見出し画像

ブロックチェーンは説明可能な概念か。

ブロックチェーンという言葉の定義をすらすら言える人にはあまりお目にかかったことがない。それもそのはずである。ブロックチェーンという言葉は未定義語なのだから。複数あるブロックチェーン業界の団体が定義を示しているが、これらは私案であって共有された定義ではない。テクニカルタームの定義というのは、国際標準化団体の活動スコープの内にあるから、技術の標準が確立すれば定義も確定する。だが、これまでのところ、国際標準化団体からブロックチェーンの定義が示された様子は見られない。標準化活動は長い年月を要する地道な作業なのだ。

これだけ話題に上りながら、ブロックチェーンという概念は曖昧なままである。そのことが、ブロックチェーンという言葉を自由に扱うことを許してしまう。大学人にとっては、ブロックチェーンという概念をいかにして正しく伝えるかというのは、大いなる挑戦である。法学の講義で資金決済法の仮想通貨という用語を解説するためには、仮想通貨の構造を説明しなければ始まらない。だが、仮想通貨の構造を解説するのは容易ではない。分散型仮想通貨の代表格であるビットコインは、サトシ・ナカモトと称する謎の人物が書いたとされる論文に、その基本的な概念が解説されている。これが、唯一の手掛かりである。

いまやブロックチェーンは改良を重ね、サトシナカモト型のプロトタイプを改善した新型のブロックチェーンが提案されている。だが、サトシナカモトが提案したプロトタイプこそがブロックチェーンの原型であり、その理解なくして改良型の良さを理解することはあるまい。ブロックチェーンという技術の用途は仮想通貨だけにとどまることはなく、アセットの転々流通という表現に適したあらゆる分野への応用が試みられている。そうした可能性を議論するためにも、あるいは可能性を否定する根拠を探すためにも、避けて通ることができないのがブロックチェーンの構造への理解である。

かくして、サトシナカモトが示したブロックチェーンの原型であるビットコインの駆動部分を講義で解説するのだが、これが実に説明に適していないことに驚かされる。要素技術のどれをとっても枯れた技術の寄せ集めでありながら、絶妙な組み合わせによって想定外の機能を発揮する。しかも、技術を組み合わせただけでなく、そこに技術者のボランティア精神による参加というリベラルの要素と、経済的誘因に惹かれてやって来るマイナーによる採掘への参加という要素が組み合わさっている。ある暗号学の大家は、ビットコインは欲望と暗号の同行二人、と論じる。まさに言い得て妙である。

誰もが匙を投げたくなるビットコインの駆動部分の解説だが、じっくり読めば理解できる図書はいくつか登場している。要素技術をすべて知っている専門家のための図書から、要素技術の一つ一つを丁寧に解説するものまで、前提知識に応じて図書が選べるようになった。それでも、文字の平面で説明できることには限界もある。今般、Eテレの科学番組『サイエンスZERO』のスタッフから、模型とグラフィックでブロックチェーンの構造を映像化するので、番組の構成に協力してもらいたいとの依頼があった。完成した映像は、おそらく現存するブロックチェーンの映像資料の中では、もっともわかりやすいコンテンツの一つであろう。

番組名は、サイエンスZERO「カガクの“カ”#5 仮想通貨&ロボコン直前」である。本放送は2018年6月3日に放映された。

Photos by H.OKada at Asia-Pacific Blockchain Conference Venues