独裁者 小学校編 6話
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正義と制覇が公園で別れる時、二人はある約束をしていた。
その約束は
一つ、学校では接触しない。
二つ、一週間後のこの時間帯にこの公園でまた会う。
というものだった。
正義は必死だった。
約束を破らないために必死で我慢をしていた。
そして現在。
全ての授業が終わりクラスの全生徒がホームルームの終わりの瞬間を待ちわびている状態だ。
しかし、その中でも正義が一人だけ異様なオーラを発していることに周りのクラスメイト達は間違いなく気が付いていたと思う。
元木がその異様なオーラを感じとり「大丈夫か?正義?具合でも悪いのか?」と心配して声をかけて来るが正義はただ一言「大丈夫」と返すだけだった。
元木も諦めたのかそれから正義に話しかけることはなかった。
正義の我慢は限界に至る寸前だった。
しかし、その我慢もこのホームルームが終われば……。
「終われば公園に……一週間ぶりに制覇話せるんだ‼」
前回制覇を尾行し、その後公園で話し合ったあの日からちょうど一週間たっていた。
「ようやく、制覇と話が出来る」
この一週間は正義にとって我慢の連続だった。
制覇の上履きが鬼頭たちに隠されてから正義は制覇の動きをすべて監視していた。
どの様にして制覇が鬼頭たちに仕返しをするのか、その瞬間を逃さないように制覇を監視し続けたのだが……。ついにその仕返しの瞬間が来ることはなかった。
それどころか、制覇に対する鬼頭たちのいじめは日に日にエスカレートしていったのだ‼
机へのラクガキや持ち物の紛失、破壊などなど古典的ないじめの回数と悪質度が徐々に増していった。
その幼稚ないじめの方法が正義のイライラを増幅させる原因の一つにもなっていた。そのいじめを目にするたびに心の中で正義はこうつぶやいた。
「餓鬼!」と‼
けど、そんなことは些細なことで正義のイライラを増幅させた一番の原因はただ一つ……。
「なんでやり返さないんだ‼」
正義はいじめられたまま何もしない制覇に最も腹を立てていた。
正義はあまりにイライラしたので何度もルールを破りそうになった。
「オレを黙らせたときみたいに首にカッターナイフ押し付けてやれよ!それだけで鬼頭たちならもうちょっかいだしてこないだろ‼」
この言葉を何度も心の中で呟いていた。
正義は我慢できなかったのだ。
自分が認めた人間が……。
自分が初めて対等だと思えた存在がいじめにあっていることが……。
まるで自分がいじめにあっている様な感じがして嫌だったんだ‼
正義が色々なことを頭の中で考えていたそのとき。担任である京子先生が最後の言葉を発した。
「はーい!じゃあ、ホームルーム終わります。皆さんさようなら‼気を付けて帰ってくださいね‼」
ガラガラ!ガタン‼また明日ね‼バイバーイ‼
教室中に椅子を引く音やカバンを持つ音、生徒たちの声が響き渡った。
その音の中で1人だけ音もなく教室から出ていく生徒が一人いた。
正義だ。
正義は走っていた。約束を交わしたあの公園を目指して走っていた。
「ようやく!ようやく!制覇と話せる‼」
クスクス。
教室に響くにぎやかな音の中に小さな笑い声が混ざっていた。
クスクス。クスクス。
その不気味な笑い声を出す生徒は音もなく席から立ち上がりゆっくりと教室から出ていった。
方向は正義とまったく同じ、ただ速度は全くの正反対。
ゆっくり、ゆっくりと歩いて制覇は……小さな独裁者は公園へと向かっていった。
読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。