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ようこそ!を言ったらすきな町になった。

「あなたの住んでいた町に行ってみたいな。」

大人になって知り合った友人たちと、次の旅の計画を立てていると、
仲間の一人が、”私の地元”はどうかと提案した。
ほどよい距離感でちょうどよいその場所に、「いいね!」が飛び交い、旅先は私の生まれ育った町になってしまった。

特に否定する理由はなかったが、内心はドキドキしていた。
こんな田舎に来て何が楽しいんだろう…。

学生時代、逃げるようにふるさとを出てきてしまった私は、生まれ育った町をあまり知らない。
苦い思い出の詰まったこの町を誰かに案内する日が来るとは思っていなかった。

「せっかく来てもらうのだから、楽しい思い出にしてほしいな。」

他の観光客がするように、地元の名所を調べていく。
知らなかっただけで、十二分に楽しめそうな場所であることにほっと胸を撫で下ろす。
一つずつリストアップしながら、友人たちの喜ぶ顔を思い浮かべて旅を考える。

当日は雨模様だったけれど、楽しい旅を終えることができた。
育った町に友達がいるなんて。
少しこそばゆかったけれど、自分の生まれた場所を知ることができて嬉しかった。

家の近くを通りかかると、ちょうど雨が上がっていた。
せっかくだから少し歩こうか?と声をかけエンジンを切る。
車を降りた友人たちが駆け出し、おもむろにカメラを取り出す。

何の気ない山間の風景に何があると言うのだろうか?

写真を撮っている友人たちの姿が面白くて、思わず追いかけた姿を納めてみた。

「何が面白いの?」と声をかけると、
「あなたの育った町なんだなと思うとなんだか嬉しくて。連れてきてくれてありがとう。」
思いがけない言葉に驚きながら、嬉しい顔を隠すように友人たちの横に立つ。


今まで数え切れないくらい見てきた景色が一瞬にして大好きな町に変わった。
たまにはこんな旅も悪くない。


おわり。

Photo ふみ
Words ひがしめぐみ

noteを書くためのネタ体験代(記事諸経費)に充てさせていただきます。無駄遣いしないよう是非見ていてください…ありがとうございます!