アイルランド・ブロックチェーン・ウィーク(3)知識集積都市への転換
ダブリンで開催されたブロックチェーン・ウィークをヒントに、アイルランドの国際競争力について考察するシリーズ。
航空機リース産業
アイルランドは航空大国である。航空機リース産業の分野では、2017年時点で世界トップ5社のうち、実に3社がダブリンに本部を置いている。
租税条約の見直し
これらの優位性の中でも、アイルランドが世界72か国以上と二重課税協定を締結し、法人税12.5%という魅力的な投資環境を提供してきたことは際立って重要な要素であった。
こうした投資環境から、航空機リース産業のほか、巨大デジタル産業がアイルランドに本社を置いていた。
だが、デジタル法人課税には見直しの機運が高まっている。
ブロックチェーン産業への影響
デジタル法人税の見直しが行われると、アイルランドの競争優位の一つが制約を受けることになり、デジタル産業の誘致をめぐる環境は変化する。
ブロックチェーン産業はデジタル産業であるから、その誘致においては新しいデジタル法人税ルールが適用される可能性がある。
こうした状況においても、競争優位を保つことはできるか。
銀行からイノベーションを発信する
アイルランド・ブロックチェーン・ウィークの期間中には、銀行のイノベーション・スペースでもイベントが開催された。
窓枠に鉄格子が嵌められているところを見ると、銀行の支店であった施設をリノベーションしたのであろうか。
イベントには銀行関係者をはじめ、政府機関、アカデミア、ブロックチェーン産業のエンジニアなどが集まり、活気に溢れていた。
知識集積都市への転換
アイルランドがデジタル産業の誘致において競争優位を維持できるかどうかは、先端知識を有するエンジニアが移住してくるような魅力を発揮できるかに依存するだろう。
ブロックチェーン産業のような新規分野では人材育成に時間を要する。ダブリンの大学にはブロックチェーン技術者養成のためのマスターコースが開設され、人材育成にも積極的な姿勢を見せている。
多岐専門分野にわたる人材
金融立国から技術立国へと緩やかに軸足を移しながら、イノベーションのハブとしての地位を固めていくことが、おそらくアイルランドが採るべき選択肢の一つであろう。
そして、アイルランドは法務の分野でも英語による紛争解決を行うための環境が整っている。デジタル産業に属する企業の本部が置かれたことは、法務知識の蓄積をもたらした。
こうして、技術、法律、金融の多岐にわたる人材の厚い層が形成されていく。いちど身に着いた知識は、誰からも奪われることはない。生産力の基盤として大地に根付く。
アイルランドの空
英国がEU離脱で揺れ動くなか、アイルランドは大国のはざまにあって独自の発展を遂げている。
ブロックチェーン産業という新しい分野において、しかも、新しい国際ルールのもとで、どのような戦略をとるのか。
これからのアイルランドが楽しみである。