告書「最低税率課税制度及び外国子会社合算税制のあり方について」を読んだ。

この手の研究会の性質上やむを得ないのだろうが、委員のそれぞれの立場(納税者、学者)からの意見が総花的に並んでいて、(個々の意見には面白い点が多々含まれるものの)誤解を恐れずに言うとそもそもの軸がよく見えない印象が残った。

そこで、最低税率課税制度(GloBE)を踏まえて外国会社合算税制(CFC)をどうすべきなのか、大胆にも私見を述べてみたいと思う。

尚、OECDのPillar2で合意されたGloBEルールや日本のCFC税制の内容の説明は割愛するのでご容赦頂きたい。

1. GloBE対象グループと非対象グループで、適用するCFC税制を同じにするのか

まず議論の最初の入り口として意外にも非常に重要なのはこの点。

研究報告書では今後の検討事項とされているが、これ次第でCFCの改正としてできることは全く違ってくる。なぜなら、GloBE対象とならない企業グループにも同じCFC税制を適用するのであれば、そのCFC税制だけで必要な租税回避防止措置をカバーしておく必要があり、自ずとGloBEを前提とした大幅な簡素化・範囲縮小は難しくなるからである。

研究報告書にもあるようにGloBE対象にならない程度の規模の企業グループに租税回避の実態があまりないのであれば割り切ってしまうという考え方もあるとは思うが、ちょっと受け入れ難いように感じる。

個人的には、GloBEを踏まえてCFCを大胆に見直すという観点から、GloBE対象グループと非対象グループで適用するCFC税制は別ものとし、GloBE対象グループ用CFC税制を創設し、GloBE非対象グループには既存のCFC税制を適用すべきと考える。但し、GloBE非対象グループでもGloBE(IIR)+GloBE対象グループ用CFC税制の選択適用が可能、という形がよい。

これによって、次の議論に進むことができる。

2. GloBEとは別にCFCとして課税すべき所得は何なのか

CFC税制の見直しの方向性として、研究報告書では、CFC適用判定の会社数が多すぎるとか、経済活動基準が実態に即さないので廃止・見直しを等々、個別の論点が出てくるが、その前に整理すべきなのは「GloBEがある中で更にCFCとして課税すべき所得は何なのか」である。それはもちろん、GloBEでは捕捉できない租税回避的な所得ということにならろう。

具体的に想定されるのは以下の①~③。

① 所得単位で軽課税となっている受動的所得
まず、これは外せない。特にGloBEは国別ブレンディングで、高税率の事業所得の中に低税率の受動的所得を潜り込ませることも出来得るので、軽課税の受動的所得の捕捉は必要。

② GloBE所得とならない所得
GloBE所得から外されている所得の内、日本の法人税法では課税所得としている典型的なアイテムは別途ピックアップする必要があると思われる。典型的には株式譲渡損益と10%以上25%未満出資の受取配当金等か。

③ 所在地国外関連者との取引所得
ここは悩ましいところ。研究報告書の中でも、経済活動基準を廃止するなら受動的所得の拡充が必要として、関連者間の国外仕入れ・国外販売のような取引の所得が挙げられているところである。米国のSubpart FでいうところのForeign Base Company Sales/Service income的なものだろうか。確かに米国でも、引き続きGILTIとは別に捕捉される形になっている。

ということで、③はちょっと悩ましいが、これらを追加的に捕捉しに行く制度としてCFCを設計すればよいだろう。

3. GloBEと既存CFCの諸々の取扱いの差異は全てGloBEに統一すべき

とにかく問題なのは、GloBEと既存CFCで拾ってくる数字の範囲や内容が異なることによる事務負担と想定外の課税。一方、研究報告書にもある通り、GloBEはコモンアプローチであり日本独自に修正することはできない

なので、CFCとして課税すべき所得は課税できるようにしつつも、CFCで扱う数値や基準はGloBEに合わせに行くべき。少しでも差異があると事務負担は激増するので、とにかく徹底的に統一すべき。具体的には以下の通り。

① 対象Entityの範囲はGloBEの範囲と同一とする(=連結財務諸表の子会社)。

② Entityごとの経済活動基準は廃止。実体に基づくカーブアウトはGloBEのSBIEに一本化。

③ Entityごとの租税負担割合は計算せず、GloBEルールに基づく国別ブレンディング及び実効税率計算をそのまま受け入れる。

④ 2で掲げた所得以外の所得についての低税率の基準値を15%とする。

以上により、既存CFCの全部合算の制度はGloBEに置き換えられ、事実上、不要となる。特に重要なのは②で、ペーパーカンパニーや経済活動基準を満たさないEntityの全部合算制度は必要なのではないかという議論はあるが、逆に、如何に実体があったとしてもSBIEのカーブアウトを超える所得は課税されるわけで、ここはバーターとして決着させる。

これによりCFC税制はエンティティアプローチとは決別することになる。

尚、これによって捕捉できない所得があると考えるのであれば、④の最低税率(というかGloBEの最低税率)を引き上げればよい。17%でも18%でもいい。最低税率の引き上げの方が経済活動基準やペーパーカンパニーのルールを残すよりよほどマシではないか。

4. CFCで課税すべき所得をどのように捕捉する制度設計とするか

ここまできてようやく、具体的にCFC税制で課税すべき所得をどう課税するかの制度設計である。

まず問題になるのは、2で挙げた所得の 内、①所得単位で軽課税となっている受動的所得と、②GloBE所得とならない所得について、実効税率をどう計算するか。国別ブレンディングの税率をそのまま使うわけにはいかないので、残念ながらCFC独自の制度としてこれらの所得に係る実効税率計算ルールを規定するしかないだろう。

但し、極力GloBEで収集するデータを利用できるようにし、またデミニマス基準を設ける等で事務負担を軽減することが望ましい。また、受動的所得の範囲はGloBEのPassive incomeに合わせるべき。

その上で、一定税率未満であれば日本で合算課税&外国税額控除ということになる。この外国税額控除で控除する税額は、実効税率計算の分子を合わせることが望ましい。(或いは、トップアップ課税方式でもよいのかも知れない)

改めて悩ましいのは③の所在地国外関連者との取引所得。もちろん個人的には③は導入せずGloBEでの課税で満足して欲しいところではあるが、日本として必要ということであれば、CFCの個別制度として設計することになる。

5. 最後に

以上が私のイメージである。

実際のところ、本邦CFC税制は平成29年度に抜本的改正を経たばかりであり、そこからわずか数年でまた抜本的改正を行うというのは、現実的にはしんどいかも知れない。私自身も、ある意味慣れ親しんで知見も溜まっているCFC税制が変わってしまうのは有り難いことではない。

とはいえ、BEPS以降、複雑化が続く国際課税制度はもはや異形の化け物になっており、そろそろ真剣に本気の簡素化を考える必要がある。その観点から、既存のCFCは一旦忘れて、GloBEを前提としてオントップでCFCとしてやるべきことを必要最低限の制度として設けるという気概が必要なのではないかと思う。

ということで、こんなnoteが日の目を見ることはないだろうと思いつつ。。


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