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『HELL・ラ・ラ・LIFE』:1話 地獄の朝は遅い

【前回の話】

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 地獄の朝は遅い。いや、そもそも朝なんてない。地獄には夜というものが存在しない。

 起きていたければいつまででも、起きていられる。しかし、大抵の奴は自分の中で時間を決めて活動する。

 そうしないと『頭』がおかしくなるからだ。

「朝だ~~! 起きろ~~‼ 朝だぞ、キッド‼」

 にもかかわらず、朝だと言って俺を起こそうとする奴がいる。

 そいつはパタパタと音をたてながら、俺が寝るベットの上を飛んでいた。

「いつまで寝てんだ! 馬鹿野郎‼ さっさと起きろ!」

 言葉使いがかなり悪くなってきたので、そろそろ限界だと思い重たい体をベットから起き上がらせた。

「はぁ~~おはよう。ネコ先生!」

 ネコ先生と呼ばれた生き物が、ベットの上にちょこんと降り立った。

 見た目はネコその物なのだが、猫には無い付属品がいくつか搭載されているのだ。

 まずは、先ほどベットの上を飛び回るのに使われていた羽。天使のようなきれいな羽ならよかったのだが、あいにくここは地獄である。

 黒くてところどころ棘のようなものが飛び出している。悪魔の羽が猫の背中についている。

そして次に尻尾。 元からネコには尻尾があるのだがどういうことかネコ先生の尻尾はふわふわしていない。こちらも見事な悪魔の尻尾になっている。

 そして、耳の横に角が生えている。この角は羽や尻尾ほど目立っていない。理由は分からないが、両の角は折れていて毛で半分以上隠れているから……。

 そんな見た目はネコだがパーツはしっかり悪魔のネコ先生が親切なモーニングコールをしてくれたというわけだ。

「腹減ったからそろそろ起きろ!」

 親切なモーニングコールを……。

「分かったよ……」

 あくびをしながらベットから立ち上がって窓を開ける。むわっとした暑い空気が部屋の中に入り込んできた。

「すがすがしい、朝だな~」

 ネコ先生が羽をパタつかせて、わざと生暖かい空気をこちらに飛ばしてくる。

 眉間にしわを寄せながら、じ~~とネコ先生を睨みつける。

 その顔を見てネコ先生は懲りずにまた言葉を重ねてくる。

「へへへ、すがすがしい朝の顔だな!」

 悪魔に眼を飛ばしてどうにかしようと考えていた、自分が悪かったと諦める。小さな溜息を吐いた。

「はいはい、いい朝ですね」

 改めて外の景色を見る。地獄に来てから繰り返し見てきた、変わらない最悪の景色がそこにはあった。はぁ~~先ほどより大きな溜息が勝手に口からこぼれ出た。

 キッドが住むのは『ヘル・マンション』というマンションだ。マンション自体の高さは百階建て。キッドはその中の44階の4号室に住んでいる。

 地獄の建物は基本的に高い物が好まれる。理由は簡単で高ければ高いほど地獄の地面から放たれる熱から逃れることができるからだ。

 キッドが住む44階ですら蒸し暑さを感じるのだ、地面の熱さは言うまでもないだろう。

 全員が高いところに住んでいるのかと言えばそうでもない。高い部屋の数は限られている。要するに、強いヤツらが高いとこに住む。 

 地獄とはそういう世界だ。

 形だけの空気の入れ替えを済ませ。脱衣所へ向かう。後ろの方からパタパタと羽音をたてながらネコ先生もついてくる。

「今日もまた派手に爆発してるな~」

 キッドの跳ね上がった髪を見ながら、ネコ先生が感心しながら言う。

 何か言い返してやろうと考えたが、鏡に映る自分の姿を見てやめた。実際、すごい髪形をしていたからだ……。

 そのには爆発でもしたのか? と思えるようなぼさぼさの髪の毛とだぼだぼのジャージを着た自分が立っていた。

「ライオンの鬣の方がまだ大人しいんじゃないか?」

 ネコ先生はニヤニヤしながら、キッドをからかうことをやめようとしなかった。

「さっさと、歯を磨け!」

 苛立ちを隠さずに乱暴に歯ブラシを掴み、ネコ先生に突き出すようにして渡す。

「お~~怖い怖い」

 セリフと顔を一致していなかった。ネコ先生の顔はニヤニヤしたままだった。

 ごし! ごし‼

「…………」

ごし! ごし‼

「…………」

 少しの間、歯ブラシが動く音だけが響いていた。

 キッドがチラッとネコ先生の方に視線を飛ばすと、ネコ先生は手ではなく、長い悪魔の尻尾を巧みに使い歯ブラシを器用に動かしていた。

(何度見てもこれだけは感心するな……。どうなってんだ……尻尾?)

「カぁッッぺ‼」

 派手な音をたてながらネコ先生は歯磨きを終えた。その姿を冷めた目でキッドが見つめている。

「なんだ? 俺のキュートさに見惚れてるのか?」

「絶対ない‼ それは、絶対にない‼」

 キッドは、ねこ先生の言葉を速攻で否定した。しかも、二度も‼

 隣で媚をうったポーズをしながらネコ先生がアピールしてきたが、キッドはガン無視して歯磨きを終わらせた。

 終わった後も媚売りポーズをつづけながら後をついてきたが、キッドはそれもガン無視した。

(見た目が猫なのが卑怯なんだよなぁ~~!)

 キッドは心の中でつぶやきながら、リビングへと移動するのだった。


【続く】

読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。