見出し画像

徳成按典當業展示館 --- マカオのカジノと質屋の関係性

煌びやかなマカオの夜景を彩るのは、奇抜なデザインで威圧感を放つカジノ群である。その足元には、カジノを支える周辺産業がある。カジノを陽とするならば、質屋を意味する典當業は、マカオの発展を陰で支える縁の下の存在だった。

リスボア

かつてマカオ半島がカジノ産業の中心地であったころ、リスボアはマカオを象徴する建物であった。現在は、埋立地のコタイにもカジノが林立し、マカオ半島とコタイに勢力が分散している。

画像1

マカオ南部のコタイ地区やタイパ島から、橋を渡ってマカオ半島へと向かうと、やがてリスボアの建物が目に飛び込んでくる。その威容は、昔から変わることはない。

典當業

カジノの営業にとって欠かせなかったのが、カジノでの賭け金を融資してくれる典當業すなわち質屋であった。リスボアの周辺にも、大通りに面して典當業の店舗が立ち並んでいる。

画像2

押の一字

典當業の店であることを示すのが『押』の一字である。蝙蝠のシルエットに屋号と『押』の文字が掲げられ、典當業であることが一目でわかる。

画像3

徳成按

典當業は常にマカオの発展と共にあった。その歴史にふれることができるのが、典當業展示館である。実際に質屋として営業していた『徳成按』の建物が展示館となっている。

質屋博物館

かつての質屋「徳成按」(美徳と成功の質屋)は1917年にマカオの裕福な商人高可寧によって設立されました。建築デザインと間取り、室内装飾と建物の装備は当時の中国本土の質屋と非常に似通ったものであったと考えられます。

沿革
新馬路の一番端には、もともと質屋だった建物があり、質屋が展示場になっています。質屋業界は歴史のある産業であり、近代的な銀行システムが確立される前は、質屋業界はマカオをはじめとする中国各地の住民の日常生活の重要な一部でした。この建物は1917年に完成し、徳成按と呼ばれていました。建物全体が防火、防水、盗難防止、および盗賊防止のために設計されています。(抄訳)


画像4

登記簿

展示台には、民国6年の登記簿が置かれている。1911に6を足して、1917年の創業であることを示す。「按・押」はいずれも典當業の種別を指す。

画像5

「當」「按」「押」

典當業の業態区分については、「當鋪 – 生存之秘」なるページに書かれているところに従うならば、おおよそ次のとおりである。

このページは、香港の歴史研究家の手によるものと察する。このため、香港の典當業史を基本とした解説である。

かつて、典當業は資本の大小や営業範囲の広狭、期間の長短や利息の高低に応じて、「當、典、按、大押、中押、小押」に分類されていた。民國時期の香港では「當」のサービスは提供されず、その後も、両岸三地(注:中国大陸、香港、台湾の三地域。これにマカオを加える用語法もある)では「當」のサービスは提供されなかった。

「當」「按」「押」のうち,「當」は經營資金および規模が最大で,期間は最長で3年;「按」は經營資金および規模が「當」に比べて小さく,期間は最長で2年,月利息は「當」と同様で,借入銀1両ごとに3分銀を収め;「押」はすなわち經營資金および規模が三者の中で最小であり,期間は最長で4個月である。

質草の保管棚

建物の二階と三階には、質草を保管するための倉庫の棚が残されている。

画像6
画像7

金庫の群れ

典當業が貸し出すのは現金であるから、一階奥の倉庫には、大小さまざまな金庫が置かれている。小さく切った窓には鉄棒が嵌め込まれている。

画像8
画像9

ジャンケット

かつて、カジノの賭け金を貸し出すのが、もっぱら典當業であった。だが、近年は「ジャンケット」と呼ばれるカジノ仲介業者が、VIP向けの融資を手配するようになった。

カジノはVIP向けに賭け金を融資し、ジャンケットはカジノから賭け金の額に応じた手数料を受け取る。ジャンケットはVIPを連れて来るのでカジノにとって魅力的だが、手数料の高騰がカジノの経営を圧迫する。

カジノの利益

「ジャンケット」の台頭がカジノの利益を圧迫する構図については、下記の記事が詳しい。

ところで、この記事には、謎の「女性ギャンブラー」なる人物が登場する。

「リスボア」で大負けした後、パリジャンにやってくるとツキが回ってきて

パリジャンはコタイ地区にあって、エッフェル塔のハーフサイズのレプリカが目印である。カジノの客よりも、記念撮影をする観光客の姿が目立つ。

コタイ地区は華やかにして無機質である。

画像10
画像11

コタイ地区

埋立地のコタイ地区には、見渡したところ典當業の店は見当たらない。最寄りの典當業は、おそらく隣接するタイパ島の旧市街にある。

コタイ地区は人工的に計画された大規模リゾートであって、マカオ半島のような下町の営みとは無縁である。

リスボアの城下町

マカオ半島の路地を歩いていると、至る所からリスボアの姿を臨むことができる。カジノ産業に従事しない住民にとって、それは単なるランドマークに過ぎないだろう。

だが、カジノが街の中心にあって、大通りには典當業が並ぶという風景は、もはやマカオ半島の原風景の一部となっている。路地裏を歩き、リスボアの姿を異なる角度から仰ぎ見て、そんな印象を強くした。

この街には、カジノの城下町としての顔がある。

画像12


画像13

Photos by H.Okada in Macau